誓いを君に

たがわリウ

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本編

赤い髪の王子様

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「気がついて良かった」

 ベッドサイドのイスに座り、長い足を組み替えながら男性が俺に声をかける。
 言葉は優しいものだが雰囲気は鋭く厳しさがあり、目を合わせずに視線はシーツを握る手に落とした。
 凛とした姿、落ち着いた声から、相当な立場を持った人物であるのがわかる。
 見た目だと二十代前半か中盤か、俺とそんなに歳は離れていないように見えたのに。

「あの、俺を運んでくれたと聞きました。ありがとうございます」

 視線は落としたままお礼を口にすると、言葉は何も返ってこない。
 そのあとに声が続かないまま静寂が落ち、何か失礼なことをいってしまったのかと不安になる。
 もとからの人見知りの性格もあるが、日本で接してきた人とは比べ物にならないほどの圧倒される感じというか、その人の前にいるだけで自然と背筋の伸びる威圧感にただ緊張していた。

「オーウェンだ」

 沈黙を破って聞こえた言葉は予想外なもので、思わず視線を上げる。
 一度目を合わせた時にも思ったが、オーウェンというその人は、ネットでも、テレビでも見たことのないほどの美しい顔をしていた。
 日の光を受けて輝く燃えるような赤い髪、吸い込まれそうな黄色い瞳、涼し気な目元、形の良い眉、鼻、色気のある薄い唇。
 一度目にしたら忘れられないような美しい顔からは感情が読み取れないため、クールで厳しい印象を抱かせる。

「鶴野 幸、です」
「ユキ……」

 噛みしめるように小さく呼ばれた名前に、なぜだか胸が大きく脈打つ。
 なにかに似たその感覚に戸惑っている俺に、真っ直ぐな視線が投げられた。

「俺は王子としてこの地を治めている」
「王子……」

 立場のある人物なのだろうと思ってはいたが、まさか王子だなんて。
 現代日本ではフィクションの中でしか聞くことのないワードに、実感というものがついてこない。
 ゲームの中みたいだと思いながらオーウェンを眺めると、品のある白い軍服のような服、そして大きな白いマントと確かにRPGに出てくるキャラが着ていそうなものを身にまとっていた。

「この国にはとある言い伝えがある。王位継承を放棄した王子のもとには結ばれるべき者が現れると。そしてそれは異世界からの男だと」

 現実だとは思えないことが起こったと思えばさらに信じられないようなことを聞かされて、どうにか理解しようと必死になる。
 王位継承を放棄、という言葉が気になってじっと見つめると、俺の視線に返すように言葉が続く。

「王になるのは兄に任せて王位継承はすでに放棄している。結ばれる相手が男なのは跡継ぎが生まれたことによって王位継承に混乱が起きないようにと言う者もいるが、この国では男同士で結婚することが珍しいことではないためはっきりとしたことはわかっていない」
「そうなんですか……」

 王族だといろいろと想像の及ばないことがあるのだろうなと思いながらも、ある疑問が湧き上がる。

「どうして俺がその相手だと思ったんですか?」

 たまたま俺を最初に見つけたのが王子だったから城に運ばれたが、もしかしたら違う土地に、俺と同じように別の世界から来た人がいるかもしれない。

「五百年前にお前のように異世界から来た人物が実際に王位継承を放棄した王族と一緒になったらしいが、異世界から来た者は髪と瞳のどちらも黒だったと記録されている。この世界では髪と瞳のどちらも黒で生まれる者はいない。それに……」

 それに、と続けた王子はさらに強く俺を見た。
 まるで射抜くような視線を受けながら、何故か王子の言おうとしていることがわかってしまった。そうだ、この胸のざわめきは。

「お前と目が合った瞬間、俺の相手はユキだと、はっきりわかった」

 しっかりと見つめられながら美しい顔でそんなことを言われると、止めることのできない熱がじわじわと頬を侵食していく。
 俺もこの黄色い瞳と視線が重なった時にわかってしまったのだ。
 ずっと会いたかった人に会えたのだと。俺はこの人に会えるのを待ち、この人は俺のことを待っていたのだと。
 この感覚を恋といっていいのかわからないが、ただ俺と王子のオーウェンが見えはしない強い力で結ばれていることは確信していた。
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