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番外編
ある獣人の失恋
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「お待たせ致しました、カプチーノでございます」
「あ、ありがとうございます」
こぼさないようそっと持ってきたカップをテーブルに置けば、スマフォから顔を上げた青年はぺこりと頭を下げた。
ごゆっくりどうぞと声をかけて席から離れる。ただの店員とお客のやりとりだというのに、言葉を交わせたことに舞い上がりながらカウンターの中へ戻った。
「お前休憩だろ?」
「もうちょっと後に行く。先行っていいぞ」
「んじゃ俺先入るわ」
同僚が休憩に入ろうとしない俺に怪訝そうな顔で話しかける。先にどうぞと言えばエプロンを外しながらバックヤードに入っていった。
洗ったカップに汚れがないか確認しつつ、さっきカプチーノを届けた席に目をやる。
スーツ姿の青年は外を眺めながらカプチーノを味わっていた。一週間ぶりに見ることができた姿に、胸が甘く締め付けられる。
コーヒーショップで働く俺は、お客である人間の青年に恋をしていた。恋といってもささやかなもので、こちらから声をかけるとか、何か特別なことはしていない。
ただの店員から一歩踏み出してみたいとも思うが、躊躇う大きな理由があった。
(人間、なんだよなぁ……)
ここから見える肌色の首と、白い毛が覆う自分の手を見比べる。店員とお客、そして種族の違いが俺と彼の間にはあった。
人間と獣人のカップルはたくさんいるし大きな問題ではないかもしれない。
だが俺は人間と恋人になったことがないため、どうしていいのか分からない不安があった。もし獣人に慣れてなかったら怖がらせてしまうかもしれない。
これは恋人になるなんて夢のまた夢かもしれないなと思いながら、来客を告げるベルに気持ちを切り替えた。
「お待たせ致しました、カプチーノでございます」
「ありがとうございます」
カプチーノを運んできた俺に下げられる頭。久しぶりに片思いの相手に会えて喜びを感じていたのもつかの間、彼から香った匂いに眉をひそめた。
しかしこのまま下がらないのも不自然なため、嫌な予感を覚えつつカウンターに戻る。
来客を告げるベルが鳴る。店に入ってきた人物に、正確にはその人物の匂いに、俺は動揺してしまった。
「カプチーノをひとつ頼む」
「かしこまりました」
品のあるスーツを着こなした、毛色がグレーの獣人。カウンターで注文と会計を済ませたその獣人は、誰かを探すように店内を見渡しながら歩いていった。
腰を下ろした席を見て、俺はひとりで絶望する。この匂いの移り具合から、きっと間違いないだろう。
片思いしている彼には深い仲の相手ができたことを知ってしまった。
「あ」
片付けに行ったテーブルに、忘れ物を見つけてしまった。すぐに顔を上げるがこの席を使っていたふたりはもういない。
戻ってくるだろうか、でも気づかないかもしれない。テーブルの端に置いてあったスマフォを掴むと、俺は店から飛び出た。
幸い探している後ろ姿を十メートル先に見つける。名前は知らないため走りながらお客様、と呼び止めた。
「こちらお忘れです」
「あ、すみません! 気づかなかった……」
さっきまで恋をしていた相手が、俺を見ている。悲しさと切なさを誤魔化してスマフォを持ち主に返した。
「ありがとうございます」
いえ、と返す俺は青年の隣に立つ獣人と目が合いどきっとする。
想いは告げずに勝手に恋をしていただけなのに、なんだか後ろめたい気持ちになった。
「カプチーノとても美味かった。また利用させてもらう」
「は、はい、ありがとうございます……」
予想外なことを言われた俺は呆気に取られる。もう一度俺にお礼を言ったふたりは背中を向けて歩き出した。
「普通に良い人じゃん、かっけぇ……」
高価なスーツ、落ち着いた大人の雰囲気、恋人への愛しい視線、加えて店員への優しい対応。完璧すぎる。
