誓いを君に

たがわリウ

文字の大きさ
12 / 38
本編

自分だけに向けられる視線

しおりを挟む
「賑やかですね」

 馬は乗れないため歩きで抜けた森の先には、地面や建物にレンガが使われた活気のある町が広がっていた。
 店への呼び込みや子供の楽しそうな笑い声は、うるさいというより賑やかでこっちまで楽しい気分になる。

「俺もこういった自然体な町を見るのは久しぶりだ。王子として行くとこのままの様子では見られないからな」
「城を抜け出したことは何回かあったんですか?」
「あぁ、幼い頃だけどな。何か気になるものがあれば言ってくれ」

 人の波に逆らわないよう少しずつ歩きながら会話をする俺たちの両隣には魚や果物、布製品などを並べた路面店があり店員が呼び込みのために声を張り上げている。
 日本とは違う町並みに、まるでヨーロッパへ旅行に来たように錯覚し、目に映るすべての物がきらきらと輝いて見えた。

「良い匂い……」

 香ばしくお腹のすく匂いに誘われて顔を向けると、様々な種類のパンを並べる店の前には他より特に人が集まっていた。
 引き寄せられるように足を向けたところで、女性の声が聞こえて立ち止まる。

「やだ、絡まっちゃった」
「すみません、大丈夫ですか?」

 声の聞こえた方を向くと、二十代に見える女性が立ち止まっている。
 女性の視線の先を追うと、俺の被っている布の裾が女性のバッグについてる装飾のビーズに引っ掛かってしまっていた。
 すれ違うときに触れ合ってしまったのだろう。

「ユキ、大丈夫か?」
「引っ掛かっちゃったみたいで……」

 布を引っ張ってみるも外れる気配はない。
 女性もどうしたらいいのかと困っていて、取り合えずこのままここにいると通行の邪魔になってしまうからとオーウェンが促すまま、人の少ない道の端に移動した。

「布を切るから、すまないがその後取り外してもらえるか」
「私は大丈夫ですけど……」

 この布はもともとオーウェンが持ってきてくれた物であるし俺もすぐに頷くと、オーウェンは腰の辺りから何かを抜く。
 金の持ち手の短剣は太陽の光を眩しく反射させた。鋭い刃が布に当てられるとすぐに切り離される。
 解決して良かったと安心する俺の隣で女性は何故か訝しげな声を出した。

「その短剣、ずいぶん立派な物ですがあなたのですか?」

 女性の疑うような表情と声にぎくりとする。
 確かに王子が手にしているなら不思議ではない短剣だが、今の古びた布を纏う俺たちが持っているのは違和感を覚えても仕方がない。

「王族が持つような短剣ですが、どこで手にいれたんですか?」

 追い詰めるように言葉を続ける女性は、もうほぼ俺たちを盗人と思っているのだろう、険しい顔つきになる。
 オーウェンが何か話すために口を開けたが、その前に聞き慣れた声が耳に入った。

「探しましたよ、おふたりとも」

 三人で声の聞こえた方に顔を向けると、そこには眉を寄せたディランが立っていた。
 助かったと思えばまた窮地にたたされた俺の隣で、嬉しそうな声が聞こえる。

「ディランさん、どうして町に?」

 うっとりしている女性に驚くが、高い彼女の声に気づいた道行く他の女性もディランの姿を見ると頬を色づかせるため、ディランが町の女性から人気があることがわかった。

「早かったな」
「邪魔をしたくはありませんがこれも仕事なので」

 声をかけた女性に小さく笑みを向けるとディランはオーウェンに言葉を続ける。
 ディランの笑みに手を口に当て喜んでいた女性だったが、ディランがかしこまって話す布を被った男性にわけがわからないという顔をする。
 他にそばを通っていく人も足を止めて、突然現れた王子付きの執事に少しざわめき始めていた。

「おふたりとも、早く移動を」
「こうなったらもう遅いんじゃないか」

 そう言うとすぐにオーウェンは身に纏っていた布を取り外し、隠していた顔をさらけ出す。
 はじめの数秒は誰の声もなかったが、突然の王子の登場に気づいた人々は大きく歓声を上げた。

