踏み出した一歩の行方

たがわリウ

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知らないままだったら

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「それじゃあ今日はここまでにします。出席カード前に出してね」

授業の終わりを告げるチャイムが鳴ったあと、ホワイトボードの前に立つ教授はそう言いマイクを切った。
名前と学生番号を記入しておいた出席カードを持って席を立つ。隣に座っていた体が通路に出る間にリュックを背負った。

「睦月、今日のテスト勉強、俺の部屋でいい?」
「あぁ、いいよ」

授業が終わり賑やかさを取り戻した教室を一緒に歩く空は、じゃあこのまま行こう、と爽やかな笑みを浮かべた。
ふわふわと柔らかな金髪と優しげなタレ目、大きな口は人懐っこい大型犬を思わせる。
出席カードを一番前の机に置き教室から出た俺たちは、空が一人暮らしをしているアパートを目指した。


コーヒーの香ばしい匂いの広がる部屋で、俺たちはペンを動かしていた。授業で配られたプリント、自分で取ったノートのすぐそばには空がいれてくれたコーヒーがある。
手にしているプリントに目を通していた俺はふと視線を上げると、テーブルの向かい側に座っていた空と視線が重なった。

「なんだよ」
「ううん、なんでもないよ」

俺と視線が合うと少し驚いたように目を大きくした空は、すぐに嬉しそうにふわっと笑う。
目が合っただけでどうしてそんなに嬉しそうなんだと思いながらなんとなくそのまま空を見ていると、なぜか空は真剣な表情に変わった。そして徐々に近づいてくる体。なんだ?と思っているうちに、息が触れるくらいの距離になる。
何度見ても整っていると感じる顔がすぐそばにある。ただぼんやり動かずにいる俺の唇に、空の唇が押し付けられた。キスをされているんだと理解出来たのは数秒経ってからだった。
大きな驚きと共に体を引いた俺と空の唇が離れる。

「……なんだよ、今の」
「ごめん、俺、あの……ほんとに、ごめん」

自分で自分の行動に驚いているのか、空は手の甲を唇に当てて焦っている様子を見せる。
そして動揺している顔、耳にいっきに赤が広がっていく。俺はその様子をどこか冷静に眺めていた。

「ごめん、俺何やってんだろ……でも、今のはノリでとかじゃなくて、俺、ずっと睦月のことが好きだったんだ」

空が、俺のことを好き?確かに去年、大学一年の時に空と知り合ってから空はほとんど俺と同じ授業を取っているし、特別面白い話をしてるわけでもないのに俺が話すだけで嬉しそうに笑う。
人懐っこくて話しやすいうえにイケメンなため、モテるのに彼女を作らないのが不思議だった。そしてそのことを話題にするといつも少し不機嫌になって、睦月と居る時が一番楽しいからと言っていた。
そんなことを言ってもらえるくらい親しい友人になれたことを喜んでいたけど、まさか空は俺にキスしたいと思っていたなんて。

「……今日は帰る」
「ごめんね、睦月。明日ちゃんと話すから……」

後悔を滲ませて項垂れる空を残して、俺は空の部屋から逃げ出した。
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