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第ニ章
第46話 公園
しおりを挟む俺は、デパートの宝飾品売り場で戊家のブラックカードを取り出した。
「ここから、ここまで全部くれ! 」
引くほど驚く店員に、ニンマリするストーカー・アイドル。
俺は、初めて指輪を買う為、緊張しまくっていた。
凍りついた空気の中で、1人の勇気ある拭き掃除大好きな店員が声を発した。
「お、お客様……」
「はい! 何ですか? 」
「このカードは、ここでは使えませんよ」
「えっ!? 」
俺はショウケースに置かれたブラックカードをよく見た。
すると、TUTA◯Aのマークがカードの表に描かれていた。
あれ……これって、里にいた時、陽奈と瑠奈がアニメを見たいと言うのでDVDをレンタルした時に作ったカードだ。
しかも、クレジット機能が付いてないやつ……
マジかーー!
緊張しまくって、別のカードを出してしまった……
俺は慌てて財布を探り、例のブラックカードを探す。
しかし……ない……
そうだ! 瑠奈が機材を買うというので預けたままだった……
店員さんが、気を使いながらくすくすと小さな声で笑っている。
俺の隣にいるストーカー・アイドルは、腹を抱えて大笑いしていた。
俺の顔は、今、夕焼けの太陽のような顔をしてるだろう。
それか、トマトか?
そんな事を考えている場合ではない。
今更、後には引けないしここで踏ん張るしかない。
「すみません。この水色の宝石のついた指輪を下さい」
「はい、アクアマリンですね。これだけでよろしいでしょうか? 」
「はい……」
「サイズは? 」
「9です」
「こちらも9号となっております。お直しは必要なさそうですね」
店員は、笑いを堪えて包装をしている。
早くこの場から逃げ出したい……
「29800円です。消費税をお入れして32184円となります」
俺は、財布から朝刊配達のバイトで稼いだ33000円を払う。
「カードではなく、現金ですね」
カードネタを会話の中にブッ込んでくる拭き掃除大好き店員さんは、奥のレジで精算していた。
隣でまだ、笑っているストーカー・アイドルは、
「ひぃーーー苦しい~~。過去1ウケたよ~~ひぃ~~もうダメ! 」
もうダメなようだ……
店員さんがお釣りと指輪を入れた小さくてお洒落な袋を持ってきた。
俺は、それを受け取り逃げるようにその場から離れたのだった。
◇
デパートを出て、急ぎ足で駅に向かう。向かうは反対口の壬 静葉の家だ。
だが、俺の後をストーカー・アイドルは、まだ、ストーカーしていた。
「おい、まだ、ついて来るのか? 」
「ひぃーーあんたの顔見ると思い出しちゃって、ひぃ~~死ぬ~~」
死ぬそうだ……
「もう、俺に関わらないでくれよ」
「あ~~ダメ。こっち向かないで! 」
笑いながらついてくるストーカー・アイドルは、新ジュク駅に着くと
「私、帰るね。あんたのせいでお腹が痛いし、いいもの見せてもたったから指輪は勘弁してあげる。またね」
勝手に病原菌扱いしてやがる……
「もう、2度と会いたくないよ」
俺は、ストーカー・アイドルを見れば、今日の事を思い出してしまうだろう。
こんな記憶は、即効で封印しないと……
改札を潜ったストーカー・アイドルを見もせずに、俺は高層ビル街へと向かった。
壬の住むマンションに着き、エントランスで呼び鈴を押したが返事がない。
俺は、スマホで連絡を試みると、電源が入ってないようで繋がらない。
「連絡を入れてから来ればよかったな」
俺は、近くの公園のベンチに座り、空を仰ぐ。
まだ、お昼にもなっていない。
仕方ない。ここで一寝入りするか……
ベンチに寝転がって時間を潰す事にした。
そのうち、壬も帰ってくるだろう。
目を閉じて、少しの間、秋の陽気に身を任せた。
◆
「あ~~遅れそう」
私は、篠崎 友紀。27歳 独身よ。
蒼山川学園高等部1年1組の担任です。
今日は、学生時代の友人の結婚式に出席する為、急いで会場に向かっています。
遅れ気味なのは、仕事の残務整理が山ほどあり、寝不足の日々がたたって今朝は寝坊してしまったのです。
「全く、時期外れの転校生が2人も来たり、入院騒ぎをする女子がでたり、最悪なのは、クラスの生徒の悪事がネットに晒されて10名近い生徒が自宅謹慎になるなんて、ついてないわぁ」
山ほどの残務と今朝の寝坊の原因は、自宅謹慎になった生徒の扱い方だった。
中には、明らかに犯罪行為と認められる動画が流され、その子達はこのまま自宅謹慎の後、退学処分となる予定だ。
イタズラ程度の生徒は、関係各所に一緒に謝りに行って事なきを得た。
自宅謹慎が開けたら通常通りに学校に来られるだろう。
その仕事を今週中に何とか終わらせて、寝不足の日々が積み重なってしまったのだ。
