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本編
お忍びのお出かけ
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なんだかいつもよりも人の声が多く聞こえて窓の外を見ると、商人らしき男性や衛兵ではないとわかる人物が忙しなく歩いていた。
忙しそうなのに張り詰めた空気ではなく、どこか祭り前のような賑やかさに興味を引かれる。
「なんか人が多いけど何かあるのかな」
「もうすぐオーウェン王子のお誕生日なので、国内外から贈り物が届いているんです」
セスに尋ねてみるとすぐに答えが返される。しかしその答えは予想外なものだった。
「もうすぐ王子の誕生日なの?」
「はい。毎年国内外の来賓を招いて盛大なパーティーが催されますが、今年はパーティーがないので余計に届く贈り物の数が多いみたいです」
「そうなんだ……」
尋ねていないから知らないのも当たり前だけど、オーウェンの誕生日がもうすぐなんて知らなかった。
パーティーが開かれないのはやはり俺が現れてすぐだからだろうか。
やっと王族の生活に少しずつ慣れてきた身としてはパーティーが開かれないことに安心するものの、毎年行われていたものがなくていいんだろうかと考え込んだ俺に、セスが慌てて言葉を続ける。
「この城にいる者は皆知っているくらいにはオーウェン王子のパーティー嫌いは有名なので、ユキ様が気にしなくて大丈夫だと思いますよ。それどころか王子はパーティーがなくて喜んでいるのではないでしょうか」
俺のことを安心させるためにそう言ったセスに笑みを返す。
確かに来賓と会話してパーティーを楽しむオーウェンは想像できないが、笑顔を張り付けることに疲れて面倒臭そうにしているオーウェンなら想像ができる。
「プレゼントかぁ。俺も何か贈り物ができたらいいんだけど」
でも俺があげられるものなんて思い付かないし、まず何でも持っている王子に贈り物をすることがハードルが高すぎる。
しかし俺の呟きを聞いたセスは嬉しそうに目を輝かせた。
「その気持ちをお伝えしたらとても喜んでいただけると思いますよ」
誕生日プレゼントはサプライズで用意するという前提になってしまっていたけど、プレゼントが思い付かなければ本人に尋ねるのもひとつの手だなと考えていると部屋のドアがノックされる。
セスがドアを開けるとまさに今話していた人物が入ってきたため座る姿勢を正した。
オーウェンが歩いてくるうちにセスは静かに退室しドアを閉める。
「ユキ、今から時間はあるか?」
「はい」
「ふたりで町に行ってみないか?」
オーウェンからの思いもよらない提案に驚きながら黄色い瞳を見つめる。
王子がこんなに気軽に町に行けるものなんだろうか。
「行ってみたいですけど、ふたりだけで行って大丈夫なんですか?」
「厳密に言えば大丈夫ではない」
「え?」
「もし見つかったら俺と一緒に怒られてくれるか」
そう言いながらオーウェンは右手を俺に差し出す。
多少無理をしてでも俺の言った願いを叶えようとしてくれていることを知ったら、その手を取る以外に選択肢はなかった。
どこから入手したのか、オーウェンから渡された使いふるされた大きな布をローブのように被って顔を隠す俺は、衛兵や使用人が忙しなく行き来する城の入り口付近に向かって歩いていた。
すれ違う使用人に挨拶をされないことも、いつも汚れもシワもない綺麗な服を着ているオーウェンがよれよれの布を纏っていることにも違和感を感じながらも足を動かす。
一応部屋に、オーウェンと一緒だという置き手紙を残してきたけどセスは心配しないだろうか、と少しの不安を抱きつつ口元を隠すために首に巻いた布を引き上げた。
セスやディラン、他の使用人たちを騙すみたいで申し訳ないけど、誰にも気づかれずに城から出ることがまるでゲームのなかのようなこと、そしてオーウェンとの初めての外出にわくわくとした気持ちが湧き上がっていた。
「そこの者、止まれ」
城から外に出るところで立っていた衛兵に声をかけられる。
俺は気づかれたのかとひやひやしたが、オーウェンは落ち着いてその衛兵に体を向けた。
「見覚えがないが、城に入るのにここを通ったか?」
「はい、王子から依頼のあった商品を届けておりました。こちらが王子のサインです」
オーウェンが差し出した紙を受け取った衛兵は少し首を傾げながらも納得したようにその紙を返してきたため、気づかれないようそっと息を吐いた。
「確かに王子のサインだ。引き留めて悪かった」
「いえ、ご苦労様です」
自分で用意したのであろう偽造の書類をしまったオーウェンは歩きだし、それに倣って俺も小さく会釈するとまた足を動かした。
「サインまで用意してたんですね」
「これがあれば通れるだろうと思っていたからな。衛兵がしっかり仕事をしているようで安心した」
小声で会話をする俺たちはいつもより出入りの多い人に紛れて外を目指す。
