死に戻りオメガはもう旦那様の言うことを聞きたくありません!

進木えい

文字の大きさ
25 / 28

旦那様の願い

しおりを挟む
 
「死んでくれ」
 
 リオールの目からは涙が落ちた。ああダメか。ダメならダメでいいのに。今回はアルバから直接言われて諦めも付いた。部下に言わせたアルバを恨んでいたんだ。俺は死ぬ姿を貴方の頭の奥に焼き付けてやる。涙は止まらないけど、悔しくて仕方ないけど、アルバがそう言うなら、そうしてやるのだ。ポタポタと涙が落ちる。
 
「わるいこと、しちゃだめですよ……」
「ああ」
「…………ちゃんとご飯食べてくださいね」
「……ああ」
「おれのこと、忘れないでください……ね」
「ああ……」
 
 言うことがもう出てこなかった。他の人を好きにならないで、でもちゃんと生きて欲しい、処刑されるだなんて馬鹿らしいから逃げて欲しい。ちゃんと息をしてちゃんと生活をして、そこに俺がいればいいのにと思っていたのに。
 
「いいよ。それ貸して」
「……俺がやる」
「分かった」
 
 抱き締められた。リオールは目を閉じる。はあ、とアルバが息を吐くと、顎を掴まれて唇を合わされる。暖かい。アルバの腕は何回も何回も形を確かめるように抱き直す。リオールは目を瞑った。このまま殺してくれたら、きっと以前のような絶望感や悲しみはない。リオールはアルバの体を抱きしめる。アルバはリオールの髪に触れた。項が指によってなぞられる。ぞわわっと肌が粟立つ。グイッと髪が掴まれる。フォスに憧れて、後ろで括った髪が引っ張られるとお前はフォスにはなれないのだと言われている気がした。リオールは最期の瞬間までアルバを見ていようと目をうっすらと開けた。
 
「…………」
 
 はらり、髪が重力に従って落ちた。髪が切られたようだった。アルバはリオールから手を離してしまったため、リオールはずるずるとその場に座り込んだ。髪が、短くなっている。
 
「男爵家の夫人、公爵家の子どもは死んだ。お前は何者でもない」
「え……、あ、アルバ……」
「指輪には家紋が入ってるから回収させてくれ。服を着替えろ。歩けるか? 部下に手引きさせるから、裏手に逃げていけ」
「待って……! 待って、待ってよ」
「待たない。ああ、これを持っていけ。路銀に使えばいい」
 
 荷物を持たされる。路銀って、贅沢をせずに息を潜めて生活をするなら一生でも使い切れないものではないか。アルバにローブを着せられ、目深にフードを被される。
 
「いやだ、嫌だ……」
「悪い事をするな、飯を食え、俺のことは忘れてもいい」
「嫌だ」
「行け」
 
 アルバは部下にリオールを任せて、一度も振り返らずに行ってしまった。リオールがどれだけ声を上げてもアルバには届かなかった。アルバの腹心の部下に引き摺られるように屋敷から遠ざかっていく。誰にも見つからないような山の奥に、もう隣国との国境に近いような場所に一台の馬車があった。
 
「上がれ」
「兄さま……っ」
「もう一度言う。上がれ。部下をお前の旦那の元に帰らせてやれ。ここにお前がいると邪魔なんだ」
「いやだ、アルバのところに」
「お前が死ぬとあの男もゆくゆく死ぬ。あの男は自分の身を守れるが、貧弱なお前に何ができる」
 
 再度、乗れと命令されてリオールは自らの足で籠に乗った。ポタポタと泣いているリオールに、フォスは言葉をかけなかった。腕を組み、ただ黙って何かを考えているようだった。
 伯爵邸に迎え入れられ、クロードに優しく声を掛けられた。リオールはここずっと体調が悪かったのもあって、吐いた。泣いて吐いての繰り返しで何もできない自分が不甲斐なかった。
 
