インミシべルな玩具〜暗殺者として育てられた俺が普通の高校生に〜

涼月 風

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閑話 神崎陽奈

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~神崎陽奈~

「ただいま~~」
「おかえり、陽奈。今日はご機嫌だな。何か良い事でもあったのか?」

私が学校から帰るといつも心配そうにお兄ちゃんが出迎えてくれる。
大学で授業がある日以外はほとんどそうだ。
そして、私の顔色を見て話しかけてくる。
いつもは天気の話がほとんどだ。
近所のおばさんみたいだと心の中で笑ってしまう。

「うん、お友達ができたんだあ。連絡先を交換したの」

でも、今日は違う。
自分でもわかるほど良い顔をしてると思う。

「ま、まさかその子は良い子なんだろうな?」

心配なのはわかるけど、もう、昔の私じゃないから大丈夫なのに……

「うん、とっても綺麗な子、多分お兄ちゃんも知ってるはずだよ。去年、1年生に日本人形みたいな黒髪の綺麗な子がいたの知ってる?」
「ああ、確か俺の知り合いが告白して何故か気絶させられてたよ。『撲殺人形』と言われてたぞ」
「その子だよ。名前は樫藤穂乃果ちゃん。少し変わってるけど面白い子なんだ」
「そうか、陽奈にも友達ができたか。そうか、そうか、今日はお祝いだな」

お兄ちゃんには言えなかったけど、東藤くんって同じクラスの男の子も友達になった。2人とも変わってるけど、良い人だってよくわかる。

私は、中学生の時に壮絶なイジメにあった。
お兄ちゃんが在籍してた中学1年の頃には、友達もたくさんいたし、お兄ちゃんを紹介してとまで言われていた。

でも、お兄ちゃんが高校生になって、私が中学2年生の時に、そのイジメは始まった。

きっかけは些細な事だった。
私をいじめていた女子の好きな男子が私の事が好きだと噂になり、生意気だと文句を言われたのが最初だった。

イジメはどんどんエスカレートしていき、無視され、そのうち教科書や机、そしてロッカーなどにいたずらされた。
それでも辛かったけど、今度はあからさまに暴力をふるわれた。
男子が襲って来た時は、もうダメかと思ったがそこにお兄ちゃんが登場して守ってくれた。

でも、私は学校へ行けなくなってしまった。
部屋に閉じこもり、一歩も外に出られなくなった。
とにかく、他人が怖かった。
男の人はもっと苦手だ。

でも、お父さんやお兄ちゃんは別だ。
私を守ってくれてるのがよくわかる。

転校も考えたが、行く勇気が持てなかった。
それに女子の場合、途中からの転入は難しい。
既にグループができてしまって、どのグループに所属するかでいろいろ争いもある。そんな中に、その頃の私は入って行く元気はなかった。

結局、中学は2年生から行かなくなった。
自宅学習ということでプリントをもらいそれを提出する毎日だった。
そのプリントを届けてくれたのは担任の先生ではなく保険の先生だった。

面倒見の良いおばちゃん先生で、私もこの人なら少しは信用できた。
その先生の推薦で緑扇館高校に入学した。
私の場合、学力は問題無かったが学校に行っていない事が問題になるかもと言われた。でもその保険の先生が熱心に緑扇館高校に通って説明してくれたみたい。

私にとっては運が良かったと思う。
そんな先生が1人でも味方になってくれたから。


それから、私は読モをしている。読モになったきっかけは、家に閉じこもっていた私をお兄ちゃんが見兼ねて外に連れ出したからだった。
その時、黒髪を金色に染めて化粧をし、外に出た。

その時の私は怖くて家の外にも出られないほど精神が病んでいた。
でも、変身できたおかげで、私が私じゃない感覚を持つ事ができた。
それが良いのかわからないけど、私には有効だったと思う。

見かけを変えてお兄ちゃんと映画を見て、そしてハラジュクのタケシタ通りを歩いていた時、スカウトされた。

勿論、お兄ちゃんも一緒だ。
自慢じゃないがお兄ちゃんはイケメンだ。
それなりに頭もいい。

私も自分で言うのも照れるけど美人な方だと思う。
兄妹だもの、似るのは同然だ。

兄妹そろって読モをすることになり、私たちが兄妹なので読者の人も変な勘ぐりを抱かずに、それぞれのファンがついてくれた。

でも、有名になり過ぎて困った事になる。
それは、この姿で外を歩けなくなってしまった事だ。
外に出るための変装が、外に出ると困るという本末転倒な結果となってしまった。

悩んだ私とお兄ちゃんは、地味子ちゃんに変装することを思いついた。
それが今の学校での私だ。

この姿だと、誰にも話しかけられずに済むし、最初は良かった。
でも、このままだと友達1人もできないのでは、と悩む事になった。
他人は相変わらず怖い。それに、男子はいつもギラギラしてて気持ち悪い。

そんな不安を抱えながら学校生活を送っていた時、湿気のせいで眼鏡が曇ってしまった。外しながら拭いてると、いきなり写真を撮られた。
そして、私が読モの『HINA』だとバレてしまった。

人気のないところに連れて行かされ、私は逃げるように階段を上った。
怖くて、怖くてもうダメかと思った。
そんな時、助けてくれたのが、穂乃果ちゃん。
彼女は階段上からいきなりジャンプして男子の顔に蹴りを打ち込んだ。

凄い運動神経だ。
上から男子の声がする。
穂乃果ちゃんの後を着いてくと同じクラスの東藤くんがいた。
2人は弁当仲間だと言ってた。

面白い……

2人は、読モのことを知らなかった。
東藤くんは海外から来たからわからなくても仕方がないけど、穂乃果ちゃんまで知らないと聞いた時は驚いた。

でも、悪い気はしない。
それどころか、この二人といると楽しい。
思ったことを言っても怒らないし、向こうも遠慮がない。

東藤くんなんて、私を毒蜘蛛扱いさえしてくる。
でも、これは、あのイジメとは違う。
親愛の証なんだと感じる。

嬉しい、楽しい、面白い。

2人は、普通の高校生が知ってる事は知らないけど、それが私にはとても新鮮で安心できる。

男の子の東藤くんもギラギラしてないし、でも、少し暗いかな?
今の私には、そんな男の子の方が良いのかもしれない。

「おい陽奈、早くうがいをしてこい」

「うん」

お兄ちゃんはイケメンだけど、シスコンだと思う。
私が心配かけたせいだよね。
そんなお兄ちゃんに東藤くんの事は言えないなぁ。
心配し過ぎて会いに行きそうだもん。

私もお兄ちゃんのことは好き。
でも、これって恋人の好きじゃない。
家族愛だと思う。

お兄ちゃん、ごめんね。
陽奈は、お兄ちゃんに秘密ができました。
でも、変な想像はしないでね。
だって、まだ始まったばかりだから。

明日の学校、楽しくなりそう。
後で2人に連絡を入れてみよう。
もっと、2人の事が知りたいから。

やっと、私にも学校が楽しいって思えてきた。

もっと楽しくなればいいなぁ……

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