Starlog ー星の記憶ー

八城七夜

文字の大きさ
40 / 93

Approach

しおりを挟む
「喉乾いたし疲れたからこの1球でラストな!」

そう言うと千悟はボールをやや前方に高く投げジャンプサーブを打つ。千晶がレシーブするが体勢を崩し、千晶にトスを上げるつもりだった千歳は戸惑ってしまう。

「千歳!打てっ!」

「っ!」

千晶の声に反応し千歳は腕を振り上げながらジャンプし、打ち上げられたボールに向かって腕を振り下ろす。千歳の放ったスパイクは千尋と千悟のチームのコート後方の角に叩き込まれ、その一発に千尋と千悟はもちろんのこと決まると思っていなかった千歳も唖然とする。

「やったな千歳、いい所見せれたじゃないか。」

「え?」

コートの外を見ると紗奈が千歳に向かって満面の笑みで拍手をしている、それに応えるように千歳も照れ笑いを浮かべながら手を振る。

・・・
・・


バレーボールが終わると千歳は紗奈に腕を引っ張られフードコートのアイスクリームの店へと連れてこられていた。

「ちぃちゃん、さっきのスパイクかっこよかったよ。」

「え、あぁ・・・ありがとう。」

そして二人ともベンチに横に並び一緒にアイスクリームを食べていた、千歳は心無しか紗奈との距離が近いような気がしていた。

「打った瞬間の手応えはどうでしたか?」

そう言いながら紗奈が隣の千歳にすり寄り自分の持っているアイスクリームをマイクのように千歳の顔に近づける、そして『食べていいですよ』と小声で囁く。

千歳はさすがに照れくさくなり周りに誰もいないことを確認すると紗奈のアイスクリームを小さく一口食べる。

「え、いやまぁ・・・決まるなんて思わなかったね。」

「ほほうなるほど。」

そして何事もなかったかのように紗奈は自分のアイスクリームを食べ進める、千歳は内心どぎまぎしている。

(おぉ、ちぃちゃんが照れている、若葉ちゃんの言っていた通りですな・・・)

そんな千歳の様子を紗奈は内心ニヤニヤしながら見ていた、お昼の時に紗奈は若葉から千歳にアプローチするコツを聞いていたのだ。

ーーー
ーー


「私が思うに、二人とも奥手なんです。」

「う、そ、そうかも・・・」

千歳が若葉の昼食を買いに離れてる間に意気投合した二人、若葉は紗奈に千歳との恋愛についてアドバイスをしていた。

「椎名先輩、兄さんは『押せば行けます』。積極的にアプローチしちゃいましょう。」

「あ、アプローチ?自信無いなぁ・・・」

言葉通り自信なさげな紗奈に若葉はニヤリと笑みを見せる。


「なにを言ってるんですか、椎名先輩には立派な武器があるじゃないですか。」

「ぶ、武器?」

紗奈は若葉の言葉の真意がわからず首を傾げる、若葉はそーっと紗奈の胸元を指差し小声で話す。

「椎名先輩には立派ながあるじゃないですか、それで迫られてドキドキしない男の子はいませんよ?」

「へ・・・?はっ!えぇ!?」

若葉の言葉を理解した紗奈は思わず自分の胸を両腕で隠しながら声をあげる、その様子を見て若葉は相変わらずニヤニヤと笑っている。

「今日だって皆さんがいますからいつも通りみたいな感じですけど、二人きりの状況で椎名先輩の肉体美で迫れば兄さんはもう一撃ですよ。」

「へぇ・・・そ、そうなのかな。」

今までそこまで積極的なアプローチをした記憶がない紗奈にはとてもハードルが高く感じてしまう、すると若葉が身を乗り出し指先で紗奈の胸元を優しく触れる。

「大丈夫ですよ、結局大事なのは恋心ハートです。椎名先輩なら大丈夫。」

若葉の言葉に紗奈は不思議と安心感を覚える、とても後輩とは思えない言葉の説得力と声の優しさに。

「・・・ち、ちょと、頑張ってみる。」

紗奈が頬を赤らめながら言うと紗奈は『うんうん』と満足気な笑みで頷く。

「あ、あとね橘さん。橘さんのこと・・・
って呼んでもいいかな?」

「もちのろんです!私も椎名先輩のことって呼びますね!」


若葉の返事に少々違和感を覚えた紗奈はすぐにその正体がわかった。

「いえ、若葉ちゃん。私のことはとお呼びなさい、もしくはってね。」

「お、お姉様!?」

冗談めいた紗奈の言葉に若葉はクスッと笑ってしまい、それにつられて紗奈も嬉しそうに笑いを浮かべる。千歳が戻ってきたのはこのやりとりの少しあとである。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...