ツイノベ倉庫

加賀ユカリ

文字の大きさ
85 / 104
2026年〜

美形攻めにセコムされる平凡受けの話

高校二年の春。
受けはクラスでもひときわ目立つ存在である攻めから告白された。

整った顔立ちに誰にでも分け隔てなく接する性格。そんな攻めは皆からの人気者である。
だが、人気者の攻めに対して受けは正直恋愛感情など抱いていなかった。

そもそも受けにとって同性は恋愛対象でない。どちらかと言えば、「断ったらどうなるんだろう」という不安の方が大きかった。

だからこそ。
「……いいよ」
半ば流されるように頷いてしまったのが全ての始まりだった。



人生初の恋人がまさか男。しかもこんな目立つ存在。
恋愛経験もほとんどない受けは距離感が分からず、ぎこちない時間も多かった。だが、攻めはそんな受けを急かすことなく、ゆっくりと隣に居続けた。

放課後、一緒に帰る時間。
何気ない会話で笑い合う瞬間。
ふとした時にこちらへ向けられる優しい視線。

思っていたよりずっと楽しい日々を過ごしていることにオメガは気付き始めた。
だが、同時に違和感を覚え始めたのもこの頃からだった。

受けが誰かと話しているとき、攻めがさりげなく会話に入ってくる。
距離が近い相手に対しては受けの肩へ手を置き、自分の方へ受けを引き寄せる。
まるで受けは自分のものだと示しているようだった。

それは確実に攻めによる牽制だった。
(……俺のため、なんだよな)
そう思うと少しだけくすぐったくて、同時にどこか嬉しくもあった。



ただ。
本当の意味で“セコム”が必要なのはどう考えても攻めの方だった。

恋人がいると公言していても、その容姿と人当たりの良さは変わらない。
廊下ですれ違えば振り返られ、女子からも男子からも当たり前のように声をかけられる。
(……攻めはすごいな、やっぱり)
どこか誇らしく思う反面、胸の奥がほんの少しだけざわつくのを感じていた。

最初はただ攻めに流されて付き合っただけだった。
それなのに。

隣で笑う顔を見るたび、自分に向けられる優しさに触れるたび、"この人がいい”と思ってしまう自分がいた。
だが、同時に思う。
(俺なんかが……)

平凡で誇れるものを持たない自分が、皆を惹きつける存在に対して『他のやつを見るな』など言えるわけがない。声に出してしまえば、自分の小ささが露呈するだけである。

だから受けは何も言わず、ただいつも通り攻めの隣で笑うだけだった。

◇◇

一方、攻めは必死だった。

受けが他人と話す姿を見るたびに胸の奥がざわつく。彼の名前を呼ばれているだけで妙に落ち着かなくなる。
(……俺だけ見てればいいのに)
そんな独占欲を何度も飲み込んだ。

元々、受けが自分に対して恋愛感情を抱いていなかったことも知っている。攻めに流されて恋人になっただけであることも。受けの性格は、利用した自分が一番分かっている。

受けは優しい。そして、誰にでも同じように笑う。
それを縛りつけたらきっと嫌われてしまう。

だから代わりに、さりげなく距離を詰めた。自然なふりをして何度も彼に触れた。
恋人だと分かる形で周囲に自分の存在を刻みつけた。

攻めが受けに惚れた理由はひとつだった。
あのふにゃりとした笑顔。

誰かに見せているときじゃない。
自分に向けられたときだけ、少し柔らかくなるそれ。

(自分だけのものにしたい)
その思いを自覚した時点で終わりだった。

その笑顔が他人にも向けられるたび、攻めは静かに息を呑む。
(……足りない)

どれだけ隣にいても、どれだけ彼に触れても。
“自分だけのものだ”という気持ちが満たされることはなかった。

受けの肩に手を置き、攻めは何でもない顔で笑う。
「——なに?楽しそうだね」
その声音は柔らかいが、指先はほんの少し強くなる。

逃がさないように。
誰にも渡さまいと言うように。

受けはそんなことに気づかないまま。「うん、ちょっとね」と、いつもの笑顔を攻めに向けるのだった。
感想 3

あなたにおすすめの小説

合鍵

茉莉花 香乃
BL
高校から好きだった太一に告白されて恋人になった。鍵も渡されたけれど、僕は見てしまった。太一の部屋から出て行く女の人を…… 他サイトにも公開しています

BLノベルの捨て駒になったからには

カギカッコ「」
BL
転生先は前世で妹から読まされたBLノベルの捨て駒だった。仕える主人命令である相手に毒を盛ったはいいものの、それがバレて全ての罪を被らされ獄中死するキャラ、それが僕シャーリーだ。ノベル通りに死にたくない僕はその元凶たる相手の坊ちゃまを避けようとしたんだけど、無理だった。だから仕方なく解毒知識を磨いて毒の盛られた皿を僕が食べてデッドエンドを回避しようとしたわけだけど、倒れた。しかしながら、その後から坊ちゃまの態度がおかしい。更には僕によって救われた相手も僕に会いにきて坊ちゃまと険悪そうで……。ノベル本来の受け担当キャラも登場し、周囲は賑やかに。はぁ、捨て駒だった僕は一体どこに向かうのか……。 これはこの先恋に発展するかもしれない青年たちのプロローグ。

たぬきになれる人間の受けくんの話

田舎
BL
『たぬきになれる人間(受け)の話』 タイトル通りです。 X(Twitter)で書いているシリーズのまとめになります。 主な舞台は高校2年の終わりですが、急に同棲編もはじまります。 たぬきになれる人間の受け: 飼育員と周りに呼ばれている攻め: 先祖返りで「たぬき」になれる受けくんと思ってください。 ※中の人はたぬきについての知識はゼロです。広い心でみてください。 ※現在ふたりの名前を募集中です。名付け親になってください。

闇を照らす愛

モカ
BL
いつも満たされていなかった。僕の中身は空っぽだ。 与えられていないから、与えることもできなくて。結局いつまで経っても満たされないまま。 どれほど渇望しても手に入らないから、手に入れることを諦めた。 抜け殻のままでも生きていけてしまう。…こんな意味のない人生は、早く終わらないかなぁ。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

依存体質

ぽぽ
BL
冴えない大学生、優太(ユウタ)には小学生の頃から大好きなアイドルがいる。 それはアイドルとして活動する奏(カナタ)だ。 幼い頃に両親を亡くしてしまった優太には大きな心の支えだった。   握手会やイベント、ライブに足繁く通っていたため奏に認知をされていた優太だが、就職活動をきっかけに頻繁に通えなくなってしまう。 すっかり忘られてしまっただろうと思いながら行ったライブだが…

契約結婚だけど大好きです!

泉あけの
BL
子爵令息のイヴ・ランヌは伯爵ベルナール・オルレイアンに恋をしている。 そんな中、子爵である父からオルレイアン伯爵から求婚書が届いていると言われた。 片思いをしていたイヴは憧れのベルナール様が求婚をしてくれたと大喜び。 しかしこの結婚は両家の利害が一致した契約結婚だった。 イヴは恋心が暴走してベルナール様に迷惑がかからないようにと距離を取ることに決めた。 ...... 「俺と一緒に散歩に行かないか、綺麗な花が庭園に咲いているんだ」  彼はそう言って僕に手を差し伸べてくれた。 「すみません。僕はこれから用事があるので」  本当はベルナール様の手を取ってしまいたい。でも我慢しなくちゃ。この想いに蓋をしなくては。  この結婚は契約だ。僕がどんなに彼を好きでも僕達が通じ合うことはないのだから。 ※小説家になろうにも掲載しております ※直接的な表現ではありませんが、「初夜」という単語がたびたび登場します

公爵家令息の想い人

なこ
BL
公爵家の次男リュシエルは、婚約者である王太子ランスロットに全てを捧げていた。 それは目に見える形の献身ではなく、陰日向に尽くす甲斐甲斐しいものだ。 学園にいる間は多くの者と交流を図りたいと言うランスロットの申し出でさえも、リュシエルは素直に受け入れた。 ランスロットは側近候補の宰相令息と騎士家系の令息、そして平民から伯爵家に養子縁組されたリオルに囲まれ、学園生活を満喫している。 彼等はいつも一緒だ。 笑いに溢れ、仲睦まじく、他者が入り込める隙間はない。 リュシエルは何度もランスロットに苦言を呈した。 もっと多くの者と交流を持つべきだと。初めにそう告げてきたのは、ランスロットではないかと。 だが、その苦言が彼等に届くことのないまま、時は流れ卒園を迎える。 学園の卒業と共に、リュシエルは本格的に王宮へと入り、間も無く婚姻がなされる予定だった。 卒業の式典が終わり、学生たちが初めて迎える公式な社交の場、卒業生やその親族達が集う中、リュシエルは誰にもエスコートされることなく、一人ポツンと彼等と対峙していた。 「リュシエル、其方との婚約解消を陛下も公爵家も、既に了承済みだ。」 ランスロットの言葉に、これまで一度も毅然とした態度を崩すことのなかったリュシエルは、信じられないと膝から崩れ落ちた。 思い付きで書き上げました。 全3話 他の連載途絶えている方も、ぼちぼち書き始める予定です 書くことに億劫になり、リハビリ的に思いつくまま書いたので、矛盾とか色々スルーして頂けるとありがたいです