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第28話 外来診察のはずが
しおりを挟む腹に銃撃を受けた中年女性の緊急手術をする事になった日下病院のみどり先生。
その場に居合わせた鴨志田さんと沙希を見て臨時看護士のアルバイトに誘った。
みどり先生の迫力に断るという選択肢を選べなかった2人は、幸子さんに連れられて奥の部屋に入って行った。
この先生にとっては資格とか経験とか関係ないみたいだ。
良いのか?
制服からナース服に着替えた2人は、幸子さんの指導で雑用をする予定だ。
「私は先生とオペ室に入るから、入院患者とか適当にやってて」
う~~ん、見事な指導だ。
何をするのかさっぱりわからない。
俺も何故か白衣を着せられここにいる。
「ねぇ、何すれば良いの?」
「さあ、どうしよう」
戸惑ってる2人に俺は、この時間は夕食の配膳前だ。
検温とか血圧を測ってた記憶がある。
ナースセンターと呼ばれる部屋には、入院患者のデータがある。
「あ、これだよ。2階は5人。3階は3人入院してるみたいだ。この紙に体温と血圧を測って記入すれば良いんじゃないか?」
「わかった。やってみる」
「私、できるかなぁ」
沙希は病院の娘なので勝手が分かるようだが、鴨志田さんは戸惑ってる。
「俺も付いて行くから」
俺は、鴨志田さんと沙希と一緒に医療器具乗ってるワゴンを押して2階の入院患者のところに向かった。
「検温です」
見慣れた病室に俺達が入って行くと、入り口に近いジャスティンさんが気付く。
『お~~カズキ、医者の真似事か?』
『急患が入って緊急手術になったから、無理やり頼まれたんだよ』
『そうか、何時もの事だな』
俺が入院してた時はそんな事無かったが……
『こっちのべっぴんさんは、カズキの知り合いか?』
『俺の同級生だ。手出しした奴は殺す』
『大事なBABYなんだな。了解』
タガログ語でそう話す。
俺が2人をみると鴨志田さんと沙希は、呆然としていた。
「ジャスティスさん、英語が話せる。日本語も少しなら平気だ。さて、体温計は……と」
俺が体温計を渡して自分で測ってもらう。
そして血圧計を取り出して血圧を測る。
それをカルテに記入しておしまいだ。
自分がされた手順通りに2人に指示する。
2人は戸惑いながらも、結構上手にやり終えた。
「さて、次だ」
俺がそう言うと鴨志田さんは自信をつけたのか『やってみたい』と言い出した。
単純作業だし任せても、平気そうだったので俺も『OK』と返事する。
俺と沙希は新しく入って来たメキシコの人のところに行く。
鴨志田さんは、キム・シウのところだ。
メキシコ人のダビッドさんは、28歳。日本のアニメに興味があり来日したはいいが、お金はあまり持ってこなかったらしく、繁華街で働いていたが、アニメ声の女性に恋してしまいストーカー紛いの行為をして階段から落ちたらしい。
それを聞いた俺達は、何も言えなかった。
その時、
『ギャホ~~ン』
奇妙な叫び声が上がった。
キム・シウのところだ。
駆けつけてみると、キム・シウはうつ伏せになっていてお尻に注射器が刺さっている。
え~~と、どうしたんだろう?
なんで注射器があるんだ?
「あ、東藤君。この人ね。注射がいいって言ったから、どこに?って聞いたらお尻だって教えてくれたんだ。でも、気絶しちゃったみたい」
確かにキム・シウは、ピクピク動きながら目を白黒させている。
鴨志田さんが日本語で話して、キムシウが韓国語で話して、結果そうなったらしい。。韓国語の発音が鴨志田さんの会話と噛み合ってしまったのだろう。
いろいろあったが、こうやって順番にやって行くと、それだけで結構な時間になる。
全てをやり終えて、今度は食事の用意だ。
1階の受付には、誰もいない。
とにかく、ここは人がいない。
業者が運んできた食事は、1階の配膳室に置かれていた。
人がいないのは何時もの事なのだろう。
「今度は、これを運ぶぞ」
「わかった」
「うん、頑張る」
慣れない仕事で少し疲れているようだ。
俺も手がまだ上手く使えないので2人に頼る事が多い。
エレベーターで食事を運んで、全て配り終えた頃、、見慣れないお婆さんがやって来た。
「あんた、誰だい?」
「え~~と、みどり先生が緊急手術に入りまして、偶々診察を受けに来た俺とその連れが臨時アルバイトに誘われました」
「おお、そうか、それは済まなかったな。で、名前は何という?」
「俺は東藤和輝です」
「私は鴨志田結衣です」
「神宮司沙希です」
「私はここの医院長、みどりの祖母だよ」
お婆さんが医院長って聞いてたが会うのは初めてだ。
「そこの娘っ子、お前さんはまさか神宮司病院の娘か?」
「はい、知ってるんですか?」
「お前のお祖父さんとは飲み友達だったよ。残念だったがな……」
まさか、この婆さんは祖父さんの知り合いだったのか……
沙希はチラッと俺を見た気がした。
「偶然ですね。では、父とも知り合いですか?」
「あの表六玉のことかい?医者をしてるのが信じられないよ。でも、腕はいいらしいな」
「どうなんでしょう?私は腕の事はよくわかりません」
「じゃあ、私は手術室に行くよ。みどりの助けてコールが来たからねえ~」
医院長の婆さんは、それから着替えて手術室に入って行った。
それから3時間後、手術室からみんなが出てきた。
手術は成功したようだ。
祈るような姿で待っていたお付きのヤクザさんも安心したようだ。
時間はもう午後9時をまわっていた。
◇
「済まなかったな~~助かったよ」
病院内でお寿司の出前をみんなで食べている。
みどり先生が奮発して特上にぎりを奢ってくれた。
「ほら、これはバイト代だ」
俺達3人に3万円づつ入っている。
「こんなにですか?」
「嬉しいけど、良いのかな?」
鴨志田さんと沙希はそんな事を言ってるが、口止め料とかいろいろ含まれてその金額だと俺は理解してる。
お寿司を食べてるところに、ノックをしてあの黒いスーツを着た男が入って来た。
40歳前後の体格の良い男性だ。
「なんだい?」
医院長の婆さんがそう問いかける。
「さっきお聞きしたんですが、そこの若いお兄さんは掃除屋だとか」
もしかして俺の事か?
「俺ですか?一応、ウィステリア探偵事務所の社員ですけど」
「やはり、紫藤の兄貴のところでしたか。この間は、姉さんの依頼を受けてくれたそうでありがとごぜ~ます」
どこかで見たと思ったら、あの時のホテルで腹上死したおっさんの処理した時のあのおばさんか……
「あの時のホテルでの処理ですか?」
「はい、足がつきませんでした。助かりやした。それで、相談なんでやすが、姉さんの仇を依頼させてもらいたいのです」
鴨志田さんと沙希が俺を見る。
ここではマズい……
「すみません、向こうに行きませんか?ここではちょっと……」
「そうでしたね。気が回りませんで……」
俺とその黒スーツの男性は、待合室に移動するのだった。
◇
誰もいない待合室に移動した俺は、黒スーツを着た男から名刺を渡された。
金堂組 本部長 鰻澤 義三郎
と書いてあった。
俺もポケットから財布を取り出して、探偵事務所の名刺を渡す。
「仇と言いますが、金堂組は大きな組織ですよね。自分のところで兵隊を動かせるんじゃないですか?」
「今回の件、金堂組は動きません」
「えっ、それは何故ですか?メンツだけで命を張る金堂組の人の言葉とは思えませんが……」
ヤクザの世界では舐められたらそれで終わりだ。
だから、今回のケースの場合、徹底的に相手を潰すのは常識だ。
「それは姉さんの立場の問題です」
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「へい、かしこまりやした」
受けるにしても難儀な仕事になりそうだ。
黒スーツの鰻沢さんは、手術を終えたあの中年女性のところに戻って行った。
そして、寿司を食べ終えた鴨志田さんと沙希は、タクシーで家まで帰って行った。勿論、その請求先は俺だ。
俺も連絡を入れようとスマホをバッグから取り出したら、聡美姉やら雫姉から連絡が入ってた。
慌てて電話して状況を教える。
すると、聡美姉から意外な言葉が返ってきた。
白鴎院兼定が会って話がしたいと……
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