君がいい、どうしても

たがわリウ

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新入生の目標

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「おいーす」
「今日も気合い入ってんねー、日高」
「いいでしょ、これ」

 二限の教室、一番後ろの席。男女の集団に挨拶をすると、俺は自慢げにシャツを見せた。昨日届いたばかりのこのシャツは、値段に躊躇しながらも一目惚れしたものだ。
 いいじゃん、という声を喜び、空いていた席に座る。学部共通の授業だからか、教室は人で溢れていた。俺も友達に取っておいて貰えなければ、席を探すのにウロウロするはめになっていただろう。

「で、日高どうなの? モテてんの?」
「いや聞いてくれよ……なんとまったくモテてません! こんなに頑張ってんのに!」
「まぁ広尾がいるからなー」
「あいつは強すぎる」

 大学生活がスタートして二週間。こうして男女問わず友達はできたが、思い描いていたキャンパスライフには足りない部分があった。
 友達がいっせいに顔を向けた先を見る。そこには俺から希望を奪った男子が、相変わらず気だるげに座っていた。偶然なのか周りには女子がかたまっている。広尾を意識しているのが何となく察せられた。

「あ、あの人、去年のミスコンに出てた先輩じゃね?」
「先輩からも狙われてるんか。さすがじゃん」
「え……もう悔しすぎておかしくなりそう」

 イケメン男子もとい広尾の隣に、大学の教室には不釣り合いなほどオシャレな美女がいる。ヘアアレンジも完璧で、流行を取り入れた服装だった。
 にこやかに広尾に話しかけているが、広尾は聞こえていないかのように何も反応しない。

「あんな美女でも無理って、どんなヤツだったら広尾を落とせるんだろうな」

 確かにいつも無愛想な広尾が誰かに振り向くイメージはつかない。俺が望んでいた生活を送りながらもいつもつまらなそうな態度が悔しくて、唇を噛んだ。これから三年間、ずっとこの感情に耐えて過ごすしかないのだろうか。悔しさが怒りに変わろうとした時、俺はある事を閃く。
 ぱっと視界が開けた気がした。

「わかった。学年一モテてる広尾を落としたら、俺が広尾よりモテることになるんじゃね?」
「えー、なに、ほんとにおかしくなってんじゃん」
「広尾は日高みたいなタイプ苦手そー」

 そうだ、それしかない。誰にも振り向かず孤高の広尾。そんな広尾を落としたら、嫌でも注目を浴びるはず。なかには俺と親しくなりたいと思う人もいるかもしれない。
 広尾のことを利用することになるが、そうまでしなければ俺の大学生活は絶望のままだ。やれるかどうかの確証もないし、そんなものを必要ともしない。

「俺、広尾と仲良くなる」
「新入生の目標っぽいやつ」

 何も根拠はないが何故か「やってやる」という自信だけはある。誰も本気にしていないなか、俺は気合を入れて拳を握った。
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