9 / 89
第9話 アイドル達との面会(1)
しおりを挟む珠美が家にやって来たお屋敷はとても賑やかだった。
疲れを知らない4歳児は、お屋敷を走り回っていた。
聡美姉は大学のレポートがあると言って、自分の部屋に閉じこもっている。
毎日、プラプラしてるイメージだったので大学生だった事実に驚いてる。
雫姉は、キッチンで食事の支度をしている。
何か手伝おうか、と声をかけたが『心配無用でござる』とわけのわからない語尾で返された。
結局、俺が4歳児の相手をすることになり、屋敷の探検が鬼ごっこへと変わっていた。
「ほら、カズお兄ちゃん、こっち、こっち」
一緒に遊んだせいか、俺への人見知りはなくなり、良い遊び相手を見つけた幼い女豹は完全に俺を下僕扱いにして楽しんでいた。
「そこ、段差があるから気をつけろ」
「そんなのへっちゃらだよ~~ひょいっと」
見てる俺の方がハラハラする。
俺も4才の時はこんな感じだったのだろうかと思いながら俺はタマちゃんの後を追いかけていた。
「あっ!」
珠美は段差のところでなく、何もないところでコケた。
そう、4歳児は4歳児の矜恃がある。
何もないところでコケるなんて、自分が許せなかったのだろう。
「……シク、シク……うえ~~ん」
とうとう泣き出してしまったのだ。
「大丈夫か?怪我はないか?」
「グスン……だ、だじょうぶ……」
そういえば沙希もよく泣いていたっけ。
こう言う場合はどうしてたんだっけ。
俺は頭ではそう考えていたが、手は自然と珠美の頭を撫でていた。
俺は自分の動作にギョッとした。
俺が捕らえられていたテロ組織には多くの子供達がいた。
それも国籍はみんなバラバラだ。
泣いているばかりも者は役立たずとして殺された。
会話をする事もままならない状態で、みんな膝を抱えて蹲りながら日々を過ごした。
弱い者は次々と死んでいく。
俺は死にたくなかった。
だから必死で頑張ったんだ。
目の前で処刑される同じ年齢の子供を見ながら……
同情は命取りだった。
同じ拉致されてきた子供もライバルだ。
だから仲間意識などほとんどなかった。
勿論、名前など知らない。
俺達は番号で呼ばれていたからだ。
俺の番号は『94』
それが俺の名前だった。
でも、俺には賢ちゃんがいたから、あの地獄も耐えられた。
もし、賢ちゃんがいなければ、俺はとうの昔に死んでいただろう。
そんな環境で育った俺が、目の前で泣いている4才時に無意識に頭を撫でてあげてた事が信じられないのだ。
「グスン……お兄ちゃんどうしたの?」
「えっ!?」
「お兄ちゃんも痛かったんの、いい子いい子」
俺は、さっきまで泣いていたタマちゃんにおでこを撫でられている。
「お、俺は大丈夫だから。それよりタマちゃん、怪我してないか?」
「平気、タマミよりもお兄ちゃんが痛そうだよ」
そう言われて愕然とした。
俺が痛そうだって?
バカな‥‥俺はあの組織では1、2を争う暗殺者だぞ……
その俺が……
今朝、沙希に会った時のような胸の痛みを感じる。
俺にはそれが何だかよくわからない。
俺は銃撃を右頭部をかすめて右頭部に傷の痕がある。
割と目立つその傷を隠すように前髪を長くしていた。
その傷の痕をタマミは撫でてくれていたのだ。
「俺は大丈夫だから……」
「タマミのママがね。言ってたの。痛い時は泣いた方がいいんだって」
「そうなんだ」
「だから、タマミは泣くんだよ。それでこの事はもう終わりにするの。泣いてた自分にバイバイするんだよ。そうすると元気になるんだって」
「そうだな。きっとそれが正しいのかもしれない」
「だからお兄ちゃんもたくさん泣いてバイバイした方がいいよ。元気になるから」
「わかった。今度からはそうしてみるよ」
4歳児にそう言われて、俺の心は動揺している。
「うん」
元気になった珠美がそう言った。
すると、雫姉が俺達の方にやってきて
「お食事の用意ができましたよ。手を洗って食堂に来てくださいね」
廊下で座って話をしていた俺と珠美は、その言葉を合図に立ち上がり食堂に向かうのだった。
◇
何故か聡美姉だけがうずらの卵づくしの夕飯を食べてた翌日、今日は警護の仕事の為、朝からアカサカにあるビルを訪れていた。
係員に案内されて通された応接室でソファーに腰掛けいると、眼鏡をかけてていかにも出来そうなOLという風体の女性が入って来た。
「貴方が紫藤さんの推薦の東藤和輝さんですか?」
「東藤和輝です」
「私は『FG5』のマネージャーをしております蓼科美晴と申します」
自己紹介が済むと『身元確認をさせて下さい』と言われ、俺は学生証を提示すると蓼科さんはそれをコピーしに出て行った。
するとドアの前で誰かが騒いでいる。
耳を澄ませて聞き耳を立てていると……
~~~~~
「美晴さん、女性の警護の方を要望したはずですけど、来たのは男の人じゃないですか?どういう事なんですか?」
「ある方の推薦でとても優秀な方だと聞いています。男性ですが今回の件は女性より男性の方が安全です」
「それは女性差別ですよ。女性でも優秀な方はいます。美晴さんみたいに」
「褒めてもらって嬉しいですが、今回は何があるかわかりません。たとえ男性でも優秀な方ならその方がいいに決まってます」
「だって、マネージャー業務もするのでしょう。無理です。私……」
「私は今度売り出す『FG5』の姉妹アイドル『苺パフェ8』のマネージャーを兼務します。彼女達は、まだこの業界に慣れない小学生高学年を中心としたグループです。手厚いマネージメントが必要なんです。その点『FG5』のみんなは大衆に受け入れられ今ではトップアイドルの仲間入りです。勿論、細かいスケジュール調整やプロデューサーとの打ち合わせは今まで通り私が致します。でも、今までのように付きっきりになる事ができないんです。一度は納得してくれたのですから今から変更は無理です」
「わかったわよ。でも、役立たずな奴だったらクビにしてもいいわよね」
「ええ、勿論です」
「言質はとったからね」
「わかりました。では応接室でお待ちになっておりますので挨拶して下さい」
「ふん、わかったわよ」
~~~~~
そんな大きな声で部屋の外で話されても……
会話が終わるとガチャっとドアが開いた。
入って来たのはマネージャーの蓼科美晴と高校生だと思われる綺麗な女子だった。
「東藤さん、お待たせしました。こちらが警護対象の倉元リリカです」
「リリカです」
リリカと名乗った女性は品定めするようにジロジロと俺を睨みながら見ている。
まあ、さっきの会話からして大体の事情は分かったけど……
「東藤和輝です。よろしくお願いします」
「ねえ、あんた。年はいくつ?」
「17歳ですけど」
そう俺が答えるとリリカは『ふん』と言って横にいる蓼科美晴に声をかけた。
「美晴さん、こいつの学生証をコピーしたんでしょう?見せてくれる」
「え~~と……」
蓼科さんは俺が目の前にいるのでリリカに学生証を見せるか迷っているようだ。
「見てもらっても構いませんよ。何も隠す事などないですから」
「そうですか」
蓼科さんは安堵したような顔になり、リリカに俺の学生証を見せた。
「へ~~緑扇館高校なんだ。意外と頭いいんだね」
あの学校は頭がいいのか?
来日したばかりで高校の学力水準などわからないけど。
「何でそんな髪型してるの?眼鏡も野暮ったいし」
髪が長くしてるのは額の傷を隠す為、野暮ったいっと言われたこの黒縁眼鏡はユリアからのプレゼントだ。
何気にレンズに赤外線が組み込まれている高性能な眼鏡何だが……
フレームの先のボタンを押せば服は透けて見える優れものだ。
服の内側に隠してある武器などが丸見えになる。
「個性だ」
正直に話せないので俺はそう答えた。
「ファッションセンスが皆無な個性ね。正直、ダサいわ」
「そうかもしれないな」
俺にファッションセンスを求められても困る。
「あら、怒らないのね。何で?」
「自覚があるからだ。それじゃあダメか?」
「ふ~~ん、そうなんだ。自覚があるんだ。あっ、美晴さん、大変、窓の外が……」
リリカは、俺と蓼科さんが窓に視線がいってる間に、持っていた俺の学生証をカードを飛ばすように回転させながら俺の顔に向けて投げつけた。
『パシッ』
俺は目の前に迫ってくる学生証をキャッチして、何事もなかったように財布にしまった。
「リリカ、窓の外って何があったの?」
蓼科さんは、リリカがした行為がわからなかったようだ。
「ふ~~ん、なかなかやるわね」
リリカの言葉は俺に向けた言葉だったが、蓼科さんはそれにも気付いていない。
「窓の外で何かをやってたの?」
「ああ、美晴さん、それリリカの勘違いでした。気にしないで下さい」
「へ~~そうなの」
何だか理解できない様子な蓼科さんだったが、リリカの眼は俺をずっと見つめたままだ。
「美晴さん、いいわ。この人で。でも仮だからね。(仮)なんだからね」
「はい、はい。そうですか。東藤さん、すみません。少し我儘な子でして……」
「そうですか?とても可愛らしい方ですよ。無邪気な女の子だと俺は思います」
俺にとってそんな行動は幼児を相手するのと一緒だ。
「へ~~私が無邪気な女の子なんだ?」
「ああ、まるで生まれたばかりの赤子のようだ」
リリカは、4歳児の珠美よりも幼く感じる。
「楽しみね。これから」
「そうだね」
敵意剥き出しのリリカの眼は細く微笑んでいた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
付きまとう聖女様は、貧乏貴族の僕にだけ甘すぎる〜人生相談がきっかけで日常がカオスに。でも、モテたい願望が強すぎて、つい……〜
咲月ねむと
ファンタジー
この乙女ゲーの世界に転生してからというもの毎日教会に通い詰めている。アランという貧乏貴族の三男に生まれた俺は、何を目指し、何を糧にして生きていけばいいのか分からない。
そんな人生のアドバイスをもらうため教会に通っているのだが……。
「アランくん。今日も来てくれたのね」
そう優しく語り掛けてくれるのは、頼れる聖女リリシア様だ。人々の悩みを静かに聞き入れ、的確なアドバイスをくれる美人聖女様だと人気だ。
そんな彼女だが、なぜか俺が相談するといつも様子が変になる。アドバイスはくれるのだがそのアドバイス自体が問題でどうも自己主張が強すぎるのだ。
「お母様のプレゼントは何を買えばいい?」
と相談すれば、
「ネックレスをプレゼントするのはどう? でもね私は結婚指輪が欲しいの」などという発言が飛び出すのだ。意味が分からない。
そして俺もようやく一人暮らしを始める歳になった。王都にある学園に通い始めたのだが、教会本部にそれはもう美人な聖女が赴任してきたとか。
興味本位で俺は教会本部に人生相談をお願いした。担当になった人物というのが、またもやリリシアさんで…………。
ようやく俺は気づいたんだ。
リリシアさんに付きまとわれていること、この頻繁に相談する関係が実は異常だったということに。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる