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第57話 俺と百合子の世界
しおりを挟む聡美姉から連絡を受けて、犯人のアジトが判明した。
この短時間で見つけるとは……
結局、バイクを飛ばしても白い商用車に追いつくことはできなかった。
聡美姉の誘導により、俺は東名高速をゴテンバで降りて山中湖方面に向けてバイクを走らせている。
ガソリンが残り少ない。
この先何があるかわからないため、近くのガソリンスタンドに寄る。
販売機の前でカードでガソリンを入れていると、50歳半ばくらいのおっさんが近寄ってきて声をかけられた。
「若いのに渋いバイク乗ってるなあ」
懐かしそうにバイクを見るおっさん。
「知り合いのバイクです」
「そうか、でも、サンハンとは恐れ入った。懐かしいなあ~~」
「サンハンですか?」
「当時はサンハン、サンパン、サンバンとか呼ばれてたよ。ナナハンキラーとかいう奴もいた」
「そうなんだ」
「このバイクはとにかく早い。当時この排気量で加速も高速の伸びも右に出るものはなかったよ」
そう言って懐かしそうにバイクを見るおっさんは子供に戻ったようだった。
バイクの話が長引きそうなので俺は素早くガソリンを補充してエンジンをかける。エンジンを回すたび、白い排気煙がマフラーから出ていた。
『おおーーっ』
おっさんは何故か感動している。
俺はおっさんに会釈して山中湖方面にバイクを走らせた。
◇
山中湖畔にある別荘に白い商用車と何台かの車が止まっている。
俺は、その別荘を見渡せる位置にバイクを止めて様子を伺っていた。
建物の外見からある程度の間取りを想定する。
ひとりでは一階を制圧しても2階から逃げられる可能性があるからだ。
中にいる人は少なくとも4人……10人まではいないと思う。
これは実戦で学んだ勘だ。
気配を察知しているわけではない。
手榴弾を投げ込んでいる以上、銃火器の装備はあるものと考える。
そうすると、正面からというのは難しいかも知れない。
ここは、穂乃果を見習って気配を消して2階から制圧しようと考える。
俺は、2階屋根から下がる雨どいを使って2階屋根に登る。
途中重みで器具が外れそうになったが、体重を別の箇所に足を置いて逃がしたおかげで落ちずに済んだ。
2階屋根からベランダに降りる。
そして窓から中の様子を伺い、誰もいないことを確認して鍵の部分の窓を割る。
勿論、音対策はしてある。
ベッドとテレビが置かれたその部屋は寝室のようだ。
ベッドのシーツが乱れているから使った形跡があり、タバコが置かれている。
この感じだと2階には、人はいない様子だ。
廊下から階段下を覗くと声が聞こえる。
それも複数の女の喘ぎ声だ。
声の感じから女は2人、それを相手する男も2以上……
人の事務所に手榴弾を投げ込んで、乱交とはいい身分だ。
このまま、手取り早く済ませるのは簡単だ。
でも、今回はそれではつまらない。
俺はアガサ・クリスティーの『そして誰もいなくなった』方式を採用する。
ひとりづづ仲間が消えて行く恐怖を味わうがいい。
しばらく2階で潜んでいると、男が階段を上って来た。
男は侵入した部屋に入る。
その背後から俺は男の首を捻じ曲げた。
『ゴキッ』
鈍い骨の軋む音がする。
上半身裸の男は、何も持ってないのは明らかだ。
部屋に置いてあったタバコを取りにきたようだ。
俺はそいつを押し入れに隠す。
男が戻らなかったら不審がって誰かが探しにくるだろう。
俺は、また家の中で空気と化した。
今度は女性が2階に上がって来た。
さっきの男を呼びに来たようだ。
半裸の姿の女性は、部屋に入り、そしてさっきの男と同じように押し入れで眠っている。
俺は、1階に降りて洗面所まで行く。
男がトイレに入ったのを確認したからだ。
水を流す音が聞こえて、ドアが開く。
背後から近寄った俺は、その男の首を90度以上回しトイレの中に押し込んでおく。
残りは2人か……
残っているのは男女2人。
聡美姉から送られてきた写真の男女である。
女がひとりトイレにやってきた。
ドアの前で人の名前を叫んでいる。
そして、ドアを開けて『キャッーー!!』と大きな悲鳴を上げた。
腰が抜けたのかその場に腰を落とす女。
這いつくばり、必死でその場から逃げようとしている。
俺は、女の前に立ち、顎を思いっきり蹴り上げた。
女の悲鳴を聞いて駆けつけてくるひとりの男。
残っている奴はこいつだけだ。
半裸姿だが、手には拳銃を持っている。
動かなくなった女を見つけて慌てて拳銃を構える。
『誰だ!どこにいる!』
そんな声が響くが、答えるバカはいない。
俺は、一瞬で距離をつめて拳銃を持つ腕を捻って健寿を落とさせる。
『き、貴様、まさか……』
俺はボディーに膝蹴りを喰らわせてそいつを黙らせた。
蹲る男の背後に回って両手を拘束する。
そして髪の毛を引っ張り、ランチキ騒ぎしていたリビングへと連れて行った。
「お前、許さねぇぞ!」
口だけは達者な奴だ。
「質問に答えろ!お前らのボスは誰だ?」
「誰がお前などに言うものか!この野郎、離せ!こいつを解け!」
「無駄のようだな。せっかく慈悲をかけて生かしてやったのに……」
「まさか、みんなは……」
口を割ってもこいつらはロクな情報を持ってなさそうだ。
スマホを回収して、通話記録などを調べた方が早い。
「もう、用はない」
俺は、その男の首目掛けて回し蹴りをぶち込んだ。
その男は、壁にぶつかり、そして動かなくなった。
バイクを走らせてる後方では、火柱が上がっている。
数分後には消防車が駆けつけてくるだろう。
回収した遺留品は、バイクの後部座席に括り付けてある。
拳銃や手榴弾などが、バッグに入ってる。
そして、スマホとタブレット、ノートパソコンも回収してある。
聡美姉に渡せば情報を引き出してくれるだろう。
家の中には、白い粉もあったがそれは持ち出してはいない。
そんな物は百害あって一利なしだ。
帰りは一般道を通って帰る。
時間はかかるが、銃がバッグに入ってるため、もしもを考えてのことだ。
別荘にいた奴らは素人だった。
ただの捨て駒として利用されたのだろう。
やられる事を想定しているボスと呼ばれる人物は、きっとどこかで嘲笑っているだろう。
俺からも早くプレゼントを渡してあげないとな……
バイクは、白煙を上げながら加速して峠に向かった。
◆
~白鴎院百合子~
「かーくんからのお返事がきません……」
私は一方的の会いたい旨を手紙に認めてしまった。
かーくんは、そんな私に嫌気がさしたのかも知れません。
来週の日曜日には、名家の集いによるパーティーが開かれます。
その時まで、お祖父様にもお会いできません。
父は、仕事でロンドンにいます。
母は、あの事件以来、人と合わなくなりました。
名家の集いのパーティーはお祖父様と私が白鴎院家として出席します。
それまでに、かーくんからのお返事を頂きたい。
名家の集いは、私にとってはとても辛い場です。
他の名家の男性からお誘いを受けてダンスをするのも億劫です。
「はあ……」
「お嬢様、どうかしましたか?」
「いいえ、来週のパーティーのことで少し気が滅入ってしまって……」
お付きの真里は、私の顔色ひとつ変わっただけで心配してくれます。
幼い頃から一緒にいますが、とても頭の回転が良い賢い女性です。
こんな私を見られたら幻滅されるかも知れませんね。
「大丈夫ですよ。真里は好きな事をしてて結構ですよ」
「では、お嬢様のお肩を揉ませていただきます」
「えっ、そんな事しなくても」
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今も私の気苦労を心配して肩を揉んでくれている。
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それに比べて私は、こんなことで塞ぎ込んで……
「真里、ありがとう。元気が出ました」
「そうでございますか?まだ、少しだけしか揉んでおりませんよ」
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かーくん、お返事待っていますね。
私の心の中にはかーくんしかいないのだから……
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