おまけに、今日、結婚する友人は、仲の良いグループの中で私に何かとライバル心を抱いていた子だ。
きっと、彼氏がいない私に自分の晴れ姿を見せたくて、わざと招待したのがミエミエだった。
だから、私はきちんと「結婚、おめでとう」と言うつもりだ。
これは、悔しがってのことではない。
私の意地なの。
ちっとも羨ましくないわ、という意思表示でもあるのよ。
大人の女性として、余裕のある対応をしてあげる。
「あなたのような子供じゃないのよ。私は」というアピールだ。
「えっと、11時からだったわよね。でも、神前結婚式なんてあの子に似合わないわ」
目的の神社はもう直ぐだ。
この公園を抜ければ、直ぐ着くはず……
「あっ!! ハイヒールの踵が折れてしまった……」
転ばなかったのは運が良いが、少し足を捻ったようだ。
でも、大丈夫なはず。
こんな経験、女性なら何度もあるわ。
今までの経験上、大したことはないと思っていた。
だが!靴はどうしようもない。
「困ったわ……」
ベンチに腰掛け、靴の状態を見る。
踵が根元から『ポキッ』と折れている。
「接着剤で応急処理すれば、何とかなるかな? 」
スマホで確認してコンビニがあるか探す。
「この先の大通りに一軒あるみたい」
ベンチから立ち上がろうとしたら、さっき捻った足が痛む。
「えっ本格的にやっちゃったかな? 」
この痛みは捻挫のようだ。
「もう、最悪! 」
少し大きな声を出してしまった。
周囲を確認すると、目の前のベンチに浮浪者らしき人物が寝てるだけだ。
まだ、若そうだけど、学生なら学生らしく、社会人なら働きなさい!
そんな事を考えてる余裕はない。
式には、まだ、ギリギリ間に合うはずだ。
私は、足の痛みを我慢して立ち上がろうとした。
折れた靴はそのまま履いている。
足の痛みと長けの違う靴のせいでバランスを崩してしまった。
「キャッーーと、と、と……」
それでも何とか片足てケンケンするようにして崩れたバランスを元に戻そうとしてたら、目の前のベンチに突っ込んでしまった。
「キャッーー! 」
突っ込んだ先には、若そうな浮浪者が寝ている。
私は、その腹部めがけてダイブしてた。
◆
「う~~ん、なんかうるさい女が現れたな……」
少し寝ようと思っていたら、陽気が気持ちがよくて本格的に寝られそうな気分だ。
ウトウトしてたら、前のベンチにうるさい女が座ってブツブツ独り言を喋っている。
陽気がいいからなぁ……
頭の陽気な人が増えても仕方ないよね。
俺はスウェットのフードを目深に被っているが、更に口元まで引き寄せた。
何か前のベンチの女が本格的にヤバそうだ。
デカい声を上げ出した。
今日は、ついてないなぁ……
指輪を買おうとしたら、変なストーカー・アイドルに邪魔されるし、壬の家に行けば留守だし、おまけに、公園のベンチでのんびりしようと思ったら前のベンチに秋の陽気にあてられて頭の陽気な女が現れるし……もう、最悪だ。
その時、突然「と、と、と」というリズムカルな声が響く。
そして、俺の腹部に誰かがダイブしてきた。
『ぐえーーっ』
腹を押されて生まれてこのかた声に出したこともない声が出た。
まさか、頭のおかしな女は、敵のクノイチ!?
だが、殺気がなかったが……
「わ~~すみません」
鍛えているから、痛みは殆どない。
「気をつけろよ! 全く、近頃の女は寝ている人間にダイブするのが流行ってるのか? 」
「そんなの流行ってるわけないでしょう? 」
これは逆ギレというやつか……
「悪いのはそっちだろう。全く、どんな教育を受けてきたのやら……」
「悪いのは確かに私ですけど、昼間から寝てる人に文句言われるなんて、それに私は教師です。きちんとした教育を受けて、現在、生徒に教えてる身分です。何もしないで寝ているあなたとは違います! 」
「謝るかと思えば、逆ギレですか? 先生だって? 嘘でしょう? そんな頭のおかしい先生に教わってる生徒に同情するね」
「きーー! あなたまだ若そうだけど学校はどうしたの? 行ってないの? もし、あなたが学生なら教えている先生は碌な人じゃなさそうね」
「俺はちゃんとした学生だよ! さっきから、煩いんだよ。このいかれポンコツ教師」
「何よ。その態度。この腐れポコチン不良少年!」
「何だとーー! 」
「何ですってーー!! 」
怒りでフードを外した俺とその女は、ここで始めて各々の顔を見ることになった。
「…………」
「…………」
「今日は良い天気ですね。篠崎先生」
「ええ、とっても素敵な陽気だわ。霞君」
「「ええぇぇぇぇぇーーー!! 」」
いかれポンコツ担任教師と腐れポコチン不良少年生徒とのご対面となりました……。
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