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本編
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はやる気持ちで改札を飛び出す。電車で何度も場所を確認したというのに、すぐには方向がわからなかった。
うろうろとしている途中、人だかりを見つける。あそこか、と疑いもせずに俺は走った。
何故か緊張で、胃のあたりが圧迫される。
「誰? なんかの撮影?」
「スタイルやば……てかAKIに似てるよね?」
「え、本物じゃん……」
駅からすぐ近くのビル前には、驚きと興奮が広がっていた。その場を取り囲んでいる人たちをかきわけられず、俺は一番後ろで足を止める。
人々の頭の間から、眩しさを振りまく人物をとらえた。
「これが、モデルのAKI……」
身にまとった上品なスーツは、足の長さを強調する。施されたメイク、嫌味になりすぎない程度に抜け感のある髪、厚みのある体、すべてが完璧に調和していた。
大きな手が髪をかきあげたり、ジャケットを動かす度に、涼しい風が吹くようだった。
初めて間近で見たプロとしての明に、俺は圧倒される。
「はーい、ちょっとチェックします」
スタッフからの声と同時に、少しだけ、空気が和らぐ。慌ただしく動き出したスタッフに近づくでもなく、明は何かを探すように辺りを見渡していた。
あ、目が合った、と思った次の瞬間、明はこっちに大きく手を振った。
「成海くん!」
「いや、手ふんなよ……」
さっきまでのクールな表情から一転、明の顔には飾らない笑みが広がる。
嬉しそうな明に手を振り返したかったが、振り向いたいくつもの顔が、誰? と語っていて俺は引きつった笑みを返すのがやっとだった。
こんな所で注目を浴びるなんて。
こっちに向かおうとしていた明だったが、スタッフに呼び止められ、体の向きを変える。
一瞬俺の方を寂しげに見た後、スタッフと会話を始めた。
明には悪いけど、助かったと息を吐く。もし明がいつもと同じように話しかけてきても、どうすればいいのかわからなかった。
「あの、すいません」
後ろから聞こえた声に、邪魔だっただろうかと急いで振り返る。しかしそこには、数日前に会った人が立っていた。
「あ、明がお世話になってる……」
「こんにちは。撮影の見学なら、こちらへどうぞ」
空港から俺と明を送ってくれた女性が、ついてくるようにと促す。まだチラチラと向けられる視線から逃げるように、俺は女性に続いた。
「あの、AKIとは昔、仲が良かったんですよね?」
「まぁ、はい……」
「今はどういった関係なんですか?」
「え?」
どういった関係。足を動かしながら、俺は一瞬思考停止する。明と俺がどういった関係なのかは、俺の方こそ知りたかった。
俺が答えを考えているうちに、一般人の人だかりから外れ、もっと近く、スタッフが集まっている所に着く。
難しい顔をしていたからか、女性は笑いながらごめんねと言った。
「ごめんね、深い意味はないんです。ただ、彼のあんな笑顔を見たのは初めてで」
「え、あぁ、そうですか……」
「それでね、無茶を言ってるのはわかってるんだけど、AKIの撮影を手伝ってくれないかな?」
「え? 俺が、ですか?」
撮影の手伝いってなんだ、と思うのより先に、俺が? と聞き返す。周りを見ても撮影に必要な人員も道具も揃っているように見えた。
「なに話してるんだ?」
グイッと腕を引かれ、後ろの体に軽く当たる。この香水の匂いは、と思いながら顔を上げると、眉を寄せ不機嫌そうな明がいた。
「AKI、次の撮影、一緒に撮らせてもらったらどうかな。今までにない表情を引き出せると思うの」
「……成海くんと一緒に?」
驚きを浮かべた明が俺を見る。
明と一緒に撮影なんて、自分が一番無理だとわかっている。自然と後ろに引いた足で今すぐ逃げ出したかった。
「もし成海くんが嫌じゃなかったら、俺からもお願いしたい」
「え、俺、素人だよ?」
「うん。でも、成海くんとじゃなきゃ撮れない顔があるのは、俺もわかってるから」
ありえないだろ、と思う俺に向けられる瞳は、真剣なものだった。俺だけを映す瞳に、身動きが取れなくなる。
