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第三章
第63話 仮病作戦
しおりを挟むリズ先輩が用意してくれたホテルの部屋は、スイートルームだった。
だが、同じ部屋には泊まれない旨を告げて普通の部屋に変えてもらった。
だけど、その部屋もリビングが付いた2部屋ある豪華な部屋で、2組のツインベッドが置かれていた。
「スイートルームに見比べると見劣りするけど、この部屋も凄いな。ベッドの数だけ人が泊まれるよ」
調度品の家具など贅を凝らしてある。
ベッドもふかふかだ。
戊家の人達と一緒の部屋だったら、ゆっくり出来なかっただろうけどここなら、少しは落ち着けそうだ。
その時スマホが鳴った。
もしかして……
「はい」
『兄様、まさかと思いますがあの金髪女と一緒の部屋とかじゃないでしょうね』
瑠奈だった。
「心配するな。1人部屋だよ」
『ふう~~安心しました。で、何号室なのですか?』
「え~~と、1102号室だよ。てか、何でそんな事聞くの?」
『特に理由はありません。それでは後ほど……』
『見てーー瑠奈、富士山!あっという間に通り過ぎたよ~~』
はて?今陽奈が富士山がどうのこうのとか聞こえたが?
それに瑠奈は、後ほどって言ってたような……
気のせいだ。
それだけ俺は疲れているんだ。
そうに違いない。
今日は、もう、寝てしまおう。
それがいい。
俺は、ベッドに入り布団に包まって目を閉じた。
ーー翌朝ーー
「う~~ん、重い」
身体が思うように動かないぞ。
何かいい香りがするけど……
「兄様~~」
「ダメだよ、それ食べちゃ、たぬ吉~~」
「はっ!!」
俺は目を覚ました。
何故か陽奈と瑠奈が同じベッドに寝ている。
2人に絡みつかれて身動きがとれない。
昨日は、確かリズ先輩に無理やり拉致られて大サカに来たはず。
何で陽奈と瑠奈がいるんだ?
それに、この俺が寝てたとしても二人の侵入に気付かないはずはない。
「陽奈、瑠奈、起きろ」
「それ頂戴、ポン太~~むにゃむにゃ」
「兄様、いけません。そこは……あっ」
二人ともどんな夢見てんだ?
陽奈はともかく瑠奈の夢は危険そうだ。
「おい、陽奈、瑠奈起きろ。朝だぞ」
「ふえ~~お兄……何で陽奈のベッドに寝てるの?」
陽奈は覚醒したようだ。
瑠奈は……寝たフリだな。
「瑠奈、起きてるのは知ってるぞ」
「チッ!兄様、おはようございます」
舌打ちするな!
「なあ、何で二人とも大サカまで来てるんだ?」
二人の話を聞くと、リズ先輩から俺と一緒に大サカに行くと連絡があったようだ。
そして、再び連絡があり、壬家のところに行くから今夜は大サカのホテルに泊まるという。
俺だけ高級なホテルに泊まるのはズルい、ということになって二人で新幹線でここまで来たとのこと。
追い返されるのを心配した二人は、俺の部屋に入る前に母さん特製の睡眠ガスを部屋に充満させ俺を寝かせたそうだ。
もう寝てたけど……
二人はガスマスクをつけて部屋に侵入。
俺が寝てたので、油断してガスマスクを外したところ、まだ排出しきれてなかった催眠ガスでその場にバタンキューっとなったらしい。
「陽奈、瑠奈ちゃんと言ってくれれば追い返したりしないし、部屋にもきちんと入れたのに」
「だって、瑠奈がそうしようって言ったんだもん」
「お母さん特製の催眠ガスが兄様に効くのか試したかったのです。ドラゴンでも一瞬で眠らす事ができると聞いていてもたってもいられなくて~~」
そんな危険なもの、俺で実験するな!
母さんも母さんだ。そんなもの作るな!
