インミシべルな玩具〜暗殺者として育てられた俺が普通の高校生に〜

涼月 風

文字の大きさ
26 / 89

閑話 鴨志田結衣

しおりを挟む

~鴨志田 結衣~

東藤君が転入してきた日を私は良く覚えている。
それは、学年が2年生になった日の事。
普通なら学期始まりの日なので目立たないはずなのに、周囲をキョロキョロしてここがどこか一生懸命確認してる人がいた。

黒板を見たり、チョークを見たり、椅子や机を確認したり、まるで学校という場所に初めて訪れたかのようだった。

うちの学校は中等部からの持ち上がりの子が多く、ほとんどが顔見知りだ。
だけど、その男の子はまるで見たことがなかった。

クラスのみんなは殆どが仲良しグループが決まっていて、私も中等部から仲の良かったみんなと一緒にいた。

そんな中で、一人机に座り、本を読み始めた男の子は私の席の斜め後ろだった。

「誰だろう?」

私の他、みんなもそう思ってたはずだ。
新しいクラスのお決まりの自己紹介が始まった。
知り合いが多かったが初めて同じクラスになる子もいた。

そんな中であの男の子が自己紹介をする。
今年、海外から来た東藤和輝とその男の子は名乗った。
ただ、それだけだった。

みんなの興味は一瞬だけだ。
おそらく、彼の見た目からそう思ったのだと思う。
もしカッコ良い男の子だったらみんなほっとかないはずだ。

そして、数日が過ぎて委員会を決める事になった。
面倒な委員会は嫌だなって思ってたけど、美化委員に指名されてしまった。
正直、美化委員は放課後の掃除もあるし、あまり人気のない委員会だ。

運が悪いなって諦めていた。
そして、東藤君も同じ美化委員になった。
千葉先生からクラスに馴染むようにと、ご指名がかかったのだ。

私は千葉先生のことは好きではない。
自分勝手だし、エコ贔屓してるから。
きっと東藤君も千葉先生の自分勝手なので都合で指名されたに違いない。

彼は美化委員というものを理解していなかった。
外国にはないのかな、って思って同じ委員だから話しかけた。
彼は、余計な事は言わずに最小限の言語で話してくる。

無口な人なんだなって思ってた程度だけど、他のクラスのみんなにはそんな受け答えが嫌われてた。
仲間外れは可愛そうって当時は思っていて、私は少し上から目線だったと思う。

でも、彼は話しかけると的確に返答をくれた。
その言葉に嘘はなく、少し戯けた男子より好感が持てた。
少しでもクラスの事を好きになってほしい、そんな思いもあって朝の挨拶と委員会の時は積極的に彼に話しかけた。

でも、クラスの男子は、そんな態度がムカつくみたい。
私はムカつくとかの言葉は嫌い。
よく羅維華ちゃんが話すのを聞くけど、いつも心がモヤモヤしてる。

ある日、放課後女子の仲良しグループでシブヤの街に出かけた。
カラオケ店に入って歌って、スッキリした良い気分で家に帰る途中、東藤君が働いている姿を目撃する。

私は、こんなに遅くまで働いて偉いなって思ってたけど、他の子は違ったみたい。
東藤君が働いていた事を話すと、みんな馬鹿にするような言葉を投げていた。
なんで、そんな話になるの?
私には理解できない。

そして、あの爆発の日、東藤君は廊下に出ていた。
そして、窓の外に飛び降りたのだ。

『わっ!!』

私は声をあげた。
なんで飛び降りたの?
自殺?

怖くて直ぐには見に行けなかたった。
でも、怪我してたらどうしよう?

そんな思いで勇気を出して廊下に出て窓の外を見たけど、誰もいなかった。
安心したけど、翌日、東藤君が入院したと聞いた時は心臓が張り裂けそうだった。

私が直ぐに駆けつけてれば……
罪悪感が押し寄せ、しばらく何も手がつけられなかった。

千葉先生に入院先を聞いた。
生徒の個人情報だから教えられないと言われた。
おそらく、先生も知らなかったんじゃないかと思う。

そして、退院後、東藤君に話しかけた。
でも、それが良くなかったみたい。
クラスの男子が東藤君に文句を言い始めた。

あんなに怪我してるのに、その事も気にしないで文句を言うなんて普通じゃない。
このクラスはなんだか嫌い。
羅維華ちゃんも昔と変わってしまったし、みんな良くない方向に流れて行ってる。

私は東藤君が怪我して左手でシャーペンを持って一生懸命黒板の字を写してた姿を見て、気持ちが抑えられなくなった。

休み時間の度に自分のノートをコピーしていた。
友達は不思議そうな顔をしてたけど、気にしても仕方ない。
だって、みんな優しくないんだもの。

コピーは放課後までかかった。
東藤君は帰ってしまったようなので、慌てて追いかけた。
怪我のせいか、ゆっくり歩いてくれてたおかげで追いついて渡す事ができた。

でも、そこからが予想もつかない事ばかりだ。
メイさんと出会い、クレープ屋さんで中学校の時の後輩に会った。
そして、東藤君の様子が明らかに変だった。

沙希ちゃんの話を聞いて、もしかしてって思ったけど、都合よくそんな話があるわけないとも思っていた。
でも、メイさんを呼び出して、話を聞く事にした。

私は、今まで生きててこんな話を聞いた事がない。
確かに想像の産物である映画や小説などである話かもしれない。
でも、実際に経験した人はどれだけいるだろう?

殆どがそんな体験をしないで老いて死んでいくだろう。
でも、メイさんや東藤君は実際に体験してきた事だ。
ああ、でもこれで東藤君の違和感がわかった気がする。

彼は私達と違う日常を過ごしているんだ。
学校の生活でも家庭でも私達と歩いてるところが交わらないところを一人で歩いてる。
凄い、とにかく凄い人だと思う。

どうしたら東藤君が幸せになるのだろう?
どうしたら笑顔を見せてくれるのだろう?
どうしたら生きてて良かったと思ってくれるのだろう?

私は臆病な人間だ。
何時も仲間外れになるのが怖くて金魚のフンのようにみんなにくっついている。
本当に仲の良いのは楓ちゃんだけだ。

その楓ちゃんでさえ、女子の1人になる事を怖がる。
なんで女子はグループを作るんだろう?
誰と誰が話しても良いじゃない?

私は決めた。
明日からは、他のみんなに嫌われても東藤君と一緒にいよう。
そして、少しでも心が晴れてくれるなら、私も生きてる価値があるんじゃないかと思える。



覚悟して待っててね。東藤君……


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!

みずがめ
恋愛
★講談社ラノベ文庫新人賞佳作を受賞しました!  杉藤千夏はツンデレ少女である。  そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。  千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。  徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い! ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

俺は陰キャだったはずなのに……なぜか学園内でモテ期が到来した件

こうたろ
青春
友人も恋人も居ないボッチ学生だった山田拓海が何故かモテだしてしまう。 ・学園一の美人で、男女問わず憧れの的。 ・陸上部のエースで、明るく活発なスポーツ女子。 ・物静かで儚げな美術部員。 ・アメリカから来た金髪碧眼でハイテンションな留学生。 ・幼稚園から中学まで毎朝一緒に登校していた幼馴染。 拓海の生活はどうなるのか!?

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

学年一可愛いS級の美少女の令嬢三姉妹が、何故かやたらと俺の部屋に入り浸ってくる件について

沢田美
恋愛
名門・雄幸高校で目立たず生きる一年生、神谷悠真。 クラスでは影が薄く、青春とは無縁の平凡な日々を送っていた。だがある放課後、街で不良に絡まれていた女子生徒を助けたことで、その日常は一変する。救った相手は、学年一の美少女三姉妹として知られる西園寺家の次女・優里だった。さらに家に帰れば、三姉妹の長女・龍華がなぜか当然のように悠真の部屋に入り浸っている。名門令嬢三姉妹に振り回されながら、静かだったはずの悠真の青春は少しずつ騒がしく揺れ始める。

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。 ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。 そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。 問題は一つ。 兄様との関係が、どうしようもなく悪い。 僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。 このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない! 追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。 それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!! それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります! 5/9から小説になろうでも掲載中

処理中です...