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2026年〜
美形攻めにセコムされる平凡受けの話
高校二年の春。
受けはクラスでもひときわ目立つ存在である攻めから告白された。
整った顔立ちに誰にでも分け隔てなく接する性格。そんな攻めは皆からの人気者である。
だが、人気者の攻めに対して受けは正直恋愛感情など抱いていなかった。
そもそも受けにとって同性は恋愛対象でない。どちらかと言えば、「断ったらどうなるんだろう」という不安の方が大きかった。
だからこそ。
「……いいよ」
半ば流されるように頷いてしまったのが全ての始まりだった。
◇
人生初の恋人がまさか男。しかもこんな目立つ存在。
恋愛経験もほとんどない受けは距離感が分からず、ぎこちない時間も多かった。だが、攻めはそんな受けを急かすことなく、ゆっくりと隣に居続けた。
放課後、一緒に帰る時間。
何気ない会話で笑い合う瞬間。
ふとした時にこちらへ向けられる優しい視線。
思っていたよりずっと楽しい日々を過ごしていることにオメガは気付き始めた。
だが、同時に違和感を覚え始めたのもこの頃からだった。
受けが誰かと話しているとき、攻めがさりげなく会話に入ってくる。
距離が近い相手に対しては受けの肩へ手を置き、自分の方へ受けを引き寄せる。
まるで受けは自分のものだと示しているようだった。
それは確実に攻めによる牽制だった。
(……俺のため、なんだよな)
そう思うと少しだけくすぐったくて、同時にどこか嬉しくもあった。
◇
ただ。
本当の意味で“セコム”が必要なのはどう考えても攻めの方だった。
恋人がいると公言していても、その容姿と人当たりの良さは変わらない。
廊下ですれ違えば振り返られ、女子からも男子からも当たり前のように声をかけられる。
(……攻めはすごいな、やっぱり)
どこか誇らしく思う反面、胸の奥がほんの少しだけざわつくのを感じていた。
最初はただ攻めに流されて付き合っただけだった。
それなのに。
隣で笑う顔を見るたび、自分に向けられる優しさに触れるたび、"この人がいい”と思ってしまう自分がいた。
だが、同時に思う。
(俺なんかが……)
平凡で誇れるものを持たない自分が、皆を惹きつける存在に対して『他のやつを見るな』など言えるわけがない。声に出してしまえば、自分の小ささが露呈するだけである。
だから受けは何も言わず、ただいつも通り攻めの隣で笑うだけだった。
◇◇
一方、攻めは必死だった。
受けが他人と話す姿を見るたびに胸の奥がざわつく。彼の名前を呼ばれているだけで妙に落ち着かなくなる。
(……俺だけ見てればいいのに)
そんな独占欲を何度も飲み込んだ。
元々、受けが自分に対して恋愛感情を抱いていなかったことも知っている。攻めに流されて恋人になっただけであることも。受けの性格は、利用した自分が一番分かっている。
受けは優しい。そして、誰にでも同じように笑う。
それを縛りつけたらきっと嫌われてしまう。
だから代わりに、さりげなく距離を詰めた。自然なふりをして何度も彼に触れた。
恋人だと分かる形で周囲に自分の存在を刻みつけた。
攻めが受けに惚れた理由はひとつだった。
あのふにゃりとした笑顔。
誰かに見せているときじゃない。
自分に向けられたときだけ、少し柔らかくなるそれ。
(自分だけのものにしたい)
その思いを自覚した時点で終わりだった。
その笑顔が他人にも向けられるたび、攻めは静かに息を呑む。
(……足りない)
どれだけ隣にいても、どれだけ彼に触れても。
“自分だけのものだ”という気持ちが満たされることはなかった。
受けの肩に手を置き、攻めは何でもない顔で笑う。
「——なに?楽しそうだね」
その声音は柔らかいが、指先はほんの少し強くなる。
逃がさないように。
誰にも渡さまいと言うように。
受けはそんなことに気づかないまま。「うん、ちょっとね」と、いつもの笑顔を攻めに向けるのだった。