失恋をしたというのに何故か俺は清々しい気持ちで空を仰いだ。
「あ、ありがとうございます」
こぼさないようそっと持ってきたカップをテーブルに置けば、スマフォから顔を上げた青年はぺこりと頭を下げた。
ごゆっくりどうぞと声をかけて席から離れる。ただの店員とお客のやりとりだというのに、言葉を交わせたことに舞い上がりながらカウンターの中へ戻った。
「お前休憩だろ?」
「もうちょっと後に行く。先行っていいぞ」
「んじゃ俺先入るわ」
同僚が休憩に入ろうとしない俺に怪訝そうな顔で話しかける。先にどうぞと言えばエプロンを外しながらバックヤードに入っていった。
洗ったカップに汚れがないか確認しつつ、さっきカプチーノを届けた席に目をやる。
スーツ姿の青年は外を眺めながらカプチーノを味わっていた。一週間ぶりに見ることができた姿に、胸が甘く締め付けられる。
コーヒーショップで働く俺は、お客である人間の青年に恋をしていた。恋といってもささやかなもので、こちらから声をかけるとか、何か特別なことはしていない。
ただの店員から一歩踏み出してみたいとも思うが、躊躇う大きな理由があった。
(人間、なんだよなぁ……)
ここから見える肌色の首と、白い毛が覆う自分の手を見比べる。店員とお客、そして種族の違いが俺と彼の間にはあった。
人間と獣人のカップルはたくさんいるし大きな問題ではないかもしれない。
だが俺は人間と恋人になったことがないため、どうしていいのか分からない不安があった。もし獣人に慣れてなかったら怖がらせてしまうかもしれない。
これは恋人になるなんて夢のまた夢かもしれないなと思いながら、来客を告げるベルに気持ちを切り替えた。
「お待たせ致しました、カプチーノでございます」
「ありがとうございます」
カプチーノを運んできた俺に下げられる頭。久しぶりに片思いの相手に会えて喜びを感じていたのもつかの間、彼から香った匂いに眉をひそめた。
しかしこのまま下がらないのも不自然なため、嫌な予感を覚えつつカウンターに戻る。
来客を告げるベルが鳴る。店に入ってきた人物に、正確にはその人物の匂いに、俺は動揺してしまった。
「カプチーノをひとつ頼む」
「かしこまりました」
品のあるスーツを着こなした、毛色がグレーの獣人。カウンターで注文と会計を済ませたその獣人は、誰かを探すように店内を見渡しながら歩いていった。
腰を下ろした席を見て、俺はひとりで絶望する。この匂いの移り具合から、きっと間違いないだろう。
片思いしている彼には深い仲の相手ができたことを知ってしまった。
「あ」
片付けに行ったテーブルに、忘れ物を見つけてしまった。すぐに顔を上げるがこの席を使っていたふたりはもういない。
戻ってくるだろうか、でも気づかないかもしれない。テーブルの端に置いてあったスマフォを掴むと、俺は店から飛び出た。
幸い探している後ろ姿を十メートル先に見つける。名前は知らないため走りながらお客様、と呼び止めた。
「こちらお忘れです」
「あ、すみません! 気づかなかった……」
さっきまで恋をしていた相手が、俺を見ている。悲しさと切なさを誤魔化してスマフォを持ち主に返した。
「ありがとうございます」
いえ、と返す俺は青年の隣に立つ獣人と目が合いどきっとする。
想いは告げずに勝手に恋をしていただけなのに、なんだか後ろめたい気持ちになった。
「カプチーノとても美味かった。また利用させてもらう」
「は、はい、ありがとうございます……」
予想外なことを言われた俺は呆気に取られる。もう一度俺にお礼を言ったふたりは背中を向けて歩き出した。
「普通に良い人じゃん、かっけぇ……」
高価なスーツ、落ち着いた大人の雰囲気、恋人への愛しい視線、加えて店員への優しい対応。完璧すぎる。
失恋をしたというのに何故か俺は清々しい気持ちで空を仰いだ。
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