2 / 38
本編
異世界
しおりを挟む
瞼が震えて少しだけ目を開ける。
熱の出たときのような怠さを感じながら、ぼうっと知らない天井を眺め息を深く吐き出した。
そばでカチャカチャと金属の触れ合う音が聞こえ頭をずらせば、俺が横になっているベッドの脇に立つ人物が目に入った。
こちらに背を向けている白髪の男性は六十代くらいだろうか。何か道具を片付けている後ろ姿を眺めていると、振り返ったその人と目が合う。
一瞬大きく見開かれた瞳はすぐに優しく緩んだ。
「気がつかれましたか」
安心したような笑みを向ける男性は外国人なのか、日本人とは違った顔立ちをしている。
そういえばさっき会った赤髪の男性も日本人っぽくなかったなと、色素の薄い瞳、アスリートまではいかなくても自分よりもしっかりした体つきを思い出す。
思い出すのと同時に、胸に広がるざわめきもよみがえった。
「あの、ここは? 俺、電車に乗って帰ってたと思うんですけど……」
男性と話すために上半身をおこすと、自分のいる部屋の全体が見えるようになり、その結果さらに混乱することとなった。
白を基調とした部屋は俺の住んでいる部屋の何倍も広く豪華だ。
アンティーク調のベッド、テーブル、ソファ、クローゼット、家具のどれもが高価な物なのだとわかる。
まるで映画に出てくるような昔のヨーロッパの城みたいだ、とぽかんと口を開けた俺に、ベッドサイドの男性は穏やかな声で話しだした。
「ここはオーウェン様の城でございます。あなたはオーウェン様に運ばれてきたのですが、意識がないようだったので医師である私が診察しておりました」
「城……?」
「気を失ったのは急な環境の変化によるものなので、いま感じている怠さも次第になくなると思います」
「ありがとうございます……」
ここがオーウェンという人物の城であること、体は特に問題ないことがわかり診察してくれたという医師に頭を下げる。
顔を上げた先で何故か目を丸くする医師に驚き、こちらも目を丸くしてしまった。
「こんな城、日本にあったんですね」
日差しと心地良い風を招く窓の外は中庭になっているのか、緑と色鮮やかな花が揺れている。
こんなところがあったなんて、と感心している俺に、医師は申し訳無さそうに眉を下げた。
「あなたにとっては残念ですが、ここはニホンという地ではありません」
「え?」
日本じゃない? でも俺はたしかに日本の会社から帰る途中に、日本の電車に乗っていた。
背中がひやりとするような不安が胸の奥から徐々に吹き出してくる。
「あなたはオーウェン様と結ばれるべく、この世界にいらっしゃったのです」
小さな不安が大きな物へと変わったのを感じながら、ごくりと唾を飲み込む。
この世界、ってなんだ? と思いながらも頭のどこかではやっぱり、と確信していた。
電車に乗っていて目が覚めたら森の中、現れた馬に乗った赤い髪の男性、電気を使った照明やテレビのない部屋、日本人とは顔の印象が違う医師。
そのどれもが、自分が生きていたのとは別の時代へのタイムトリップ、もしくは異世界にきてしまったという説明が一番しっくりくるものだった。
質問したいことはたくさんあって、でも上手く言葉がでてこないでいると音を立てて部屋の扉が開かれる。
そこから現れた赤に、俺の視線は奪われてしまった。
熱の出たときのような怠さを感じながら、ぼうっと知らない天井を眺め息を深く吐き出した。
そばでカチャカチャと金属の触れ合う音が聞こえ頭をずらせば、俺が横になっているベッドの脇に立つ人物が目に入った。
こちらに背を向けている白髪の男性は六十代くらいだろうか。何か道具を片付けている後ろ姿を眺めていると、振り返ったその人と目が合う。
一瞬大きく見開かれた瞳はすぐに優しく緩んだ。
「気がつかれましたか」
安心したような笑みを向ける男性は外国人なのか、日本人とは違った顔立ちをしている。
そういえばさっき会った赤髪の男性も日本人っぽくなかったなと、色素の薄い瞳、アスリートまではいかなくても自分よりもしっかりした体つきを思い出す。
思い出すのと同時に、胸に広がるざわめきもよみがえった。
「あの、ここは? 俺、電車に乗って帰ってたと思うんですけど……」
男性と話すために上半身をおこすと、自分のいる部屋の全体が見えるようになり、その結果さらに混乱することとなった。
白を基調とした部屋は俺の住んでいる部屋の何倍も広く豪華だ。
アンティーク調のベッド、テーブル、ソファ、クローゼット、家具のどれもが高価な物なのだとわかる。
まるで映画に出てくるような昔のヨーロッパの城みたいだ、とぽかんと口を開けた俺に、ベッドサイドの男性は穏やかな声で話しだした。
「ここはオーウェン様の城でございます。あなたはオーウェン様に運ばれてきたのですが、意識がないようだったので医師である私が診察しておりました」