「すまない、ユキ。町はまた今度楽しもう」
「次は私には伝えておいてください」

 俺たちを取り囲む人々の顔は興奮、喜び、驚きが入り交じったもので、オーウェンは王子として親しみを持たれていることが十分にわかった。
 人々の歓声に口元を優しく緩めながらオーウェンは手を振って応える。
 初めて見るオーウェンの民への対応は王子らしい気品に溢れていて思わず見とれてしまう。
 そんな俺に気づいているのか、それとも無意識にか、俺と目があったオーウェンは町の人に向けるのとは違う愛しさの含む視線になったため、誰に向けるものとも違う視線を受けた俺は切ない痛みが走った胸にそっと手をおいた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

魔王に転生したら幼馴染が勇者になって僕を倒しに来ました。

なつか
BL
ある日、目を開けると魔王になっていた。 この世界の魔王は必ずいつか勇者に倒されるらしい。でも、争いごとは嫌いだし、平和に暮らしたい! そう思って魔界作りをがんばっていたのに、突然やってきた勇者にあっさりと敗北。 死ぬ直前に過去を思い出して、勇者が大好きだった幼馴染だったことに気が付いたけど、もうどうしようもない。 次、生まれ変わるとしたらもう魔王は嫌だな、と思いながら再び目を覚ますと、なぜかベッドにつながれていた――。 6話完結の短編です。前半は受けの魔王視点。後半は攻めの勇者視点。 性描写は最終話のみに入ります。 ※注意 ・攻めは過去に女性と関係を持っていますが、詳細な描写はありません。 ・多少の流血表現があるため、「残酷な描写あり」タグを保険としてつけています。

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

【本編完結】転生先で断罪された僕は冷酷な騎士団長に囚われる

ゆうきぼし/優輝星
BL
断罪された直後に前世の記憶がよみがえった主人公が、世界を無双するお話。 ・冤罪で断罪された元侯爵子息のルーン・ヴァルトゼーレは、処刑直前に、前世が日本のゲームプログラマーだった相沢唯人(あいざわゆいと)だったことを思い出す。ルーンは魔力を持たない「ノンコード」として家族や貴族社会から虐げられてきた。実は彼の魔力は覚醒前の「コードゼロ」で、世界を書き換えるほどの潜在能力を持つが、転生前の記憶が封印されていたため発現してなかったのだ。 ・間一髪のところで魔力を発動させ騎士団長に救い出される。実は騎士団長は呪われた第三王子だった。ルーンは冤罪を晴らし、騎士団長の呪いを解くために奮闘することを決める。 ・惹かれあう二人。互いの魔力の相性が良いことがわかり、抱き合う事で魔力が循環し活性化されることがわかるが……。

【完結】異世界転移で落ちて来たイケメンからいきなり嫁認定された件

りゆき
BL
俺の部屋の天井から降って来た超絶美形の男。 そいつはいきなり俺の唇を奪った。 その男いわく俺は『運命の相手』なのだと。 いや、意味分からんわ!! どうやら異世界からやって来たイケメン。 元の世界に戻るには運命の相手と結ばれないといけないらしい。 そんなこと俺には関係ねー!!と、思っていたのに… 平凡サラリーマンだった俺の人生、異世界人への嫁入りに!? そんなことある!?俺は男ですが!? イケメンたちとのわちゃわちゃに巻き込まれ、愛やら嫉妬やら友情やら…平凡生活からの一転!? スパダリ超絶美形×平凡サラリーマンとの嫁入りラブコメ!! メインの二人以外に、 ・腹黒×俺様 ・ワンコ×ツンデレインテリ眼鏡 が登場予定。 ※R18シーンに印は入れていないのでお気をつけください。 ※前半は日本舞台、後半は異世界が舞台になります。 ※こちらの作品はムーンライトノベルズにも掲載中。 ※完結保証。 ※ムーンさん用に一話あたりの文字数が多いため分割して掲載。 初日のみ4話、毎日6話更新します。 本編56話×分割2話+おまけの1話、合計113話。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

【完】心配性は異世界で番認定された狼獣人に甘やかされる

おはぎ
BL
起きるとそこは見覚えのない場所。死んだ瞬間を思い出して呆然としている優人に、騎士らしき人たちが声を掛けてくる。何で頭に獣耳…?とポカンとしていると、その中の狼獣人のカイラが何故か優しくて、ぴったり身体をくっつけてくる。何でそんなに気遣ってくれるの?と分からない優人は大きな身体に怯えながら何とかこの別世界で生きていこうとする話。 知らない世界に来てあれこれ考えては心配してしまう優人と、優人が可愛くて仕方ないカイラが溺愛しながら支えて甘やかしていきます。

愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる

彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。 国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。 王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。 (誤字脱字報告は不要)

処理中です...