「お前、妊娠している。ちゃんと食事を取れ。それがお前が、お前の子どもと旦那を守るためにできる唯一のことだ」
 
 医者ではなく、フォスから言われたその言葉はリオールの言葉を奪い、アルバが亡くなったら後追いしようと思う気持ちを無くさせた。腹を撫でる。まだ平らな腹は、アルバがいつももっと飯を食えと言っていた事を思い出させた。項に指を当てる。まだ、番契約は有効だ。契約解消をしようと考えていたのに、今は契約のおかげでお互いの存在を感じている。
 フォスは難しい顔をして、リオールの寝転がるベッドの横に座る。
 
「さあ、化け物退治をするぞ。お前も身重の身であるが、旦那のためとあれば協力する気があるだろ」
「……退治?」
「ああ。立って歩くだけの体力を戻せ。特等席で見せてやる」
 
 フォスはにやりと笑った。リオールはスープを飲み干した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

無愛想な氷の貴公子は臆病な僕だけを逃さない~十年の片想いが溶かされるまで~

たら昆布
BL
執着ヤンデレ攻め×一途受け

回帰したシリルの見る夢は

riiko
BL
公爵令息シリルは幼い頃より王太子の婚約者として、彼と番になる未来を夢見てきた。 しかし王太子は婚約者の自分には冷たい。どうやら彼には恋人がいるのだと知った日、物語は動き出した。 嫉妬に狂い断罪されたシリルは、何故だかきっかけの日に回帰した。そして回帰前には見えなかったことが少しずつ見えてきて、本当に望む夢が何かを徐々に思い出す。 執着をやめた途端、執着される側になったオメガが、次こそ間違えないようにと、可愛くも真面目に奮闘する物語! 執着アルファ×回帰オメガ 本編では明かされなかった、回帰前の出来事は外伝に掲載しております。 性描写が入るシーンは ※マークをタイトルにつけます。 物語お楽しみいただけたら幸いです。 *** 2022.12.26「第10回BL小説大賞」で奨励賞をいただきました! 応援してくれた皆様のお陰です。 ご投票いただけた方、お読みくださった方、本当にありがとうございました!! ☆☆☆ 2024.3.13 書籍発売&レンタル開始いたしました!!!! 応援してくださった読者さまのお陰でございます。本当にありがとうございます。書籍化にあたり連載時よりも読みやすく書き直しました。お楽しみいただけたら幸いです。

「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」

星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。 ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。 番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。 あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、 平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。 そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。 ――何でいまさら。オメガだった、なんて。 オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。 2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。 どうして、いまさら。 すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。 ハピエン確定です。(全10話) 2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。

運命じゃない人

万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。 理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。

運命の番は姉の婚約者

riiko
BL
オメガの爽はある日偶然、運命のアルファを見つけてしまった。 しかし彼は姉の婚約者だったことがわかり、運命に自分の存在を知られる前に、運命を諦める決意をする。 結婚式で彼と対面したら、大好きな姉を前にその場で「運命の男」に発情する未来しか見えない。婚約者に「運命の番」がいることを知らずに、ベータの姉にはただ幸せな花嫁になってもらいたい。 運命と出会っても発情しない方法を探る中、ある男に出会い、策略の中に翻弄されていく爽。最後にはいったい…どんな結末が。 姉の幸せを願うがために取る対処法は、様々な人を巻き込みながらも運命と対峙して、無事に幸せを掴むまでのそんなお話です。 性描写が入るシーンは ※マークをタイトルにつけますのでご注意くださいませ。 物語、お楽しみいただけたら幸いです。

オメガの復讐

riiko
BL
幸せな結婚式、二人のこれからを祝福するかのように参列者からは祝いの声。 しかしこの結婚式にはとてつもない野望が隠されていた。 とっても短いお話ですが、物語お楽しみいただけたら幸いです☆

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

処理中です...