もしかしたらさっき考えてたオーウェンへの贈り物も町で見つかるかもしれないと期待しながら足を進めた。
初めての城の外に自然と口角があがってしまう俺に、オーウェンは優しく目を細めた。
忙しそうなのに張り詰めた空気ではなく、どこか祭り前のような賑やかさに興味を引かれる。
「なんか人が多いけど何かあるのかな」
「もうすぐオーウェン王子のお誕生日なので、国内外から贈り物が届いているんです」
セスに尋ねてみるとすぐに答えが返される。しかしその答えは予想外なものだった。
「もうすぐ王子の誕生日なの?」
「はい。毎年国内外の来賓を招いて盛大なパーティーが催されますが、今年はパーティーがないので余計に届く贈り物の数が多いみたいです」
「そうなんだ……」
尋ねていないから知らないのも当たり前だけど、オーウェンの誕生日がもうすぐなんて知らなかった。
パーティーが開かれないのはやはり俺が現れてすぐだからだろうか。
やっと王族の生活に少しずつ慣れてきた身としてはパーティーが開かれないことに安心するものの、毎年行われていたものがなくていいんだろうかと考え込んだ俺に、セスが慌てて言葉を続ける。
「この城にいる者は皆知っているくらいにはオーウェン王子のパーティー嫌いは有名なので、ユキ様が気にしなくて大丈夫だと思いますよ。それどころか王子はパーティーがなくて喜んでいるのではないでしょうか」
俺のことを安心させるためにそう言ったセスに笑みを返す。
確かに来賓と会話してパーティーを楽しむオーウェンは想像できないが、笑顔を張り付けることに疲れて面倒臭そうにしているオーウェンなら想像ができる。
「プレゼントかぁ。俺も何か贈り物ができたらいいんだけど」
でも俺があげられるものなんて思い付かないし、まず何でも持っている王子に贈り物をすることがハードルが高すぎる。
しかし俺の呟きを聞いたセスは嬉しそうに目を輝かせた。
「その気持ちをお伝えしたらとても喜んでいただけると思いますよ」
誕生日プレゼントはサプライズで用意するという前提になってしまっていたけど、プレゼントが思い付かなければ本人に尋ねるのもひとつの手だなと考えていると部屋のドアがノックされる。
セスがドアを開けるとまさに今話していた人物が入ってきたため座る姿勢を正した。
オーウェンが歩いてくるうちにセスは静かに退室しドアを閉める。
「ユキ、今から時間はあるか?」
「はい」
「ふたりで町に行ってみないか?」
オーウェンからの思いもよらない提案に驚きながら黄色い瞳を見つめる。
王子がこんなに気軽に町に行けるものなんだろうか。
「行ってみたいですけど、ふたりだけで行って大丈夫なんですか?」
「厳密に言えば大丈夫ではない」
「え?」
「もし見つかったら俺と一緒に怒られてくれるか」
そう言いながらオーウェンは右手を俺に差し出す。
多少無理をしてでも俺の言った願いを叶えようとしてくれていることを知ったら、その手を取る以外に選択肢はなかった。
どこから入手したのか、オーウェンから渡された使いふるされた大きな布をローブのように被って顔を隠す俺は、衛兵や使用人が忙しなく行き来する城の入り口付近に向かって歩いていた。
すれ違う使用人に挨拶をされないことも、いつも汚れもシワもない綺麗な服を着ているオーウェンがよれよれの布を纏っていることにも違和感を感じながらも足を動かす。
一応部屋に、オーウェンと一緒だという置き手紙を残してきたけどセスは心配しないだろうか、と少しの不安を抱きつつ口元を隠すために首に巻いた布を引き上げた。
セスやディラン、他の使用人たちを騙すみたいで申し訳ないけど、誰にも気づかれずに城から出ることがまるでゲームのなかのようなこと、そしてオーウェンとの初めての外出にわくわくとした気持ちが湧き上がっていた。
「そこの者、止まれ」
城から外に出るところで立っていた衛兵に声をかけられる。
俺は気づかれたのかとひやひやしたが、オーウェンは落ち着いてその衛兵に体を向けた。
「見覚えがないが、城に入るのにここを通ったか?」
「はい、王子から依頼のあった商品を届けておりました。こちらが王子のサインです」
オーウェンが差し出した紙を受け取った衛兵は少し首を傾げながらも納得したようにその紙を返してきたため、気づかれないようそっと息を吐いた。
「確かに王子のサインだ。引き留めて悪かった」
「いえ、ご苦労様です」
自分で用意したのであろう偽造の書類をしまったオーウェンは歩きだし、それに倣って俺も小さく会釈するとまた足を動かした。
「サインまで用意してたんですね」
「これがあれば通れるだろうと思っていたからな。衛兵がしっかり仕事をしているようで安心した」
小声で会話をする俺たちはいつもより出入りの多い人に紛れて外を目指す。
もしかしたらさっき考えてたオーウェンへの贈り物も町で見つかるかもしれないと期待しながら足を進めた。
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