インミシべルな玩具〜暗殺者として育てられた俺が普通の高校生に〜

涼月 風

文字の大きさ
6 / 89

第6話 お屋敷の朝は

しおりを挟む


「ここにも監視カメラがあるのか‥‥まあ、見られても困ることはないが」

 衝撃の歓迎サンバが終わり、みんなでお茶を飲んだ後は『ここがカズ君の部屋だよ~~』と、聡美姉に案内された場所がこの部屋だ。

 あのアパートよりはマシだな……

 いくら信用できない人物の監視とはいえ、あのアパートにはトイレや浴室にも監視カメラがあったからな。
 俺みたいな奴が信用されるわけがないから監視カメラはそのままにしておいたが、俺の何を調査してるんだ?

 俺は一通り部屋を見渡して、ベッドに寝転ぶ。

 ふと眼を閉じると昔の事を思い出す。
 神宮司じんぐうじ和輝としての記憶だ。

 俺は妹の沙希さきの為に、今の学校を希望した。
 沙希は同じ学校の中等部三年だ。
 校舎は別だが、同じ敷地内にあるというだけで、俺の心は安らいだ。

 直接会って名乗りを上げる気はない。
 俺は昔の自分ではないからだ。

 この手で数え切れない程、人を殺めてきた。
 そんな汚れた俺は、汚れの知らない沙希に会わす顔がない。

 紫藤さんの情報では、両親も健在らしい。
 実家の神宮司総合病院の経営も順調みたいだ。

 ただ、俺と一緒に客船に乗っていた祖父母は死んだそうだ。
 目の前で銃撃されるのを見たが、もしかしたら生きてるかもと僅かな希望を持っていた。

 その希望も虚しくついえたが……

 賢一郎けんいちろうの妹百合子ゆりこの事も紫藤さんに尋ねた。
 上手く隠れて災難を逃れたようで、元気にしていると言う。

「百合子……」

 俺は、賢一郎から百合子の事を頼まれていた。
 もしものことがあったら、百合子を頼むと。
 実際、そうなってしまったが……

 百合子は白鴎院はくおういん家の令嬢だ。
 一般市民が会える存在ではない。
 俺と百合子、賢一郎が出会えたのは、豪華客船のクルーズという狭い世界での話だ。二週間にわたって、毎日一緒に遊んでいた。

 だが……

 ダメだ。こんな事を考えては、闇の中に沈んでしまう……

 俺は、ベッド脇にあったチェストの上の水差しから、水をコップに注いで一気に飲んだ。冷たい液体が体内に降下する。

「ふう~~寝るか……」

 俺は、闇に飲み込まれない様に静かに眼を閉じた。





 眼を開けると知らない天井が目に入る。

「ここは……」

 そうか、ここは聡美姉の屋敷だ。
 ベッド脇の時計に見ると午前5時10分。
 何時もより10分寝過ごしたようだ。

 着替えがないので昨夜風呂から上がったままのバスローブ姿だ。
 下着もつけてないのが心許ないが、裸のままで行動する事は過去にも何度もあった。
 バスローブがあるだけありがたい。

 俺は部屋を出て、聡美姉達がサンバを踊ってた部屋に向かう。
 普段はその場所がリビングを兼ねていると、昨夜聞いたからだ。

 ドラを開けて中に入ると奥にソファーがあり、そのテーブルの上に見覚えのある服が綺麗に畳まれて置いてある。

 壁には、俺の制服がクリーニングに出された後のようにシワが伸ばされ、綺麗な状態でかかっていた。

「カズキ様、おはようございます」

 奥のダイニングから雫さんが出てきて声をかけられた。

「おはようございます。斎藤さん」

「雫です」

「えっ!?」

「雫とお呼び下さい」

「え~~っと、雫さん」

「う~~む、少し違うような気がします。そうだわ。お嬢様のように雫姉さんと呼んでみて下さい」

「……雫姉……さん」

「ぶるっ……こ、これはきますね。カズキ様、これからはその様に私をお呼び下さい」

「はあ……」

「カズキ様、制服とワイシャツはアイロンがけしておきました。下着類については私が入念に手洗いしておきました。どうぞお着替え下さい」

「ありがとうございます」

 何だろう?
 身の危険を感じるのだが……

「さあ、どうぞ。お着替え下さい」

 ここで雫姉に見られながら着替えるのか……

 俺は、気にしない風を装って綺麗に畳んであったボクサーパンツを履く。
 そして着ていたバスローグを脱いで、白いTシャツを着た。

「はあ~~」

 何故か雫姉が妙に色っぽい吐息を吐きながら見ているが、きっと気にしたら負けな気がする。

「あの……雫姉さん?」

 ぶるっと震える雫姉。
 大丈夫か?この人……

「な、何でございましょう」

「聡美姉は?」

「お嬢様でしたら毎朝7時に起床されます」

「そうなんだ……」

 会話が続かない……

「カズキ様、下着姿はとても見応えのあるお姿ですが風邪を引いてしまっては大変です。制服に着替えられますか?」

 そういえばパンツとTシャツを着たままだった。

「できれば身体を動かしたいのですけど、制服ですと折角綺麗にアイロンがけしてくれたみたいですし……」

「まあ、朝の訓練ですね。それなら良いものがあります。少々お待ち下さい」

 雫姉は、小走りに走って奥の部屋に行く。
 そして手に白い布を抱えて引き返してきた。

「これなら激しく動いても大丈夫です」

 渡された服は白い作務衣さむえ
 確かに激しく動いても問題無さそうだ。

「ありがとうございます」

「カズキ様、私がお着替えをお助けします。これもメイドの仕事のうちですから」

「……そうなのですか?」

「はい。そうです」

 雫姉は、何だか嬉しそうだ。
 これを断るには勇気がいる。

 前にユリアに同じ事をされた覚えがある。
 断ったらさそり固めをかけられた。

「……じゃあ、お願いします」

「はい、お願いされました」

 ニコニコしながら作務衣を広げて、ズボンを手にした。
 俺の前に膝間ついてズボンを広げて準備してる。

 ちょっと近いと思うのだけど……

 俺は片足を上げて広がったズボンに足を入れる。
 雫姉はそれを上に優しく押し上げた。
 そしてもう片方の足も入れると、今度はゆっくりとズボンを腰の部分まで上げてくれた。

「………」

「今度は上でございます」

 そう言って手を順番に入れて脇腹あたりで紐を結んでくれたのだが、雫姉の息が荒いのが気になるのだが……

 俺が気になって雫姉を見ていたのがわかったのか、雫姉は

「殿方のお着替えは初めてでしたので、粗相がありましたでしょうか?」

「いいえ、大丈夫です。助かりました」

「良かったですわ。これでカズキ様にもきちんとお仕えする自信が持てました。シズクは嬉しいです」

「はあ、それはどうも……」

 何て返事をするのが正解なんだ?

「お稽古でしたら、本館の脇に道場がありますのでそちらをご利用下さい。鍵はかかっておりませんので」

「わかりました」

 こういう場合は逃げるが勝ちだ。

「朝食は7時を予定しております。ご存分にお汗をおかきください。汗をかいた作務衣は私が念入りに手洗い致しますので」

「し、失礼します」

 俺は、その場から脱兎の如く逃げ出したのだった。


 恐るべし、雫姉……





 道場と思わしき館に着くと雫姉の言う通り、鍵はかかっていなかった。
 天井の高い室内は板張りの稽古場と畳が敷き詰められた稽古場とに分かれていた。室内を見渡すと木刀、竹刀、長槍などが壁にかけられている。

 流石に拳銃類は無いな……

 俺は木刀を手に持ち、素振りを始めた。

 剣術は習ったことがなかったので、身体に馴染むまで動きがぎこちなかったように思える。

 俺の所作は暗殺術。
 ナイフを持って戦うのが基本スタイルだ。

 対戦相手が欲しいが……

 俺は聡美姉の事を思い浮かべた。
 あの人と対峙すれば、テンポが崩されてしまいそうだ。
 速攻勝負に限る。

 そして雫姉は……

 ぶるっ……

 あの人は危険だ。
 戦闘面では俺の方が明らかに上だ。
 でも、何でだろう。
 魂が危険だと言っている。

「ふう~~世界は広いんだな」

 俺は素直にそう思った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

付きまとう聖女様は、貧乏貴族の僕にだけ甘すぎる〜人生相談がきっかけで日常がカオスに。でも、モテたい願望が強すぎて、つい……〜

咲月ねむと
ファンタジー
この乙女ゲーの世界に転生してからというもの毎日教会に通い詰めている。アランという貧乏貴族の三男に生まれた俺は、何を目指し、何を糧にして生きていけばいいのか分からない。 そんな人生のアドバイスをもらうため教会に通っているのだが……。 「アランくん。今日も来てくれたのね」 そう優しく語り掛けてくれるのは、頼れる聖女リリシア様だ。人々の悩みを静かに聞き入れ、的確なアドバイスをくれる美人聖女様だと人気だ。 そんな彼女だが、なぜか俺が相談するといつも様子が変になる。アドバイスはくれるのだがそのアドバイス自体が問題でどうも自己主張が強すぎるのだ。 「お母様のプレゼントは何を買えばいい?」 と相談すれば、 「ネックレスをプレゼントするのはどう? でもね私は結婚指輪が欲しいの」などという発言が飛び出すのだ。意味が分からない。 そして俺もようやく一人暮らしを始める歳になった。王都にある学園に通い始めたのだが、教会本部にそれはもう美人な聖女が赴任してきたとか。 興味本位で俺は教会本部に人生相談をお願いした。担当になった人物というのが、またもやリリシアさんで…………。 ようやく俺は気づいたんだ。 リリシアさんに付きまとわれていること、この頻繁に相談する関係が実は異常だったということに。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...