「……わかった。上手くできるかわかんないけど、やってみます」
こんなに真剣な目と視線を合わせたら、首を横に振ることなんてできなかった。
うろうろとしている途中、人だかりを見つける。あそこか、と疑いもせずに俺は走った。
何故か緊張で、胃のあたりが圧迫される。
「誰? なんかの撮影?」
「スタイルやば……てかAKIに似てるよね?」
「え、本物じゃん……」
駅からすぐ近くのビル前には、驚きと興奮が広がっていた。その場を取り囲んでいる人たちをかきわけられず、俺は一番後ろで足を止める。
人々の頭の間から、眩しさを振りまく人物をとらえた。
「これが、モデルのAKI……」
身にまとった上品なスーツは、足の長さを強調する。施されたメイク、嫌味になりすぎない程度に抜け感のある髪、厚みのある体、すべてが完璧に調和していた。
大きな手が髪をかきあげたり、ジャケットを動かす度に、涼しい風が吹くようだった。
初めて間近で見たプロとしての明に、俺は圧倒される。
「はーい、ちょっとチェックします」
スタッフからの声と同時に、少しだけ、空気が和らぐ。慌ただしく動き出したスタッフに近づくでもなく、明は何かを探すように辺りを見渡していた。
あ、目が合った、と思った次の瞬間、明はこっちに大きく手を振った。
「成海くん!」
「いや、手ふんなよ……」
さっきまでのクールな表情から一転、明の顔には飾らない笑みが広がる。
嬉しそうな明に手を振り返したかったが、振り向いたいくつもの顔が、誰? と語っていて俺は引きつった笑みを返すのがやっとだった。
こんな所で注目を浴びるなんて。
こっちに向かおうとしていた明だったが、スタッフに呼び止められ、体の向きを変える。
一瞬俺の方を寂しげに見た後、スタッフと会話を始めた。
明には悪いけど、助かったと息を吐く。もし明がいつもと同じように話しかけてきても、どうすればいいのかわからなかった。
「あの、すいません」
後ろから聞こえた声に、邪魔だっただろうかと急いで振り返る。しかしそこには、数日前に会った人が立っていた。
「あ、明がお世話になってる……」
「こんにちは。撮影の見学なら、こちらへどうぞ」
空港から俺と明を送ってくれた女性が、ついてくるようにと促す。まだチラチラと向けられる視線から逃げるように、俺は女性に続いた。
「あの、AKIとは昔、仲が良かったんですよね?」
「まぁ、はい……」
「今はどういった関係なんですか?」
「え?」
どういった関係。足を動かしながら、俺は一瞬思考停止する。明と俺がどういった関係なのかは、俺の方こそ知りたかった。
俺が答えを考えているうちに、一般人の人だかりから外れ、もっと近く、スタッフが集まっている所に着く。
難しい顔をしていたからか、女性は笑いながらごめんねと言った。
「ごめんね、深い意味はないんです。ただ、彼のあんな笑顔を見たのは初めてで」
「え、あぁ、そうですか……」
「それでね、無茶を言ってるのはわかってるんだけど、AKIの撮影を手伝ってくれないかな?」
「え? 俺が、ですか?」
撮影の手伝いってなんだ、と思うのより先に、俺が? と聞き返す。周りを見ても撮影に必要な人員も道具も揃っているように見えた。
「なに話してるんだ?」
グイッと腕を引かれ、後ろの体に軽く当たる。この香水の匂いは、と思いながら顔を上げると、眉を寄せ不機嫌そうな明がいた。
「AKI、次の撮影、一緒に撮らせてもらったらどうかな。今までにない表情を引き出せると思うの」
「……成海くんと一緒に?」
驚きを浮かべた明が俺を見る。
明と一緒に撮影なんて、自分が一番無理だとわかっている。自然と後ろに引いた足で今すぐ逃げ出したかった。
「もし成海くんが嫌じゃなかったら、俺からもお願いしたい」
「え、俺、素人だよ?」
「うん。でも、成海くんとじゃなきゃ撮れない顔があるのは、俺もわかってるから」
ありえないだろ、と思う俺に向けられる瞳は、真剣なものだった。俺だけを映す瞳に、身動きが取れなくなる。
「……わかった。上手くできるかわかんないけど、やってみます」
こんなに真剣な目と視線を合わせたら、首を横に振ることなんてできなかった。
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