Starlog ー星の記憶ー

八城七夜

文字の大きさ
71 / 93

Rider

しおりを挟む
 刀を納めて一瞬でも安心したのが間違いだったと、千悟ちさとがそう思うほどに船の上に立つリョーマは気迫に満ちていた。

 しかしリョーマからなにかを仕掛けてくる様子はない、出方を窺っている、というよりは千悟の攻撃を待っているようにも見える。

 千悟は銃に魔力を込め弾倉の中の銃弾をすべて魔力元素弾まりょくげんそだんとして放つ、様々な魔力を纏いながら銃弾はリョーマに向かっていくがそれらはすべて刀で切り落とされる。先ほどと違い、刀の刀身には魔力が帯びていた。

「狭間、まだなにかを隠しちゅうなら出しおよけなみしやーせん方がええぞ。」

 そう言ってリョーマが刀を納め、右手を上に掲げた。すると船体の砲門が開き、大砲の砲口が露になる。なにが起こるのか容易に想像できた千悟は身体に魔力を纏わせた。

「じゃなきゃ、これでしまいやき。」

 そしてリョーマが右手を振り下ろすとその合図と共にすべての大砲が一斉砲撃をする、魔力を纏った砲弾を必死に回避するが着弾した時の衝撃と爆風で千悟は吹き飛ばされ防波堤に勢いよく身体を叩きつけられる。

 リョーマの船の大砲が次弾を装填している間に千悟は痛みを堪えながら大地を蹴って跳び上がり、船の上に飛び乗ると銃を構えるがリョーマに服の胸ぐらを掴まれており身体がフワッと浮いた。

「わやに───すなぁ!」

 怒号と共にリョーマは海に向けて千悟を思い切りぶん投げた、千悟の身体は勢いよく海面に叩きつけられそのまま海の中へと沈んだ。



(クソ、さすがだな本当に・・・)

 星霊せいれいであるリョーマの抱く志とその強さをあらためて痛感した、しかし千悟にも負けられない理由がある。

(櫛田くしださんからの返事を聞くまで・・・俺は、死ねない!)

 今朝、思いを告げたみおの顔が思い浮かぶ、そして千悟はポケットから鍵を取り出すとそれを前に突き出した。

─────
───


(狭間、おまんもただならん志もってこの戦いにきたっちゅうことはワシにもわかる。ほがなおんしがこがなげに沈きいくような男なわけがあるか・・・!)

 千悟が沈んでいった海を見つめながらリョーマは思いに耽っていた、心の中でつぶやいた言葉には『そうであって欲しい』という感情も込められていた。



─────ッ!!!



 突如、海中から地鳴りのような轟音が鳴り響く、そして次の瞬間、なにかが水飛沫と共に海中から勢いよく飛び出し宙を舞う。砂浜に着地したそれは唸り声のような音を立てながらその場にたたずむ。

 "鉄の馬"と呼ぶにふさわしい姿をしているそれにずぶ濡れの千悟が跨っていた、ゴーグルを外した時のその闘志に満ちた目を見たリョーマは喜びと共に安堵した。

「それがおんしの船ながか。」

 そう言いながらリョーマが再び右手を上に掲げた、千悟はゴーグルを装着し、鉄の馬───ではなくバイクのアクセルを握りエンジンを吹かすと魔力を纏わせた。

 千悟の愛銃も、いま乗っているバイクも、"魔装兵器まそうへいき"と呼ばれ、魔力を纏わせることで真の力を発揮する。長門ながとの"魔眼"や有間ありまの"神性体質"といった特異な能力を持たない狭間家の人間にとって異形や神秘に対抗するための唯一の手段である。


 リョーマが右手を振り下ろすと爆音と共に大砲から砲弾が射出される、千悟がアクセルを握るとバイクは轟音を鳴らしながら走り出す。砲弾を躱しながらバイクは魔力を纏ったタイヤで海上を走り、リョーマの乗る船へ向かっていく。

 そしてバイクの帯びる魔力は膨れ上がり、その速度と相まって彗星のように船へと激突すると文字通りに駆け抜け、船体に大きな風穴を空けた。


 砲撃は止み、リョーマは船の上でただ黙って立っている、千悟もバイクに跨ったまま沈黙で返した。

 しばらくしてお互いに背を向け合ったままリョーマが口を開いた。

「行け、狭間。」

 その言葉を聞き、振り向こうとする千悟を『振り返るな!』とリョーマが強く制止した。

「おんしにゃなさせんといかんことがあるろう、やき・・・行けぃ!」

 リョーマの叫びに呼応してか、千悟の目の前に空間の裂け目が現れる。千悟は名残惜しさを感じながらもアクセルを握りしめ、裂け目に向かってバイクを走らせた。

─────
───


 戦いの場から千悟が去り、空間の裂け目は閉じた。

 船の上に残されたリョーマは後ろを振り向き、燦々と輝く太陽を見つめる。



 ───突如として呼び出され、予期せぬ縁に恵まれた。

 ───驚くことも多くあったが、とても良い旅行だった。


「まっこと、満足ぜよ・・・!」


 リョーマは陽射しに向けて微笑んだ、そして星の記憶で召喚されたその身体は光の粒子となって霧散していく。

 リョーマは意識が星に還らぬうちに大きく息を吸い、めいいっぱいの大声で太陽と海に向かって叫んだ。



 "頑張りや!若者たちよ!縁があったらまた会おうや!!!"
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...