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第14話 幸か不幸か
しおりを挟む朝食を慌てて済ませて、聡美姉のワンボックスカーでリリカの家に向かう。
この国産のワンボックスカーは、前も言った通りいろいろな仕掛けがある。
まず、助手席がボタンひとつで折り畳まれ、そこからコンピュータシステムが出現する。
大概の情報収集はここでできてしまうと聡美姉が言っていた。
昨夜も体験した車高の上がるシステム。
後続車に煙幕を撒き散らすことができる対後続車撃退システム。
他にも細かい仕様があるらしく、仕事を外出先でする場合は都合が良い車だと言っている。
何故、高級外国車に搭載しなかったのかを聞いたが、日本でメジャーな車の方が目立たないし、改造するのに部品調達が容易などの理由らしい。
約30分程車を走らせると、リリカの住んでいるマンションに到着した。
大通りに面している高層マンションでタイプは1LDKなのだそうだ。
車は目の前の路上のタイムパーキングに止めて、俺は車で留守番となった。
どうしてもリリカは俺を家に入れるのが嫌みたいだ。
聡美姉は、盗聴器発見機器を持ち込んでリリカと一緒に家に行った。
俺は周囲を警戒しながらそのマンションの構造を調べていた。
30分程たって、聡美姉とリリカが戻って来た。
聡美姉とリリカは大きな荷物を持っている。
「どうしたんだ?その荷物」
「盗聴器は一個だけあったけど、乾電池式の物で充電が切れてたんだよ。プレゼントのぬいぐるみの中にあったんだけど、これが本命じゃないよね。そうなると他に無いんだよ。だから、解決するまでリリカちゃんはうちに来てもらう事になったんだ」
「それでその荷物か」
「ほらっ、あんた。これを積み込んでよ。サブでしょう?」
「はいはい、わかったよ」
これもマネージャーの仕事なのか?
荷物を後部座席に積み込んで車を発進させる。
奴はまだ現れていない。
「なあ、お前の家の上下左右って誰が住んでいるんだ?」
「そんなの知るわけ無いでしょう。事務所が借りているのを私が使わしてもらってるんだから。それと、お前じゃなくって名前で呼んでくれる?他の人に勘違いされても困るし……」
「わかった。リリカと呼ぶよ」
「何で呼び捨てなの!」
リリカが『キッ』と俺を睨んでいると、聡美姉が話しかけてきた。
「カズ君の言いたい事はわかったよ。私が調べておくね」
聡美姉はできる女だ。
頼ってばかりで良いのだろうか……
聡美姉は俺の顔を見て、微笑んでいる。
「カズ君、この件はウィステリア探偵事務所が受けた依頼なんだよ。私も社員なんだから、そんな浮かない顔してないでこういう時はお姉ちゃんに任せなさい」
俺はそんな顔をしてたのか。
彼女は俺の心がわかるのだろうか……
「わかった。聡美姉、頼む」
「うん、カズ君は警護宜しくね」
◇
緑扇館高校2年C組の生徒である鈴谷羅維華達女子グループの3人とと立花光希達の男子グループ3人は、シブヤにあるカラオケ店で昼食を取りながら楽しく過ごしていた。
2組の男女グループが一緒に行動しているのは、鈴谷羅維華と立花光希が幼馴染みの関係だったからだ。
いつも一緒にいる女子グループの佐伯楓は部活で欠席、それと鴨志田祐美は亡くなったお祖父ちゃんの法事で欠席している。
12時を過ぎた頃、男子の一人新井真吾がテレビが見たいと言い出した。
今、人気のアイドル『FG5』がゲスト出演するらしい。
「真吾は『FG5』が好きだなぁ」
立花光希は、そう言いながら自分もファンである事を隠している。
理由は、アイドルにうつつを抜かすのは格好悪いと思っているようだ。
「女子のファンも多いし老若男女に愛されてるんだぜ。それに光希はどうだか知らないけど太一だってリリカちゃん推しなんだからよ」
真吾は心外だと言いたげで、男女問わず人気なアイドルグループだと公言する。
勿論、光希もそれは知っている。
寧ろ密かにグッヅを買い込むほどのファンでもある。
「私も好きだよ。ダンスも歌も最高だし、グッヅも結構持ってる。私はアヤカ推しだけどね」
瀬川美咲は、そんな男子達の会話に楽しそうに参加している。
「アヤカも可愛いよな。俺はリリカ推しだけどアヤカも推してるぜ」
太一は、嬉しそうに美咲に話しかけていた。
(何を言ってるんだ。『FG5』のメンバー全員可愛いだろう。俺は全員推しだぜ)
光希は、心の中でそう呟きながら参加していた。
「おっと、出てきたぜ『FG5』マジ可愛い~~』
真吾はテレビにゲスト出演している『FG5』を喰い入るように見ている。
光希もピザを食べながら横目でチラチラとテレビを見ていた。
~~~~~
「『FG5』に皆さんは何時も元気ですね~~、最近、良いことでもあったんですか?」
司会者が『FG5』のメンバーに尋ねる。
椅子に座っているメンバーのアヤカがそれに答えた。
「今度、8月に武道館で単独コンサートするんですけど、その時の衣装合わせがあって、その衣装が可愛くて嬉しくなっちゃいました」
「おっと、これは楽しみですね~~でも会場に行けない人は皆さんの可愛い姿を見れないのは残念ですね~~」
すると、ミミカが手を振りながらちゃっかり宣伝をしている。
「会場に来られない方は後でブルーレイが出ますので、それまで楽しみに待ってて下さい」
「最高のパフォーマンスをお見せできるように、頑張ります」
リーダーのリリカは、落ち着いたイメージでそう話した。
「他にも何かありますか?」
司会者は、別の話題も引き出そうとしてるようだ。
「そうですね~~最近、私達にサブマネージャーが付いたんです」
「へ~~マネージャーさんの他にサブマネージャーもついたんですか?こりゃあ大物タレントの仲間入りですなあ」
ゲスト出演しているお笑い芸人が口を挟んできた。
「大物では無いです。まだまだひよっこです」
リーダーのリリカは謙遜しつつ、この話題を早く終わらそうとしていた。
「で、どんな人なんですか?」
リリカは、焦った言った。
「あの~~それは事務所の方に確認して……」
「高校二年生の男の子なんです」
リリカの話の途中で、天然系のカレンがそう呟くと、さっきの芸人は喰いついた。
「良いんですか?みんなと歳も変わらん男の人がサブでもマネージャーしてて。羨ましいわ~~出来ることなら変わりたいですわ」
「あの~~どうぞ代わって下さい」
ユキナがそうフォローするとその芸人は、
「あはは、それはサブのマネージャーさんがかわいそうやわ。早く変わって欲しいみたいに言ったらあかんで~~」
そのサブマネージャーがみんなに好かれて無い事を印象付けたのだった。
「新曲も今月末に発売になります。皆さん、応援よろしくお願いします」
リリカが慌てて話を変えてこの話を締めたのだった。
~~~~~
「なあ、今の聞いた?俺達と同じ高二の男子がサブマネージャーだとよ」
真吾は新たな情報に衝撃を受けている。
「いいなあ、いつのメンバーと一緒にいるんだよなぁ」
太一は妄想の住人に成り果てた。
「あたいらと同じ歳って、きっと親のコネかなんかでしょう?お金を山ほど積んでサブマネージャーになったのよ。結局、この世界はお金なのよ」
女子グループの羅維華がつまらなそうにそう言い切る。
暫く歌を歌うのも忘れてクラスメイト達はその話題に花を咲かせていた。
ただ光希だけは、何も喋らず心の中で嫉妬の炎を燃やしていた。
◇
放送終了後、ネットやSNSでは、サブマネージャーの話題で埋め尽くされていた。
何処かの大物芸能人の息子説や事務所のスポンサーである大企業の息子説が有力だった。
暴露してしまったユキナは、他のメンバーからこっ酷く怒られていた。
事務所でも引っ切り無しに電話が鳴り響いていたという。
ファンやネット民達はその男性の特定で大忙しらしい。
幸か不幸か、『FG5』の知名度は更に広がったのだった。
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