受けはクラスでもひときわ目立つ存在である攻めから告白された。
整った顔立ちに誰にでも分け隔てなく接する性格。そんな攻めは皆からの人気者である。
だが、人気者の攻めに対して受けは正直恋愛感情など抱いていなかった。
そもそも受けにとって同性は恋愛対象でない。どちらかと言えば、「断ったらどうなるんだろう」という不安の方が大きかった。
だからこそ。
「……いいよ」
半ば流されるように頷いてしまったのが全ての始まりだった。
◇
人生初の恋人がまさか男。しかもこんな目立つ存在。
恋愛経験もほとんどない受けは距離感が分からず、ぎこちない時間も多かった。だが、攻めはそんな受けを急かすことなく、ゆっくりと隣に居続けた。
放課後、一緒に帰る時間。
何気ない会話で笑い合う瞬間。
ふとした時にこちらへ向けられる優しい視線。
思っていたよりずっと楽しい日々を過ごしていることにオメガは気付き始めた。
だが、同時に違和感を覚え始めたのもこの頃からだった。
受けが誰かと話しているとき、攻めがさりげなく会話に入ってくる。
距離が近い相手に対しては受けの肩へ手を置き、自分の方へ受けを引き寄せる。
まるで受けは自分のものだと示しているようだった。
それは確実に攻めによる牽制だった。
(……俺のため、なんだよな)
そう思うと少しだけくすぐったくて、同時にどこか嬉しくもあった。
◇
ただ。
本当の意味で“セコム”が必要なのはどう考えても攻めの方だった。
恋人がいると公言していても、その容姿と人当たりの良さは変わらない。
廊下ですれ違えば振り返られ、女子からも男子からも当たり前のように声をかけられる。
(……攻めはすごいな、やっぱり)
どこか誇らしく思う反面、胸の奥がほんの少しだけざわつくのを感じていた。
最初はただ攻めに流されて付き合っただけだった。
それなのに。
隣で笑う顔を見るたび、自分に向けられる優しさに触れるたび、"この人がいい”と思ってしまう自分がいた。
だが、同時に思う。
(俺なんかが……)
平凡で誇れるものを持たない自分が、皆を惹きつける存在に対して『他のやつを見るな』など言えるわけがない。声に出してしまえば、自分の小ささが露呈するだけである。
だから受けは何も言わず、ただいつも通り攻めの隣で笑うだけだった。
◇◇
一方、攻めは必死だった。
受けが他人と話す姿を見るたびに胸の奥がざわつく。彼の名前を呼ばれているだけで妙に落ち着かなくなる。
(……俺だけ見てればいいのに)
そんな独占欲を何度も飲み込んだ。
元々、受けが自分に対して恋愛感情を抱いていなかったことも知っている。攻めに流されて恋人になっただけであることも。受けの性格は、利用した自分が一番分かっている。
受けは優しい。そして、誰にでも同じように笑う。
それを縛りつけたらきっと嫌われてしまう。
だから代わりに、さりげなく距離を詰めた。自然なふりをして何度も彼に触れた。
恋人だと分かる形で周囲に自分の存在を刻みつけた。
攻めが受けに惚れた理由はひとつだった。
あのふにゃりとした笑顔。
誰かに見せているときじゃない。
自分に向けられたときだけ、少し柔らかくなるそれ。
(自分だけのものにしたい)
その思いを自覚した時点で終わりだった。
その笑顔が他人にも向けられるたび、攻めは静かに息を呑む。
(……足りない)
どれだけ隣にいても、どれだけ彼に触れても。
“自分だけのものだ”という気持ちが満たされることはなかった。
受けの肩に手を置き、攻めは何でもない顔で笑う。
「——なに?楽しそうだね」
その声音は柔らかいが、指先はほんの少し強くなる。
逃がさないように。
誰にも渡さまいと言うように。
受けはそんなことに気づかないまま。「うん、ちょっとね」と、いつもの笑顔を攻めに向けるのだった。
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