死に戻りオメガはもう旦那様の言うことを聞きたくありません!

進木えい

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異母兄の来訪

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「……にいさん。もてなす事も出来ませんが」
「ふん。そんなことは分かってる」
 
 傲慢な態度。リオールと同じ髪の色に、違う瞳の色。リオールの母が違う異母兄だった。今の公爵夫人ではなく、公爵夫人の前妻だった方の子どもだ。継母である公爵夫人によく思われていない立場は一緒だが、異母兄はリオールとは違った。
 
「フォス様……あの、すみません……」
「謝るな。不快だ」
 
 異母兄に叱られて、リオールはすみませんと黙り込む。フォスは、背筋がピンと伸びた綺麗な人だ。いつも眉を顰めて、口をムッと曲げて、歯を食いしばっている。本来ならこの異母兄が公爵の座を継ぐ予定だった。しかし異母兄の実母が亡くなり、後妻を迎えた頃から彼の人生は傾き始めた。彼の食事の席はなくなり(リオールには元々なかったので聞いた話だ)、学院を追いやられ、彼自身がオメガだったのが更に拍車をかけた。格下の伯爵家に嫁がされたのだ。
 
「やあ、リオールくん。久しぶり」
「お義兄さん、お久しぶりです……」
 
 伯爵家の当主、クロードはいつも感情を見せないように笑っている。リオールは顔を下に向ける。クロードとフォスは番だ。フォスの肩に手を置くクロードは、釣り合っていてお似合いのように見えた。
 リオールは二人を出迎え、屋敷に案内をする。以前も、同じことがあった。フォスはリオールのことが嫌いである。こうやって男爵家の屋敷にやってきたのは、偵察なのである。何をしてしまったのか分からない。前回は上手くいかなくて、戦の勃発に寄与をした。フォスが公爵家に報告したことが、引き金の一つだったことは明白である。
 屋敷の中を一通り案内し、二人に使ってもらうゲストルームに通した。使用人がいなくなり、フォスとクロードとリオールの三人きりになった瞬間、フォスに殴られた。
 
「お前は何をしてるんだ!!」
「ご、ごめんなさい……」
「意味も分からず謝るんじゃない!!」
 
 激昂だ。フォスは、綺麗な人で怒ると余計に怖い。リオールは求められるまま謝り、その場で土下座した。足蹴にされて、何度か打たれる。
 
「フォス。やめて」
「……っ! お前は私に口を聞くな!!」
「八つ当たりしてるだけでしょ」
 
 クロードに制止されて、フォスは怒りをクロードに向けた。クロードの胸ぐらを掴み、フォスはクロードを睨み付ける。クロードは殴られるが特に抵抗もせず、フォスにされるがままだ。
 
「っ……、いい! 貴様の顔など見たくない。失せろ」
「リオールくんに八つ当たりしても何も解決しない」
「八つ当たりなどしてない!」
「じゃあ、ここに来た理由を冷静に話すればいいでしょ」
 
 チッと舌打ちをして、フォスはリオールの手を踏み付けた。ぐりぐりと踵で踏まれて声が漏れる。
 
「お前、何のためにここに嫁いできたと思ってる」
「……し、知りません……。俺が邪魔だからでしょうか……っ」
「邪魔? そんな当たり前なことを言うな。黒に黒だと言うくらい当たり前だ。違う」
 
 リオールは分かりませんと素直に言った。以前と同じ流れだ。この後、フォスはクロードに命じて、リオールの首を絞めさせる。リオールは抵抗もせず、泣き出せば許してもらえる筈だから黙っている。
 ゲシっと蹴られて、リオールはソファーに頭をぶつける。フォスの侮蔑と軽蔑に満ちたその表情に、相変わらず嫌われているなと確信が持てる。フォスは、可哀想な人だ。優秀で何もかも一番を取っていたフォスは、学院を退学させられて自分の足元にも及ばなかったクロードに嫁がされた。可哀想な人なのだ。クロードに頼らないと生きていけない自分の不甲斐なさと、無力さ、徒労感、苛立ちに諦めきれない気持ちが渦巻く。どんな気持ちなのだろう。頭の悪いリオールにはわからない。
 
「アルファとは完璧な生き物だ。そう、全てを支配してしまうほど、完璧なんだ。瑕一つない完全な玉だと思え。それに首輪を付けようとしたらお前はどうする」
「わ、分かりません……」
「瑕をつけるんだ。分かるか、オメガはアルファの瑕であり、首輪であり、足手纏いなんだ」
 
 どんな気持ちでこの人はこんなことを言っているのだろう。リオールは目を伏せて、はい、と返事をした。
 
「おい、コイツの首を絞めろ」
「…………」
「クロード!」
 
 クロードは後ろで手を組んだまま動きはしなかった。フォスは舌打ちをして、リオールの首を自ら絞めた。リオールは諦めたように抵抗もしなかった。
 
「分かるか、足を引っ張らせるんだ。番わせて、首輪を付けて、アルファが言うことを聞かなければオメガを殺す。そうしたらどうなるか分かるか」
「わか、りません……」
「それだけでアルファの力を削ぐことができる。アルファ自身に傷付けることはできずとも、力のない愚図なオメガなら簡単に傷が付けられる。お前は男爵の首輪なんだよ」
 
 グググッと締められる。クロードの方が手加減をしてくれたように思う。息が苦しい。パクパクと唇を動かす。
 
「お前が首輪の役目が果たせてないと知ったらあの女が何をするか分かるか!?」
「わ……、か、ませ……ん」
「迷惑を被るのはこっちなんだよ!!!」
 
 苦しい。クロードはコチラを見ていなかった。リオールが苦しげな声をあげないからだ。
 
「……何をしている、伯爵夫人」
 
 冷たい声が聞こえた。急に息がしやすくなり、解放されてげほげほと床に倒れ込んだ。アルバはフォスの体を蹴って吹っ飛ばし、その腰に付けた刀を抜いていた。
 
「お前が今、何をしていたか分かるか」
 
 アルバの声は血を這うようにドスが効いている。フォスはその刀を見て動揺もしない。
 
「やってみろよ。殺せるのか私を」
「いい加減にしろフォス。男爵も。非礼を詫びるから手を離してくれ」
「貴方も何をしていたんだ!」
 
 アルバは怒りのまま声を上げるが、リオールが咳き込むと、我に返ったようにアルバは刀を納めてリオールの背中をなぞる。
 
「フォス。お前が悪いよ」
「貴様は黙っていろ」
 
 フォスはふん、と鼻を鳴らし部屋から出ていってしまった。リオールはアルバに背中を撫でられ、腕の中に収められた。アルバはリオールを膝の上に乗せてくれる。けほ、けほ、と咳き込む。
 
「リオールくん。フォスが言ってたことは、半分は本当だよ。公爵家の使用人、追い出したでしょ。叛意があると思われても仕方ないんだよ」
「追い出し……? えっと……」
「俺が追い出した。目障りだったから」
「駄目だよ。見た目だけでも従っているように見せなきゃいけないんだ。男爵、貴方は剣術はできても、政治は分からない」
 
 クロードはリオールにハンカチを差し出し、フォスの非礼を詫びて部屋を出ていった。リオールには今晩どんなことが起こるのか分かっていた。
 
「大丈夫か」
「うん……、大丈夫です。……けほっ」
「何故されるがままなんだ。頼むから、自分を大事にしてくれ」
 
 切実な声に、リオールは首を傾げる。アルバは怒っていた。リオールのために。
 
「ごめんなさい」
「謝る必要はない。お前が自分を大事にしないと、俺は辛いんだ」
 
 
 
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