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第ニ章
第55話 学校での戦闘(3)
しおりを挟む校門付近でヤンチャ君達に憑依した大嶽丸と対峙していた俺は、炎獄熊熊が言っていた校舎の中の仲間の件が気になっていた。
目的の為に手段を選ばないのは、紅の者も霞の者も同じだ。
人の命など簡単に奪い去ってしまうだろう。
相手の攻撃を躱しつつ、こちらも通常攻撃を仕掛けるが『三明の剣』役の一回り小さな二人の鬼に阻まれて大嶽丸は無傷の状態だった。
『三明の剣』にしては、一人足りないようだが……
すると、いつの間にか学校の敷地から這い出てきた邪鬼の存在が薄くなっていた。
戊家の土地浄化と壬家の清霧か……
あの二人が動いていたのは気配でわかっていた。
校舎の方をチラ見すると、瑠奈も動き出したようだ。
「なら、こいつを倒しても問題ないな……」
俺は、神霊術を発動する。
周囲の景色が一変して霞の中に漂う霧の粒子さえも止まって見える。
大嶽丸の首を落とす為、その場でジャンプして首めがけて愛刀『夜烏』を振るった。
『ガッキーーン!! 』
金属音が、鳴り響いた。
「マジか……」
亜空間から剣が現れ、俺の攻撃を防いでいた。
神霊術を解除して、現状を理解する。
「三本目の剣は、亜空間の中という事か! 大嶽丸! 」
流石、鬼神……
阿修羅が剣を渡すだけはある。
一歩、一歩大きな足で校舎に近づいてくる大嶽丸。
浄化された土地が、また、腐り始める
大嶽丸が片手を天に向けた。
すると、雷が轟音と共に俺も足元に落ちる。
そして、後ろに避けた俺の場所にも次々と雷が落ちてきた。
雷は土地の地中に伝わって、近くにいた俺にも痺れをもたらした。
動きが多少阻害されるが、怯む程ではない。
「厄介な剣だ……」
霞の者の神霊術を使っても、その時間の流れに難なくついてくる最後の一振りの剣。
雷を操り、広範囲攻撃も可能。
歩く度に土が腐り、そこから這い出る邪鬼ども。
伝承では、天女が天下って力を貸さなければ倒せなかった存在。
雷を避け、次第に後方に距離を取る事になってしまった。
今は、校門から校舎に続く中間地点の広場だ。
「ここで、決着をつけねば……」
大嶽丸達の攻撃を躱しながら、対抗策を思案する。
亜空間の中では、手出しが出来ない。
何とかこの世界に剣を引きずり出さないと……
その時、背後から声が聞こえた。
「凄いね、お兄。雷魔法を使ってるよ~~」
陽奈だった。
強い相手と戦いたくて、低級邪鬼を倒しまくって来たのだろう。
「ああ、少し手強いぞ」
「そうなんだ。流石、特Aランクモンスター。オーガ・ジェネラルだね」
「いや、大嶽丸だぞ」
「おまけに、オーガ・キングとオーガ・クイーンもいるよ」
陽奈の目のはそう見えるらしい。
ツッコミたいが、今はそれどころではない。
「私も剣を交えてくるよ」
陽奈は『新月』と『満月』の双剣で、大嶽丸に迫った。
神霊術を発動したようで、雷を避け一気に大嶽丸の首を狙ったようだ。
結果は、俺と同じだったみたいだ。
項垂れてこちらに来る陽奈は、最後の一振りの「三明の剣」に攻撃が防がれたようだ。
「お兄、何あのチート装備~~。亜空間から剣が出てくるなんて反則だよね」
決まったと思った瞬間に防御され、おまけに攻撃に転じてくる『三明の剣』はタチが悪い。
「ああ、対策が無いわけではない」
「じゃあ、あれ使うね」
呑気そうに言う陽奈に一抹の不安を感じる。
「陽奈、わかってると思うけど広範囲攻撃はナシだぞ。校舎が吹き飛ぶ」
「えーー!! 」
やはり、新ジュクでビルを崩壊させたあの力を使うつもりだったらしい。
「ダメだと言ったらダメだぞ。ここは穏便にスマートに倒さなければ意味がないんだ」
「そっかーー討伐証明の部位を残す為にだね。流石、お兄。わかってるね~~」
そんなつもりはない……
その時、銃声が鳴り響く。
勿論、俺達を狙っての事ではない。
辛 誠治が麗華さんと共に、この場に駆けつけて来た。
「おいマジかよ。銃弾を剣で捌きやがったぜ」
「何なの? あれは……」
驚く誠治さんと麗華さん。
「あれは、大嶽丸です。紅の者が、封印されていた首を盗んで人間に憑依させ顕現したものです」
「大嶽丸ですって!! 」
「何だ。それ? 」
麗華さんは知ってたようだが、誠治さんはその存在を知らなかったようだ。
「ここは危険です。俺達なら雷を避けれますが誠治さん達は難しいと思います。校舎の中に避難してください」
「わかった。少し距離を取っておくよ。だが、校舎には入らない。後方からこれで援護するぜ」
誠治さんは、俺に銃を見せてウィンクした。
イケメンは何をやっても決まるな……
それまで、大嶽丸の左右に付き従ってた二人の鬼が動き出した。
剣を振るっただけで、風切り音が響き渡る。
また、大嶽丸は、無手の攻撃で地面を陥没させていた。
「霞が晴れちゃうとマズいよ。お兄」
「そうだな。やるか。陽奈には、脇の鬼をプレゼントしよう」
「真ん中のデカイのが良かったけど、我慢しとくよ」
俺と陽奈は、神霊術を発動する。
ゆっくりと流れる時間の中で、陽奈はまず右脇の鬼に剣を向けた。
その様子を見ながら、俺は大嶽丸の首を剣で狙う。
大嶽丸の首に剣が届く瞬間に、亜空間から剣が現れ俺の攻撃を防いだ。
「それは、もう、わかっている」
大嶽丸の剣が現れたその時、その剣にワイヤーが絡まる。
「兄様! 陽奈! 」
瑠奈が解き放ったワイヤーだ。
瑠奈のワイヤーが、両脇の鬼の剣も絡ませたようだ。
「悪いな。俺達兄妹も3人なんだ……」
ワイヤーに絡まった剣は、亜空間に引き戻される事なくその場に顕現したままだ。
その隙に、俺は大嶽丸の首を『夜烏』で斬り裂いた。
噴水のように上がろうとする血飛沫は、赤い水玉に見える。
一瞬、大嶽丸と眼が合った気がしたが、撃ち落ちる首には用はない。
神霊術を解いたその場所には、倒れた鬼が三体転がっていた
◇
暗雲とした世界に光が灯る。
空の雲の隙間から、太陽の光が差し混んでいる。
『天使の梯子』と呼ばれる現象か……
その光が霞の中の水分に反射され低い虹が広がった。
学校の敷地の広場には、陥没した地面に赤い血の水溜りがあるだけで他には何もない。
倒れていたはずの鬼は、闇の中に消えて無くなっていた。
転がっていたヤンチャ君達の骸と瑠奈が捕まえた紅の者は、人目のないところに運び込んである。
まぁ、誠治さんが乗って来た車の中なんだけど……
本人は、嫌そうな顔をしていたが、麗華さんに叱責されて “ 車を買い替えれば問題ない ” と金持ちの余裕を見せていた。
霞も少しづつ晴れてきた。
勿論、その場には俺達はもういない。
壬がいた図書館の屋上でその様子を見ていた。
「兄様、もう一人、紅の者がいたようですが……」
「ああ、途中で逃げたよ。瑠奈が校舎の中で潜入した奴を捕まえたのがわかったのだろうな」
「そうですか。逃げ足の速い豚ですね」
「豚じゃなくって、熊だったけどな」
すると、静葉が声をかけてきた。
「旦那様、私、少しは役に立った? 」
「ああ、勿論だ。静葉のおかげで、面倒な邪鬼を相手しなくても済んだよ」
「そう、そうなんだ……」
嬉しそうに口角を上げる静葉は、最近表情が良くなってきたと思う。
すると、突然、屋上のドアが思いっきり開かれた。
現れた人物は……
「霞 景樹! こんなところにいたのですね! 」
この金髪お嬢様は、何でいつも怒っているのだろうか……
怒鳴り込みにきた金髪お嬢様の後ろで、執事のセバスさんが優雅に一礼していた。
そんな時、陽奈が突然立ち上がって大声で叫んだ。
「あーー!“ 月に変わってお仕置きよ!”って言うの忘れてたーー!! 」
そう言えば陽奈と瑠奈は、セーラ服のコスプレしていた。
◆
裏通りを歩いてブツブツ言っている危ないオッさんが一人いた。
「あの大嶽丸がやられるとはなぁ……」
ボヤきながらタバコを吸ってるオッさんは、忌々しそうな顔をしている。
何度かタバコを吹かしてポイ捨てするオッさんに背後から声をかける者がいた。
「タバコのポイ捨ては禁止ですよ。そもそも歩きタバコも条例違反です」
「うるせーーな! 黙れよ。女! 」
機嫌が悪いところに、タバコの件で注意されてキレたオッさんは、その声の女性を睨みつけた。
「やっと顔を見せましたね。熊さん」
オッさんは、その女性を知っていた。
写真で見ただけだが、一度見たら忘れられないほどの美人の女性だ。
「お、おめぇは、霞の者の……」
「子供達がお世話になったようですね」
そう言ってオッさんに向けて手を翳した。
「あっ…………」
すると、オッさんは短い悲鳴と共に身体が粒子となって消えていった。
しかし、一滴の血がその女性の肩口に着いてしまったようだ。
「私もまだまだですね……」
その女性は、路地を抜け街の中に消えていった。
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