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本編
はじめてのことばかり
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「はじめまして、セスと申します」
与えられた部屋のソファに座っている俺の前で、まだ成人はしていないような年頃の男の子が頭を下げる。
がちがちに緊張しているのが雰囲気でわかり、それはこちらが申し訳なくなるほどだった。
「はじめまして、幸と申します」
苗字も名乗ったほうがいいのかと迷ったが、聞き慣れない日本人の名前を聞き取ってもらえるよう名前だけをゆっくりと告げる。
社会人としての癖でソファから立ち上がり俺も頭を下げると、セスと名乗った男の子は驚いたように目を大きくした後、泣きそうな顔に変わった。
「そんな、ユキ様おやめください……!」
泣き出してしまうのではないかというほど焦る彼の様子に、少し戸惑いながらも謝ると、さらに絶望的な表情になってしまったため大人しくソファに座った。
俺も彼も落ち着いたほうがよさそうだ。
「ごめん、じゃなかった。えっと、よろしく、セス」
初対面でいきなり呼び捨てにするのも気が引けたが、そうしないと泣き出されてしまいそうでセス、と名前を呼び彼の緊張が少しでも和らぐように微笑む。
するとセスは、ようやく少しほっとしたように息を吐いた。
「私が本日からユキ様の専属使用人でございます。何かございましたらなんなりとお申し付けください」
ぴしっと背筋を伸ばしたままセスが深いお辞儀をする。
高級ホテルのスタッフ並の丁寧さにどういう反応を返せばよいのかわからなくて、でも会釈もできないため硬い笑顔を貼り付ける。
高級ホテルに足を踏み入れたことはないから想像でしかないけど。
「あー、あのさ」
「はい、なんでしょう」
俺の言葉をひとつも聞き逃すことがないように、セスは俺のことをじっと見つめる。
「もうちょっと気軽に話せないかな? あまり堅苦しいのは苦手で」
思ってもいないことだったのか、俺の言葉にセスはまた目を丸くした。
こっちの世界に来てまだ三人としか会っていないが、こういう反応をされなかったのはオーウェンだけな気がする。
「ユキ様がそう仰るのでしたら、かしこまりました……いえ、わかりました」
こんな要望は予想外だったのだろう、セスは戸惑いながらも了承してくれた。
「他になにかありませんか?」
「うーん……飲み物ってあるかな」
「すぐに紅茶をご用意致します」
紅茶を用意してくれると言ったセスはすぐに準備を始める。
じっと見つめているのも緊張させてしまうと思い、自分に与えられた部屋を散策することにした。
今いる部屋にはソファ、テーブル、窓、タンスなど生活に必要な物が揃っているがすべてが今まで目にしてきたものより大きい。
それは扉を挟んだ先にある寝室のベッド、クローゼット、そして浴室など俺に与えられた物すべてがそうだった。
まだ俺のことをよく知りもしないのに、こんなに豪華な部屋と使用人まで与えて大丈夫なんだろうかと勝手に心配になる。
ソファに戻るとちょうど準備ができたのか、セスがテーブルに紅茶を用意してくれていた。
「ありがとう」
お礼を口にするとセスは驚きながらテーブルから離れていく。
「診察してくれた医師にもお礼を言ったら驚かれたんだけど、俺何か変なこと言ってるのかな?」
「いえ、そんなことはありません。ですが、なんといいますか、仕えている身で普段そういったお言葉をいただくことはないなので、驚いてしまって……すみません」
「そっか」
俺も目が覚めるまでは会社に仕えている身だったんだけどなぁと、今の自分の状況がどこか遠くに感じる。けれどこの立場に、これから慣れていくしかない。
セスのいれてくれた紅茶はとても良い匂いを漂わせていた。
どう見ても高価なティーカップを少し緊張しながら持ち上げて口をつける。
口に含むと何か果物っぽい香りが鼻を抜けていった。
「美味しい……」
今までは缶コーヒーばかりでこんな上品な紅茶を飲むのは初めてだったけど、すっきりと飲みやすいのにどこか甘みがあって、これも高級な茶葉なのだろうなとカップの中でたゆたう赤茶を見つめる。
きっとこんなに美味しいのはセスのいれかたも上手いからなのだろう。
セスは俺の反応に少し頬を緩めると、何かを言いかけてしかしすぐに口を閉じた。
「どうかした?」
視線をカップからセスに移した俺に、セスは意を決したように口を開く。
「本当にユキ様の使用人が私で良いのでしょうか」
オーウェンに使用人を付けるが何か希望はあるかと言われたときにひとつだけ浮かんだ希望は、歳が近い人が良いというものだった。
予想外な希望だったらしく、セスが来るまで人がばたばたとしていて廊下が慌ただしくなって申し訳なかった。
そういえばあの時、オーウェンは俺の希望を聞いて少し固まっていたけどあれは驚いていたのだろうか。
そうだとしたら出会った人全員を驚かせてしまっている。
「うん。俺、年上の人といると緊張しちゃうんだよね。だからセスが来てくれて良かったよ」
ベテランがいるなか若造である自分が指名されたら俺だって不安になるだろうな。
自分の能力が未熟だと知っているからなおさら。
「ありがとうございます……」
ほっと安心したセスから少し力が抜けるのがわかった。
ようやくセスの緊張をほぐせたようで俺も安心して息を吐く。
口に含んだ温かな紅茶が、これからどうなるんだろうという不安を少しだけ溶かしてくれた。
与えられた部屋のソファに座っている俺の前で、まだ成人はしていないような年頃の男の子が頭を下げる。
がちがちに緊張しているのが雰囲気でわかり、それはこちらが申し訳なくなるほどだった。
「はじめまして、幸と申します」
苗字も名乗ったほうがいいのかと迷ったが、聞き慣れない日本人の名前を聞き取ってもらえるよう名前だけをゆっくりと告げる。
社会人としての癖でソファから立ち上がり俺も頭を下げると、セスと名乗った男の子は驚いたように目を大きくした後、泣きそうな顔に変わった。
「そんな、ユキ様おやめください……!」
泣き出してしまうのではないかというほど焦る彼の様子に、少し戸惑いながらも謝ると、さらに絶望的な表情になってしまったため大人しくソファに座った。
俺も彼も落ち着いたほうがよさそうだ。
「ごめん、じゃなかった。えっと、よろしく、セス」
初対面でいきなり呼び捨てにするのも気が引けたが、そうしないと泣き出されてしまいそうでセス、と名前を呼び彼の緊張が少しでも和らぐように微笑む。
するとセスは、ようやく少しほっとしたように息を吐いた。
「私が本日からユキ様の専属使用人でございます。何かございましたらなんなりとお申し付けください」
ぴしっと背筋を伸ばしたままセスが深いお辞儀をする。
高級ホテルのスタッフ並の丁寧さにどういう反応を返せばよいのかわからなくて、でも会釈もできないため硬い笑顔を貼り付ける。
高級ホテルに足を踏み入れたことはないから想像でしかないけど。
「あー、あのさ」
「はい、なんでしょう」
俺の言葉をひとつも聞き逃すことがないように、セスは俺のことをじっと見つめる。
「もうちょっと気軽に話せないかな? あまり堅苦しいのは苦手で」
思ってもいないことだったのか、俺の言葉にセスはまた目を丸くした。
こっちの世界に来てまだ三人としか会っていないが、こういう反応をされなかったのはオーウェンだけな気がする。
「ユキ様がそう仰るのでしたら、かしこまりました……いえ、わかりました」
こんな要望は予想外だったのだろう、セスは戸惑いながらも了承してくれた。
「他になにかありませんか?」
「うーん……飲み物ってあるかな」
「すぐに紅茶をご用意致します」
紅茶を用意してくれると言ったセスはすぐに準備を始める。
じっと見つめているのも緊張させてしまうと思い、自分に与えられた部屋を散策することにした。
今いる部屋にはソファ、テーブル、窓、タンスなど生活に必要な物が揃っているがすべてが今まで目にしてきたものより大きい。
それは扉を挟んだ先にある寝室のベッド、クローゼット、そして浴室など俺に与えられた物すべてがそうだった。
まだ俺のことをよく知りもしないのに、こんなに豪華な部屋と使用人まで与えて大丈夫なんだろうかと勝手に心配になる。
ソファに戻るとちょうど準備ができたのか、セスがテーブルに紅茶を用意してくれていた。
「ありがとう」
お礼を口にするとセスは驚きながらテーブルから離れていく。
「診察してくれた医師にもお礼を言ったら驚かれたんだけど、俺何か変なこと言ってるのかな?」
「いえ、そんなことはありません。ですが、なんといいますか、仕えている身で普段そういったお言葉をいただくことはないなので、驚いてしまって……すみません」
「そっか」
俺も目が覚めるまでは会社に仕えている身だったんだけどなぁと、今の自分の状況がどこか遠くに感じる。けれどこの立場に、これから慣れていくしかない。
セスのいれてくれた紅茶はとても良い匂いを漂わせていた。
どう見ても高価なティーカップを少し緊張しながら持ち上げて口をつける。
口に含むと何か果物っぽい香りが鼻を抜けていった。
「美味しい……」
今までは缶コーヒーばかりでこんな上品な紅茶を飲むのは初めてだったけど、すっきりと飲みやすいのにどこか甘みがあって、これも高級な茶葉なのだろうなとカップの中でたゆたう赤茶を見つめる。
きっとこんなに美味しいのはセスのいれかたも上手いからなのだろう。
セスは俺の反応に少し頬を緩めると、何かを言いかけてしかしすぐに口を閉じた。
「どうかした?」
視線をカップからセスに移した俺に、セスは意を決したように口を開く。
「本当にユキ様の使用人が私で良いのでしょうか」
オーウェンに使用人を付けるが何か希望はあるかと言われたときにひとつだけ浮かんだ希望は、歳が近い人が良いというものだった。
予想外な希望だったらしく、セスが来るまで人がばたばたとしていて廊下が慌ただしくなって申し訳なかった。
そういえばあの時、オーウェンは俺の希望を聞いて少し固まっていたけどあれは驚いていたのだろうか。
そうだとしたら出会った人全員を驚かせてしまっている。
「うん。俺、年上の人といると緊張しちゃうんだよね。だからセスが来てくれて良かったよ」
ベテランがいるなか若造である自分が指名されたら俺だって不安になるだろうな。
自分の能力が未熟だと知っているからなおさら。
「ありがとうございます……」
ほっと安心したセスから少し力が抜けるのがわかった。
ようやくセスの緊張をほぐせたようで俺も安心して息を吐く。
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