インミシべルな玩具〜暗殺者として育てられた俺が普通の高校生に〜

涼月 風

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第51話 蜘蛛の糸

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朝の駅前広場、沙希との待ち合わせはある意味日常となっていた。
いまだに心は落ち着かないが、会えないとそれは寂しい感じもしており、俺の感情が自分でも理解できない状態にあった。

沙希は、俺と一緒に通学する事で痴漢よけになっているらしい。
女子はそういう意味でも通学するだけで大変なんだということがわかった。

俺は昨日からの難問に悩んでいる。
曲作りのアテがない。
悩んでいるよりは、と思いきって沙希に尋ねた。

「ちびっ子アイドル達が歌う新曲ってどうやったら作れると思う?」

「先輩、夢と現実を理解してますか?今は現実ですよ。夢から早く覚めた方がいいですよ」

まあ、突然こんな事を聞いたらそう思うのかも知れないが……

「実はな、あと数日でオリジナル曲を1曲作らないといけなくなった」

「え~~と、現実ですか?夢ですか?」

「現実だ。しかも俺には音楽の事などまるっきりわからない。解決策が全く見えてこない」

「どうしたらそういう状況になるのか知りたいところですが、まあ、いいでしょう。先輩は音楽経験があるのですか?」

「いや、全くない。興味もない」

「なら、なんでそんな事を……と言っても仕方ないですね。先輩ですし」

「す、すまない」

「わかりました。音楽経験がない先輩に曲が必要なら、そういう事が得意な人材を確保すればいいだけです」

「そうはいうが、全くその人材とやらに心あたりがないのだが」

「まあ、先輩ですし、仕方ありませんね。最近は、自分のオリジナル曲を動画でアップしてる人も多いですよ。先輩が素人ならそういう人の協力を得ればいいと思いますよ」

「そうなんだ。因みにどこにアップしてるんだ?」

「いろいろありますけど、有名なのはユア・チューブですかね」

「わかった。後で見てみる」

沙希から仕入れた情報を元に、俺はオリジナル曲を発表してる動画を見まくる事になった。





教室でいつもなら本を読んでるところだが、俺はヘッドホンをして沙希から教えてもらったユア・チューブを見ている。

オリジナル曲を探していたが、あのちびっ子達に合う曲が無い。

俺は、動画を見まくって少し面白い動画を見つけた。
黒頭巾を被って世界平和を訴える男性だ。
内容は『富は裕福な者のところに集まり、民衆には行き届かない。人は生まれながら平等である。是正すべき時がきた~~」とか、熱弁している。
再生数も結構あり、この動画の主張に賛同する人もいるのだろう。

人が生まれながら平等のはずがないだろうに……

マズい、こんな動画を見てる暇はなかった。
曲を探さないと……

「東藤君、東藤君」

俺が動画を見てると、肩を叩かれた。
振り向くと鴨志田さんがそこにいる。

「どうした?」
「何見てるの?」

久しぶりに声をかけられた気がする。

「ちょっと、ちびっ子達に合うオリジナル曲を探してるんだ」

「そうなの?町内会とかで頼まれたの?」

まさか、プロの芸能事務所から頼まれたとは言えない。

「まあ、そんなところだ」

そうだ、蓼科さんも素人の俺に頼るくらいなら何故、音楽関係に付き合いの多いそういう人達に頼まないのだろうか?
昼休みにでも聞いてみよう。

「あのね、日曜日の件なんだけど……」

そういえば、遊園地に行くと約束してた。
今はそれで頃では無い。
これは断らないと……

「今週の日曜日は、ちょっと用事が出来ちゃって、来週の日曜日でもいいかな?」

「わかった」

「うん、ごめんね。後で連絡入れるからね」

そう言って鴨志田さんは自分の責任つく。
今週は忙しい。
だが、待てよ……来週の日曜日ってちびっ子達のコンサートをする日じゃなかったか?

俺は慌てて、鴨志田さんに都合が悪いと言おうとしたら、担任が入って来てホームルームが始まってしまった。

後で断ればいいか……

俺はその時はそう思っていた。





昼休み、今日は晴れているのでいつもの木陰に弁当を持ってやってきた。
穂乃果が先に来て座っている。

「仕事は上手くいったのか?」

「問題ありません。というかその問題がないのが問題なのです」

何を言ってるのか分からん。

「理解できない。少しわかるように頼む」

「はい、え~~とですね。私はある人を調査する為にその者が通う大学に潜入しました。そこでの彼の日常は普通だったのです。授業を受け、友人と語らい何の怪しい素振りはありませんでした」

調査対象が怪しい動きを見せれば収穫があった、と言いたいのだな。

「そういう事だったのだな。理解した」

「いいえ、お粗末様でした」

「そういえば、昨日穂乃果の妹の花乃果にあったぞ」

「ほほう、我が妹に。如何して?」

「偶然だ。顔立ちは似ているが妹の方は人見知りしないタイプのようだ」

「確かに、そう見たいです。友人も多いと聞き及んでおります」

「そうみたいだな。花乃果も樫藤流を嗜むのか?」

「それがですね。稽古にいまいち身が入らないので困っております」

「穂乃果が樫藤流を受け継いでいるんだ。妹には好きにさせたらどうだ?」

「それはなりません。樫藤に生まれたという意味は、技を伝承することなのです。私だけが受け継ぐというわけにはいきませんです。はい」

これはバレたら揉めそうだな……

「まだ、幼い身、好きな事をしてでも樫藤流を学べるのではないか?」

「お言葉ですが、樫藤流はそんなに甘いものではありません。日常生活の全てを修業に費やさなければ、まず習得するのは無理でございます」

これは、ますます揉めそうだ。

「そうか、さすがだな、恐れ入った」

「いいえ、些細な事です」

「そういえば、妹の花乃果は穂乃果に似て可愛らしいところもそっくりだったぞ」

急に慌て出した穂乃果。

「…………東藤殿。某はこれにて」

穂乃果は食べ終えた弁当をさっさとしまい、逃げるようにその場から去って行った。

うむ、トイレかな?





自分の得意分野ではない事を任されるのは、物凄いストレスとなる。

俺は蓼科さんに連絡を入れた。
音楽業界に身を置いている蓼科さんの方が詳しいからというのが建前だ。

「あ、俺です。東藤です」

スマホから連絡を入れると向こうで何やら騒がしい。

「何のようなの!」

いきなり怒鳴り声で電話に出る人も珍しい。

「オリジナル曲の件ですけど、やはり蓼科さんの方が、詳しい……」

そこまで俺が言うと

「今、忙しいからまたね。ガチャ」

電話を切られてしまった。
忙しいのはわかるが、この仕打ちとは……
これ、怒っていい案件だよな、きっと。

結局、曲は俺が用意するのか?
無理だろう、これ……

俺に残された道は動画を見ることしかない。
他に手立てのない俺にはそれ以外思いつかない。

オリジナル曲と言ってもふざけたものや大人っぽい曲など、聴いていて苺パフェのイメージに合わないものばかり。
それでも、数をこなせば見つかるかも知れない。

授業中も、トイレの時間も俺は動画を見る、見る、見る……

そして、とうとう希望の一筋の蜘蛛の糸を見つけたのだ。
地獄に落とされたカンダタは、きっとこのような気持ちだったのだろう。

名前はローズという人らしい。
動画には少女のイラストしか映らないが、流れる曲は可愛らしく、そして元気になるような曲だった。

「これだ!」

俺は思わず声を上げた。
まだ、授業中だったが……

その動画をアップしてるローズさんのチャンネル登録を済ませてDM送る。
俺は、その返答を待つだけとなった。





~鴨志田結衣~

「良かった~~予定延ばしてもOKしてくれた」

最近、私はある事で悩んでいた。
勿論、東藤君のことだ。

羅維華が凄いイケメンに助けられた、と騒いでいたのが、あの校外学習の日。
それ以来、羅維華の様子が変だ。
彼女はどうやらそのイケメン男子に恋をしてしまったようだ。

いつも自信に満ち溢れている羅維華がこんなになってしまうなんて、恋とは恐ろしいものだ。

でも、最近の羅維華は、とても可愛らしい。
元々惚れっぽいところがあったけど、今回のようなケースは初めてだ。

でも、私は羅維華を助けた人物に心当たりがあった。
メイさんからいろいろ聞いていたので、まず間違いない。

手に包帯巻いてたし……

私は東藤君を空き教室に呼び出してその素顔を見た。

ああ、やはり……

その場の立っていられたのが不思議なくらい東藤君はイケメンだった。

腰抜かすかと思ったよ……

その後の私は変だ。
東藤君を見るたび胸が痛くなる。

まともに会話も出来なくなってしまった。
それに、普段はあまり食べないスナック菓子をつい摘んでしまう。

そして、気付いてしまったのだ。
決して楓から教えてもらったわけじゃないから……

私は東藤君の事を……す、す、す、好きになってしまった。

わ~~どうしよう。

そんなわけで私の食欲は増すばかり。
どうやら私はストレスを抱えると食べてしまう性格のようだ。

おかげで体重もうなぎ登りに増えてしまった。
二の腕や脇腹に見慣れない脂肪がタプタプしてる。

こんな状態で東藤君と遊園地に行けない!

私は決心した。
断オヤツを……

そして、私は勇気を出して東藤君に話しかけ、予定を繰り延べてもらった。

絶対この1週間で痩せて見せる。

私の戦いは既に始まっているのよ。


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