「わかったよ。とにかくどいてくれると助かる。トイレ行きたいんだ」
「そうなの?陽奈は、シャワー浴びたい。このまま寝ちゃったし」
「私は兄様の介助をします」
瑠奈、介助は必要ないよ。
「瑠奈の入れてくれる美味しい紅茶が飲みたい。無ければコーヒーでもいい」
「そうきましたか。わかりました。入れてきます」
俺はトイレに入って思考する。
これでは、家にいるのと同じだ。
一人になりたい。
マイナスイオンに癒されたい。
因みに、この部屋はお風呂とトイレは別だ。
お風呂は、外を見渡せる豪華な造りになっている。
このまま二人は静葉のところまでついてくるだろう。
だが、きっとチャンスはある。
もう、一日中とは言わない。
せめて、数時間だけでも一人自然の中でのんびりしたい。
俺はどうしたらその機会が得られるのかを考えていた。
トイレで……
◇
今、リムジンの中でみんなでトランプをしている。
大サカから壬家のところまで高速道路と一般道を乗り継いで約4時間程かかるという。
近いと思ったけど意外と遠かった。
お昼過ぎには着くという事なので、暇を持て余したみんなでトランプ大会をする事になったというわけだ。
ゲームは大貧民。
ここで俺は思い知ることになる。
お金持ちという人種は、ゲームの世界でもお金持ちだということだ。
「はい、あがりましたわ」
「また、リズ先輩~~ズルい」
「イカサマなんてしてませんわよ」
「だって、どう見ても最強じゃん」
「革命してもダメだったですね」
「それにしても兄様は……這い上がれませんね」
何度してもリズ先輩が大富豪。そして俺が大貧民だ。
「皆様、そろそろ着きます」
セバスさんから声がかかる。
壬家の神社は山の中腹にある。
途中までは車で行けるが、神社までは徒歩だ。
神社では秋の大祭が1週間程続くらしい。
神社の麓にある町は祭り一色だ。
車を大きな鳥居のある駐車場に入れて、外に出ると都会とは違う清らかに空気に包まれていた。
流石、山だ。
この匂い、この香り……
そんな清らかな空気の中に、甘い醤油の香りが漂ってきた。
駐車場脇にある出店の団子の匂いだ。
「お兄、お団子食べたい」
「「「私も」」」
みんなお腹が空いてたようだ。
それもそのはず、お昼を過ぎて今は午後1時。
お昼を食べていない。
「お団子は私が買っておきましょう。それよりもお昼をお食べになった方が宜しいかと」
セバスさんの言う通り、みんな納得する。
鳥居の前の山道の脇には、お土産屋さんや食べ物屋さんが所狭しと建ち並んでいる。
俺達は、その中の一軒、お蕎麦屋さんに入った。
「いらっしゃいませ」
中年のおばさんの声がかかる。
席に案内されて、それぞれ好きなものを注文した。
「凄く賑わってますわね」
リズ先輩が何気なくおばさんに声をかけると
「毎年、このお祭りの期間は多くの人達が訪れて賑わうんですよ」
物腰柔らかそうなおばさんはニコニコしながらそう答えた。
確かに、参道には人が溢れている。
商店にとっては書き入れ時だ。
「それに、今年は3年に1度の舞を奉納するんです。一般の人は、儀式が終わってからしか見れないのですけど神社の奥にある御神体向かって舞うのだと言われているんですよ」
「そうなのですか。見てみたいですわね」
「何時もなら壬 静葉様が奉納舞をするのですけど今年は妹の柚葉様が舞う事になっているようです。何でも静葉様の具合がどうとか……あっ、少しお話が過ぎましたね」
慌てたように厨房に入るおばさん。
言ってはいけない内容だったのか?
静葉は、具合が悪いのか?
腹でもこわしたのか?
「やはり、静葉さんに何かあったようですわね」
「ええ、霞様に助けを求める程に」
リズ先輩とルミネさんは、大袈裟な事を言っている。
きっと、静葉は団子でも食べ過ぎたんだろう。
甘い物好きだったし……
蕎麦を食べ終わる頃、俺は1人になれる事ができるある考えが浮かんだ。
仮病作戦だ。
みんなは、これから神社に行くと言う。
俺は、腹が痛いと言ってトイレに駆け込み後から行くという作戦だ。
このアイデアが浮かんだのも静葉のおかげだ。
感謝しなければ……
「そろそろ行きましょうか?」
リズ先輩がそう話、会計を済ませてみんなで店をでる。
さて、そろそろ作戦決行だ。
「あっ、痛てて」
「兄様、どうしたんですか?」
「お腹が痛くなった。トイレに行ってくるから先に行ってていいよ」
「では、私が兄様の痛みが治るまで待っています」
マズい。
これでは1人になれない。
「静葉の事が心配だ。きっと、事件に巻き込まれているに違いない。解決には瑠奈の能力が必要になるかも知れない。俺は大丈夫だからみんなを頼む」
「水色女の窮地など知った事じゃありませんが、兄様に頼られれば言う事を聞かないわけにはまいりません。わかりました。みんなと先に行ってます」
うっ!心が痛い。
だが、それでも俺は癒しを優先する。
ダメな兄を許しておくれ。
そうだ。リフレッシュした後、瑠奈には何かしてあげよう。
俺は駐車場脇の公衆トイレに入った。
どれくらいの時間なら怪しまれないだろうか?
1時間、2時間は誤魔化しが効くはず。
俺としては、もっと時間が欲しいがこの際、仕方がない。
みんなが神社に向かった頃、俺はトイレからでる。
しかし、そこにはセバスさんがお団子を抱えて待っていた。
「霞様、具合の方は?」
「セバスさん、いたの?具合は良くなってきたよ」
「そうでしたか。それは良かったです」
「団子抱えて待っててくれたの?」
「はい。お嬢様方はお腹が一杯になったから後で頂くと申しておりました。どうぞ」
俺は、セバスさんから沢山買い込んだ団子を受け取った。
マズい。
このままでは、1人になれない。
だが、セバスさんはこれから用事があると言っていた。
天は俺の味方をしてくれたらしい。
「では、霞様、後ほど」
「はい」
俺は、念願の1人になる事ができた。
団子を抱えながら……
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