君がいい、どうしても

たがわリウ

文字の大きさ
14 / 20

それは、友達として?

しおりを挟む
 紺色のエプロンを外し、ハンガーにかける。ロッカーにしまい、代わりにリュックサックを手にした。

「……」

 隣で同じように荷物を取り出す広尾も、そして俺も無言で帰り支度を進める。店の方で店長が通話中で、静かなバックヤードにもその声が響いていた。こんな状況だと気まずさを薄めてくれるすべてにありがたいなと思う。
 チラッと隣を見ると広尾はバッグから取り出したスマホを確認している。いつもと同じなら、この後は店長に挨拶をして店から出ていってしまう。
 広尾は俺が告白されたことに気づいているのだろうか。自動ドア越しだったが、声をひそめていたわけでもないから、聞こえていても不思議じゃない。もし気づいてるなら、今何を考えているのだろう。いつもと変わらないのは何故なんだろう。
 モヤモヤと考えているうちに、広尾はトートバッグを肩にかける。もう時間がなかった。

「お疲れ様」
「っ……あ、あのさ!」

 バッグヤードから出ていこうとした体をなんとか引き止める。今、すべて伝えなければならないと思った。勢いで出した声が震える。

「……聞こえてたかもしんないけど、教育の友達に、告白されて」
「……うん」

 俺とは反対に広尾は落ち着いていた。俺がこれから何を言うのか察したのか、静かに向き合う。ひとまず足を止めてくれたことに安心した。

「今日断った理由、ちゃんと考えた。前はモテることばっか考えてたのに、いざ告白されても、なんか、思ってたのと違ってて……」
「うん」
「俺、中途半端だったよな。広尾を利用しようと近づいて、途端に怖くなって……それでも広尾から離れられなかったし、離れたいとも思わなくなってた」
「……それは、友達として?」

 友達。確かに、広尾の気持ちを知った時は友達でいたいと思った。俺に向けられた広尾の気持ちが強すぎて、怖くなった。どうすればいいかわからなかったけど、話しかけてくる広尾を結局は受け入れて、花火まで誘った。
 広尾が微笑む度に胸をかすめる痛みも、自分の身勝手さに怒りが湧くのも、ふたりきりを意識すると頬が火照るのも、全部、友達に対してじゃないと、やっと気づいた。いや、ほとんど気づいていたのに、関係が変わるのが怖くて、広尾に甘えていたのだ。

「ごめん、遅くなったけど、やっと答え見つけた」
「……うん」

 怖いくらいに真剣な目。きっと俺も同じなんだろうと思った。すくむ足で踏ん張って、ぎゅっと拳を握る。自分の中で出した答えを人に伝えるのはこんなに怖いのかと思った。

「広尾じゃなきゃ嫌だ。広尾がいいんだ……どうしても」

 口から出たのは駄々をこねているみたいな言葉。もっと上手く言いたいのに、出てきたのはこれだった。でも広尾に伝わってくれるなら、なんだっていい。

「俺も日高じゃないと嫌だ。日高しか見えない……お願い、俺しか選ばないって約束して」

 近づいてきた広尾はあの日と同じように俺の手を握る。ぎゅうぎゅうとキツいくらいだが、それが必死さを伝えてきた。縋るような手に、今度は俺も手を重ねる。

「答え出すまで待っててくれてさんきゅな。特別なのは広尾だけだし、それが他になることもねぇよ」
「……うん。もうずっと離れないし、離さないよ」

 広尾の言葉は比喩ではなく本気だ。今までの付き合いでそれがわかった。以前だったら向けられた大きすぎる感情に尻込みしただろう。でも今は、すんなりと受け入れられるし、俺も離れたくないと思う。

「……じゃあ、帰るか」
「うん。帰ろ」

 いっきに照れ臭さに襲われ、はにかむ俺。広尾もいつもより表情を崩し笑っていた。愛しそうな視線がさらに照れを生む。
 これからの広尾と俺は何が変わり、何が変わらないのだろう。夏休みが終われば今まで通りに授業を受けて、バイトして、時には出かけたりして。でもそれは友達じゃなく恋人としてになる。
 楽しみであたたかな気持ちと少しの緊張が俺を満たした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

この身を滅ぼすほど、狂った執着を君に。─隻眼の幼馴染が、突然別人に成り代わったみたいに、おれを溺愛し始めた─

髙槻 壬黎
BL
【誰よりも優しい君の、その特別になりたかった。あいつにだけ向けるその瞳に、俺は映りたかったんだ───】 村を魔物に襲われ、命からがら逃げ出した少年・フレデリクを救ったのは、美しくも飄々とした貴族の少年──テオドア・ユートリスだった。 それから十二年。いろいろありつつも立派に育ったフレデリクは、訳あって左目を負傷したテオドアと共に、ギルドで依頼をこなす剣士として穏やかな生活を送っていた。 しかしそんな二人の関係は、ある日を境に、突然歪み始めてしまう。 数日間の外出から戻ったテオドアは、以前とどこか様子が違って見えた。 表情も、言葉遣いも、距離感さえも──まるで「別人」のように。 戸惑うフレデリクだったが、そんな彼を見つめるテオドアの瞳には、何故か歪んだ愛情が滲んでいた。 「──好きだ。フレデリクのことが、どうしようもなく、好きなんだ……」 震える声に、熱く抱きしめてくる体。 テオドアにずっと片思いしていたフレデリクは、彼と付き合うことになるが、不気味な違和感は拭いきれないまま。 このテオドアは、本当に自分がよく知る"テオドア"なのだろうか。 フレデリクは彼の変化に違和感を持つ内に、閉ざしていた"あの男"との記憶を、嫌でも思い出すことになっていく── 三角関係×ヤンデレ×ファンタジー

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

花香る人

佐治尚実
BL
平凡な高校生のユイトは、なぜか美形ハイスペックの同学年のカイと親友であった。 いつも自分のことを気に掛けてくれるカイは、とても美しく優しい。 自分のような取り柄もない人間はカイに不釣り合いだ、とユイトは内心悩んでいた。 ある高校二年の冬、二人は図書館で過ごしていた。毎日カイが聞いてくる問いに、ユイトはその日初めて嘘を吐いた。 もしも親友が主人公に思いを寄せてたら ユイト 平凡、大人しい カイ 美形、変態、裏表激しい 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

その執着、愛ですか?~追い詰めたのは俺かお前か~

ちろる
BL
白鳳出版に勤める風間伊吹(かざまいぶき)は 付き合って一年三ヶ月になる恋人、佐伯真白(さえきましろ)の 徐々に見えてきた異常な執着心に倦怠感を抱いていた。 なんとか元の真白に戻って欲しいと願うが──。 ヤンデレ先輩×ノンケ後輩。 表紙画はミカスケ様のフリーイラストを 拝借させて頂いています。

俺の家に盗聴器が仕掛けられた

りこ
BL
家に帰ったら何か違和感。洗濯物が取り込まれている。だれ?親に聞いたが親ではない。 ──これはもしかして、俺にヤンデレストーカーが!?と興奮した秋は親友の雪に連絡をした。 俺の経験(漫画)ではこれはもう盗聴器とか仕掛けられてんのよ。というから調べると本当にあった。

囲いの中で

すずかけあおい
BL
幼馴染の衛介の作った囲いの中で生きてきた尚紀にとっては、衛介の言うことが普通だった。それは成長して大学生になってもそのままで―――。 〔攻め〕椎名 衛介(しいな えいすけ)20歳 大学生 〔受け〕小井 尚紀(こい なおき)19歳→20歳 大学生 外部サイトでも同作品を投稿しています。

処理中です...