「城……?」
「気を失ったのは急な環境の変化によるものなので、いま感じている怠さも次第になくなると思います」
「ありがとうございます……」
ここがオーウェンという人物の城であること、体は特に問題ないことがわかり診察してくれたという医師に頭を下げる。
顔を上げた先で何故か目を丸くする医師に驚き、こちらも目を丸くしてしまった。
「こんな城、日本にあったんですね」
日差しと心地良い風を招く窓の外は中庭になっているのか、緑と色鮮やかな花が揺れている。
こんなところがあったなんて、と感心している俺に、医師は申し訳無さそうに眉を下げた。
「あなたにとっては残念ですが、ここはニホンという地ではありません」
「え?」
日本じゃない? でも俺はたしかに日本の会社から帰る途中に、日本の電車に乗っていた。
背中がひやりとするような不安が胸の奥から徐々に吹き出してくる。
「あなたはオーウェン様と結ばれるべく、この世界にいらっしゃったのです」
小さな不安が大きな物へと変わったのを感じながら、ごくりと唾を飲み込む。
この世界、ってなんだ? と思いながらも頭のどこかではやっぱり、と確信していた。
電車に乗っていて目が覚めたら森の中、現れた馬に乗った赤い髪の男性、電気を使った照明やテレビのない部屋、日本人とは顔の印象が違う医師。
そのどれもが、自分が生きていたのとは別の時代へのタイムトリップ、もしくは異世界にきてしまったという説明が一番しっくりくるものだった。
質問したいことはたくさんあって、でも上手く言葉がでてこないでいると音を立てて部屋の扉が開かれる。
そこから現れた赤に、俺の視線は奪われてしまった。
61
あなたにおすすめの小説
愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる
彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。
国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。
王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。
(誤字脱字報告は不要)
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
【本編完結】転生先で断罪された僕は冷酷な騎士団長に囚われる
ゆうきぼし/優輝星
BL
断罪された直後に前世の記憶がよみがえった主人公が、世界を無双するお話。
・冤罪で断罪された元侯爵子息のルーン・ヴァルトゼーレは、処刑直前に、前世が日本のゲームプログラマーだった相沢唯人(あいざわゆいと)だったことを思い出す。ルーンは魔力を持たない「ノンコード」として家族や貴族社会から虐げられてきた。実は彼の魔力は覚醒前の「コードゼロ」で、世界を書き換えるほどの潜在能力を持つが、転生前の記憶が封印されていたため発現してなかったのだ。
・間一髪のところで魔力を発動させ騎士団長に救い出される。実は騎士団長は呪われた第三王子だった。ルーンは冤罪を晴らし、騎士団長の呪いを解くために奮闘することを決める。
・惹かれあう二人。互いの魔力の相性が良いことがわかり、抱き合う事で魔力が循環し活性化されることがわかるが……。
愛を知らない少年たちの番物語。
あゆみん
BL
親から愛されることなく育った不憫な三兄弟が異世界で番に待ち焦がれた獣たちから愛を注がれ、一途な愛に戸惑いながらも幸せになる物語。
*触れ合いシーンは★マークをつけます。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
【本編完結】最強S級冒険者が俺にだけ過保護すぎる!
天宮叶
BL
前世の世界で亡くなった主人公は、突然知らない世界で知らない人物、クリスの身体へと転生してしまう。クリスが眠っていた屋敷の主であるダリウスに、思い切って事情を説明した主人公。しかし事情を聞いたダリウスは突然「結婚しようか」と主人公に求婚してくる。
なんとかその求婚を断り、ダリウスと共に屋敷の外へと出た主人公は、自分が転生した世界が魔法やモンスターの存在するファンタジー世界だと気がつき冒険者を目指すことにするが____
過保護すぎる大型犬系最強S級冒険者攻めに振り回されていると思いきや、自由奔放で強気な性格を発揮して無自覚に振り回し返す元気な受けのドタバタオメガバースラブコメディの予定
要所要所シリアスが入ります。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる