48 / 71
第ニ章
第47話 戊家からの報告
しおりを挟む公園内でご対面した担任教師と俺。
き、気まづい……
この気まづさは、里にいた頃、陽奈が熊の太郎に自分のお尻の匂いを嗅がせていた場面を目撃してしまって、お互いの眼が合った時と同じくらいの気まづさだ。
「え~~と、霞君は何でこんな所で寝てたのかなぁ~~? 」
「先生は、何でおめかししてこんな場所にいるのかなぁ~~なんて」
「……………」
「……………」
すると、突然、先生は、声を上げた。
「あーー! いけない。結婚式に間に合わなくなっちゃうわ」
そういう事ですか……
「霞君、“Let’s just foget everything! ”よ。色々な表現があるけど、私は、この場にはこれが相応しいと思うわ」
「先生、どういう意味なのですか? 」
「“ 嫌なことは忘れて、前を見よう! ”って意味よ。つまり、そういう事なの」
つまり、さっきの事は綺麗さっぱり忘れましょうという事らしい……
「良い言葉ですね。賛成です。先生」
「前向きなところが良いわよね、ってそれどころじゃないのよ。私、この先の神社で友人の結婚式に参列しなくちゃいけないの! でも、見て。ほらっ……」
ハイヒールの踵が折れてた……
「わかりました。この先にコンビニがあったから接着剤を買ってきますね」
仕方なくコンビニで接着剤を買って戻ってくると、先生は、足が痛いようで手でさすっていた。
「足首、痛めたのですか? 」
「ちょっと、ドジしちゃってね」
「ちょっと、失礼……」
先生の痛めた足を持って『ゴキッ』っと足首の関節を調整する。
「どうですか? 」
「今の何? 霞君、整体師なの? 」
「いいえ、田舎では医者がいないので、大抵の事が出来ないとやっていけないんですよ」
先生は、立ってり、座ったり、歩いたりして足の調子をみている。
その間、ハイヒールの修理をしてあげた。
「霞君、痛くないわ」
「良かったです。それと、応急処理はしましたが、激しい運動すれば、また踵が取れちゃいますから気をつけて下さい」
「ありがとう。ここで、霞君に会わなかったらどうなってた事か」
そう言いながら先生は、嬉しそうに友人の結婚式に向かった。
俺も興が醒めてしまったので、壬への指輪は、学校で渡す事にして家に帰るのだった。
やれやれ……
◆
「う~~ん。己家の血筋の割り出しは、結構、時間がかかりそうだな……」
瑠奈は、キーボードを叩きながら違法に住基ネットに接続してそれらしい人物を探していた。
「戸籍台帳も昔のはいい加減だし、過去の事を調べるとなるとお寺の過去帳か神社に残ってる資料とか調べるしかなさそうね……」
そのような古い書類は、殆どがデータ化されていない。
「他のアプローチ方法を考えないとダメそう」
瑠奈は、顎をさすりながら思考の中に入っていった。
灰色の脳細胞が活性化する。
「そうだっ! 」
何かを閃いたようだ。
瑠奈は、作業部屋件寝室を出て行き冷蔵庫を開ける。
取り出したのはマヨネーズ。
それを食パンの上に塗りたくって、少量の塩と胡椒を振りかけてオーブンで焼き始めた。
『チーン』
「出来たわ。何故か食べたくなるのよね~~」
食事やオヤツとしては、素っ気ないものだが、瑠奈は幼い頃からこのマヨネーズ食パンが好きだったようだ。
ムシャムシャと美味しそうにパンにかじりつきながら、ソファーに座って外の景色を見る。
ビルやマンションが建ち並び、空は晴れているが里にいた時みたいに透き通ってる訳ではない。
「都会って便利だけど、癒しがないわよね」
口の周りに焼いた食パンのカスとマヨネーズがついてしまったようで、目の前のティッシュを引き抜き、それを綺麗に拭き取る。
そして、クシャクシャに丸めた先程のティッシュをゴミ箱に向かって放り投げた。
「やったーー! 入った」
ほんのちょっとの達成感。
ほんのちょっとの優越感。
それだけで、気分が良くなる。
「近くの図書館に行って、本でも見てこようかしら……何かヒントがあるかも」
外出を決意した瑠奈は、ピンク色の肌触りの良い柔らか素材の部屋着を脱いで、外出着に着替える。
無造作に、バッグの中にタブレットを突っ込み、ノートと筆箱を入れてマンションを出る。
「良い天気ねぇ」
スマホを取り出して、図書館の位置を調べると、
「近くにもあるけど、中央図書館の方が蔵書が多そうね」
歩いても行ける距離だ。
瑠奈は中央図書館に向けて歩き出した。
◆
大通りを歩いていると、車道から見慣れたリムジンが横付けされた。
「あれ、あの車って……」
中から出てきたのは、戊家の執事セバスさんだ。
「瑠奈様、昨夜はありがとうございました。報告を兼ねてお耳に入れたい事があります。宜しければ、お乗り下さい」
戊家のパーティーで拘束された人達の報告のようだ。
だが、セバスさん口振りから瑠奈はそれだけではないような気がした。
「わかりました」
リムジンに招き入れられ、車が向かった先は、昨夜訪れた戊家の本宅のようだ。
セバスさんから応接室に招かれ、そこにやって来たのは戊家当主 戊 圭吾だった。
「霞 瑠奈さん。昨夜は、君達兄妹にすっかり世話になってしまった。改めて礼を言わせてもらう」
「いいえ、兄様が動いたので私は、協力をしただけですので」
「うむ。そんな事は無い。あの短時間で犯人達の身元を調べあげ、そのデータをセバスに渡してくれたそうじゃないか。私は、霞 景樹君以上に君を買っている」
「私は兄様には足元にも及びません」
「確かに彼は強いし、強力な力を持っている。だが、今はそれではダメだ。この世界を動かすには、そのような強さを誰も求めておらん」
その言い方に瑠奈は、イラついていた。
兄様の事をダメと言いましたわよね……
「私に何のようでしょうか? そこの執事さんからは耳に入れたい話があるとお聞きしましたが? 」
「うむ。やはり、このような手段では君を手に入れる事は出来ないか……」
「何のお話でしょう? 私は兄様のものです。他の誰のものにもなりません」
「そのようだな。正直に話そう。私は君が欲しい」
「失礼します。もう、2度とお会いする事はないでしょう」
瑠奈は、席を立ち帰ろうとする。
それを、申し訳なさそうにセバスさんが止めた。
「わははは。やはりダメだったか……試すような事をしてすまない。だが、君を欲しかったのは本当の事だ。無礼は許して欲しい」
「戊家当主、私達兄妹は『霞の者』です。十家の方々とは協力はしますが、馴れ合うつもりはありません。過去において、依頼された任務はこなして来ました。ですが、それは仕事としてです。誰かの者になった覚えはありません。それと、戊当主は、勘違いをされています。『霞の者』の血筋始まって以来の兄様の能力は、権力やお金、若しくは軍隊、核兵器に至ってもオモチャ同然です。一瞬にして、この世界が消えてしまう、そんな状況の中で、そんなものが何の役に立つのでしょうか? 夢夢お忘れなきようご忠告申し上げます」
「昨夜のパーティーで見せた能力はその一端だと? 」
「霞の者なら備わっている能力です。私は、負荷が大きすぎるので滅多には使いませんが……」
「力にも代償は必要となる、そういうことかな? 」
「詳しくは申し上げれませんが、そうお考えくださっても間違いではありません」
「ますます、君達兄妹が欲しい。だが、それは君達の機嫌を損ねてしまう。困った事だ。私にできる事は、君達に協力して良き関係を築く事ぐらいか……セバス、思うようにはいかないものだな 」
背後に控えていたセバスさんが口を開いた。
「今日の旦那様はお戯れが過ぎるかと……霞様は、神霊術を使わないで私を赤子を捻る感覚で倒せる腕前です。敵に回してしまったら、幾つ命があっても足りません。欲しいものは手に入らないほど、その価値は上がるものです。霞兄妹にはそれに見合う価値があります」
「そのようなお話は、私の帰った後にお話しください。目の前で話されても不快になるだけですので」
「瑠奈様、申し訳ございません。ですが、どこで話しても瑠奈様には知り得てしまうでしょう。それならば、目の前で堂々と話した方が、良いのでは、と判断しました。これは、私達の誠意の表れだと受け取ってもらえませんでしょうか? 」
「そういう事ですか。わかりました。ですが、当主と執事、その関係においてセバスさんのお言葉は当主尊厳を踏み躙る言葉ではないのですか? 」
「わははは。うむ。君達は本当に面白い。セバスは、私に意見できる唯一の存在だ。彼がいたから私がある。当主と執事という枠を超えてな。わはははは」
「私は、出過ぎた言葉を言ってしまったようですね」
「謝罪はいらんよ。では、本題に入ろうか? 昨夜の賊と己家の話だ」
そう言った戊当主からは、十家の当主として、また、実業家としての威厳があふれていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜
まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、
専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活
現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。
しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。
彼は大陸一の富を誇る名門貴族――
ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。
カイルに与えられたのは
・世界一とも言える圧倒的な財力
・財力に比例して増大する規格外の魔力
そして何より彼を驚かせたのは――
彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。
献身的なエルフのメイド長リリア。
護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。
さらに個性豊かな巨乳メイドたち。
カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。
すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――
「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」
領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、
時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、
最強の御曹司カイルは
世界一幸せなハーレムを築いていく。
最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。
よくある父親の再婚で意地悪な義母と義妹が来たけどヒロインが○○○だったら………
naturalsoft
恋愛
なろうの方で日間異世界恋愛ランキング1位!ありがとうございます!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
最近よくある、父親が再婚して出来た義母と義妹が、前妻の娘であるヒロインをイジメて追い出してしまう話………
でも、【権力】って婿養子の父親より前妻の娘である私が持ってのは知ってます?家を継ぐのも、死んだお母様の直系の血筋である【私】なのですよ?
まったく、どうして多くの小説ではバカ正直にイジメられるのかしら?
少女はパタンッと本を閉じる。
そして悪巧みしていそうな笑みを浮かべて──
アタイはそんな無様な事にはならねぇけどな!
くははははっ!!!
静かな部屋の中で、少女の笑い声がこだまするのだった。
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜
Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる