63 / 89
第62話 火曜日は惰性(2)
しおりを挟む同じクラスメイトの神崎陽奈は、ウィッグと眼鏡を外すと『読モ』と呼ばれる者に変身するらしい。
「だから!読モって言うのは読者モデルの事なの。つまりファッション雑誌で私は、自分で言うのも恥ずかしいけど売れてるの。人気モデルなの!」
神崎は必死に俺達にアピールしてるが、わからないものはわからない。
「穂乃果は女子だから、この手の話はわかるのではないか?」
「いえ、私は雑誌といえば月刊歴史人物しか読みません」
「確かに神崎は歴史人物とは言えないな」
「はい、まだ生きてますので」
「ちょっと!あなたたち。私生きてちゃいけないの?ってか、歴史人物って何よ。もう信じられない」
プンスカ怒る神崎。
俺達の会話のどこに怒るポイントがあったのだろう?
「とにかく、スマホのデーター消しただけじゃ無理なの。そのカエルみたいに寝転んでる男の記憶を消さない限りダメなのよ」
やっと神崎の言いたいことがわかった。
「それなら早くそう言えばいい」
「毒蜘蛛とやらは関係ありませんでしたね」
「毒蜘蛛じゃないからっ!読モだから!」
「そう言えば我が先祖の敵に女郎蜘蛛という「くの一」がおりました。結構な使い手で変装が得意だったと聞いております。一度手合わせしてみたかったです。はい」
穂乃果は思い出すかのようにしみじみ語った。
「なんで私がその女郎蜘蛛とか言うの。今その話関係ないよね!」
神崎はさらにヒートアップする。
「神崎、落ち着け。血圧が上がるぞ」
「むきーーっ!血圧ぐらい上がってちょうどいいのよ。私低血圧だから」
一向に収まらない神崎のヒステリー。
もう昼休みも終わりそうなので時間がない。
「穂乃果、さっきの一撃でアレはどうなってる?」
「おそらく、直近の記憶は失ってたおります。どのくらい遡ってのことだかわかりませんが」
「そう言うことだ。いつ素顔を見られたんだ?」
「嘘、そんな事……さっきよ。お弁当食べ終わってお手洗いに行こうとしたら眼鏡が曇っちゃって歩きながら外してハンカチで拭いてたら写真撮られたのよ」
神崎は事細かに説明し出す。
細かいタイプらしい。
「なら、問題ありません。朝ごはんを何食べたかぐらいは覚えているでしょうが、なぜ学校にいるのかは本人はわからないでしょう」
「そんな漫画みたいな事あるわけ……あるの?」
「はい、樫藤流の名にかけて」
顔にドロップキックをまともに受けて後頭部も床に打ち付けてれば記憶も飛ぶだろう。それより死んで無いよな、こいつ……。
「そうなんだ。信用したわけじゃ無いけど助かったわ。ありがとう。貴女の名前は?」
「2年A組の樫藤穂乃果です」
「あ~~知ってる。あなた有名じゃない。日本人形みたいな黒髪の可愛らしい女の子ってあなただったのね。確かに可愛いわ。というか一緒の読モやらない?樫藤さんならすごく人気が出るわよ」
いきなりの勧誘が始まった。
神崎って子は、結構、押しが強くて騒がしい子みたいだ。
「それより神崎。変装しなくていいのか?もうすぐ昼休みが終わるぞ」
「わっ、やばっ!」
神崎は一生懸命変装し出した。
俺はなぜか神崎の鏡を持たされている。
「東藤くん、もう少し右」
指図までされていた。
◇
結局、午後の授業ギリギリまで神崎に付き合わされた。
念の為、と言われて俺と穂乃果の連絡先の交換までした。
神崎は、大人しい読書大好き女性だと思ってたが、細かくて押しが強く騒がしい、それに用心深い女性だとわかった。
梅雨空は、少し晴れてきており、さっきまで降っていた雨は上がっている。
帰りは傘は必要ないようだ。
俺のスマホには、メッセージがたくさんきていた。
緊急性がないものは、まだメッセージを返していない。
次の休み時間にでも返信しないと……
本を読みたいが最近時間が取れない。
今夜は、寝ながら本を読めるかもしれない。
『罪と罰』の上巻はまだ数ページをめくっただけだった。
「おい、東藤、これ前に出て解いてみろ」
午後一の授業は数学だ。
黒板にはには今の単元、不等式の証明の問題が書かれていた。
俺は、その問題を見て解いていく。
答えを書いて終わりだ。
「正解だ。よく勉強してるな」
教科の先生はそう言うが、この手の問題はユリアからきっちり地獄のようなしごき付きで教わった。そう言ったことに手を抜かないのがユリアでもある。
こんなところで役に立つとはな……
「学んで損はないんだ」それがユリアの口癖のようなもので、勉強だけはきっちりさせられたものだ。
5時間目が終わり、来てたメッセージに返信しようとしたら神崎から早速メッセージが届いた。
~~~~~
『数学教えて』
「毒蜘蛛に数学は必要ないだろう」
『毒蜘蛛じゃない!読モだから!』
「節足動物にも知性は必要なのか?」
『だから蜘蛛じゃないって、マジなのよ』
「わかった、時間があるときな」
『お願いね』
~~~~~
他の者達のもメッセージを返す。
最近、面倒なのが『FG5』のアヤカだ。
事あるごとに迎えに来てと連絡をよこす。
今週は忙しくて無理だと伝えてあるのだが……
そんな作業を終えると、もう6時間目が始まる。
今日は沙希は委員会があるようで一緒に帰れないと連絡があった。
そういえば穂乃果はいつ登校してるんだ?
同じ駅を利用しているはずなのに登下校で見かけたことがない。
そんなくだらないことを考えているうちに授業は進み坂書きを写す作業に没頭する。そして、あっという間に放課後になった。
◇
雨が上がったおかげで濡れなくて済む。
下足入れに入れてあった靴は少し湿っていた。
靴を履くと不快な感じを受けるがこればかりは仕方がない。
そして、校舎を出ようとしたところで呼び止められた。
現れたのは、木梨なんとかだ。
「今日も迎えに行く?」
「ああ、その予定だ」
「じゃあ、一緒に帰ろう」
「いいのか?俺と帰ったりすると変な噂話をされるぞ」
「別に変な事はしてないし、他人なんて関係ない」
確かにそうだが……
「ああ、わかった。そうだ。昨日のクッキー美味しかったぞ。珠美も喜んでた」
「へ~~そうなんだぁ」
クールな木梨の口元が緩んだ感じがした。
並木道を木梨と並んで歩く。
距離は1mは離れている。
最初の頃の穂乃果のようだ。
「あのさ、結衣と日曜日に遊園地に行くんだって?」
「ああ、約束している」
「そうなんだ……結衣と仲良いよね」
「俺が編入してきて声をかけてくれたのは鴨志田さんだけだったからね。優しい人だと思っている」
「うん、結衣は見かけはおっとりしてるけど芯の強い子だし優しい子だよ。私とは正反対だ」
「そうか、木梨も優しい人だと俺は思ってるぞ」
「えっ、私が?」
「ああ、俺とこうして一緒に帰ってる。それだけで優しいって思うよ」
木梨は何かを考えているようだが、その心中はわからない。
「ねえちょっと踏み込んだ事聞いてもいい?」
「答えられる範囲ならな」
「その額の傷はどうしたの?」
「ああ、傷の事か。これは銃で撃たれた時の傷だ」
「銃ってあの拳銃のこと?」
「ああ、海外に住んでた頃の話だ」
「そうだったんだ……」
この傷は今の整形技術なら消せることができるとユリアが言っていた。
でも、この傷は残しておかなければならない。
賢ちゃんが俺を庇って撃たれた時に負った傷なのだから。
「東藤って本当は目が悪くないでしょう?」
「よくわかったな。これは伊達メガネだ。度は入っていない」
「なんで眼鏡をかけてるの?」
「これは俺を救ってくれた人からの贈り物だ。だからつけている」
「そっか……東藤って結衣の言ってた通りだ。ちゃんと話しかければきちんと答えてくれる」
「話せることならちゃんと話すよ」
「ええ、それがよくわかった」
「そうだ、木梨に何かお返しをしないといけないな」
「お返しってなんで?」
「クッキーを貰ったろう。そのお返しだ」
「そんなのいいよ。好きでしたことだし」
「それでもだ。こういう事はきちんとしないといけない」
「なら、連絡先をこ、交換するってのはどうかな?」
「それはいいが、その他にだ。釣り合いが取れない」
「じゃあ、少し考えておくよ」
「ああ、そうしてくれ」
そんな会話をしながら俺と木梨は幼稚園に向かっていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!
みずがめ
恋愛
★講談社ラノベ文庫新人賞佳作を受賞しました!
杉藤千夏はツンデレ少女である。
そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。
千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。
徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い!
※他サイトにも投稿しています。
※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
俺は陰キャだったはずなのに……なぜか学園内でモテ期が到来した件
こうたろ
青春
友人も恋人も居ないボッチ学生だった山田拓海が何故かモテだしてしまう。
・学園一の美人で、男女問わず憧れの的。
・陸上部のエースで、明るく活発なスポーツ女子。
・物静かで儚げな美術部員。
・アメリカから来た金髪碧眼でハイテンションな留学生。
・幼稚園から中学まで毎朝一緒に登校していた幼馴染。
拓海の生活はどうなるのか!?
静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について
おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である
そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。
なんと、彼女は学園のマドンナだった……!
こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。
彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。
そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。
そして助けられた少女もまた……。
二人の青春、そして成長物語をご覧ください。
※中盤から甘々にご注意を。
※性描写ありは保険です。
他サイトにも掲載しております。
学年一可愛いS級の美少女の令嬢三姉妹が、何故かやたらと俺の部屋に入り浸ってくる件について
沢田美
恋愛
名門・雄幸高校で目立たず生きる一年生、神谷悠真。
クラスでは影が薄く、青春とは無縁の平凡な日々を送っていた。だがある放課後、街で不良に絡まれていた女子生徒を助けたことで、その日常は一変する。救った相手は、学年一の美少女三姉妹として知られる西園寺家の次女・優里だった。さらに家に帰れば、三姉妹の長女・龍華がなぜか当然のように悠真の部屋に入り浸っている。名門令嬢三姉妹に振り回されながら、静かだったはずの悠真の青春は少しずつ騒がしく揺れ始める。
**俺、東大院生の実験対象にされてた。**同居している美人家庭教師のやばい秘密
まさき
青春
俺は今、東大院生の実験対象になっている。
ある雨の夜、アパートの前にずぶ濡れの美女が立っていた。
「家庭教師です。住まわせてください」
突然すぎる申し出に困惑しながらも、なぜか断れなかった。
桐島咲楽、東大大学院生。成績は天才、料理は壊滅的、距離感はおかしい。毎日転ぶ、焦がす、なぜか距離が近い。そのくせ授業は鬼のように丁寧で、俺のことを誰よりもよく見ていた。
偏差値42だった俺の成績は、気づけば上がっていた。でも、それより気になることがある。
咲楽さんが、研究ノートに何かを書いている。「被験者」という文字が、見えた気がした。
距離が近いのは、データのためか。褒めてくれるのは、実験のためか。でも、あの顔は。あの声は。
「データじゃなくて、私がそう思っています」
嘘をついているような顔じゃなかった。
偏差値42の俺に、東大院生の美女が押しかけてきた。ドタバタな毎日の中で、俺の心臓が休まる暇がない。これはドキドキなのか、心配なのか。それとも、もう恋なのか。
不器用な天才と、鈍感な高校生の、やばい同居生活。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる