Starlog ー星の記憶ー

八城七夜

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Encounter

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 千歳ちとせに会うために駆け出した紗奈が脚を止めたのは紫ヶ丘むらさきがおかであった。夏の陽射しの中を走っていたからか汗だくになり息も切らしていた。自販機で買ったジュースもあっという間に飲み干し、ひと息つくと早歩きで千歳の姿を探しはじめた。

(たしか、この辺りのはずなんだけど───)

 自分の勘を頼りに歩いていると家電量販店の店頭に展示されている大型テレビの映像を眺めている少女がいた、その姿を見た紗奈は思わず少女の名前を口にした。

若葉わかばちゃん・・・」

 その声に反応した少女───若葉は紗奈の方を向き、黒く冷たい眼差しで見詰める。紗奈がその場から離れようとすると次の瞬間には黒い影を撒き散らしながら目の前に若葉が現れた。

「お前が椎名しいな 紗奈さなか。」

「アナタが・・・伊邪奈美命イザナミノミコト。」

 お互いに名前を呼び合い、暫しの沈黙が流れると緊張した表情で紗奈が口を開いた。

「どうして私の名前を知っているんですか?」

「この器の意識から記憶を辿った。」

 紗奈の問にイザナミは額を指でトントンと叩きながら低く機械のような冷たい声で答える。

わたしは───お前に逢いたいと思っていた。」

「わ、私に・・・?」

 思いもよらぬ言葉に戸惑う紗奈にイザナミは柔和な笑みを浮かべながら手を差し伸べた。

「椎名 紗奈、妾と同志にならないか?」

「なっ・・・!」

 あまりの突拍子もない言葉に紗奈は声を上げて後ずさった、その反応をイザナミは不思議そうに見つめている。

「なにをそんなに驚く?どのみちこの星の命は妾が皆殺しにするんだ。どうせなら楽しい方がいい、お前となら愉悦に満ちたものになる。」

「若葉ちゃんの身体でそんなこと言わないで、それに・・・アナタはちぃちゃんが止めるんだから。」

 紗奈の"ちぃちゃん"という呼び名にイザナミは若葉の記憶を辿る、すると紗奈が千歳ちとせをそう呼んでいる情景を思い起こした。

「"ちぃちゃん"・・・あぁ、千歳ちとせの事か。そんなにあの男が気に入っているのなら・・・そうだな、標本や剥製にでもしてお前の傍に置いてやろうか?」

 暗に"千歳を殺す"ともとれるこの言葉に紗奈はイザナミと対峙してはじめて殺気のこもった眼差しを向けた。

「そうだ、その眼だ・・・やはりお前は妾と同じだ。」

 それに対してイザナミは恍惚とした表情を浮かべながら紗奈に歩み寄るとそこへ1本の短剣がブーメランのように回転しながら風切り音と共に飛来する。音に気づいたイザナミが身を翻して躱すとその隙にメイド服に身を包んだ女性が紗奈の手を引いてすぐさまその場から離れた。

「椎名様、保護しました。坊ちゃん!」

 メイドの女性が声をあげると1人の少年がイザナミに歩み寄る、そして少年はメイドの方を向くと安堵の表情を浮かべた。

「ありがとう、桐江きりえ。御前を連れてきてよかった。」

「当然でございます。」

 強気に返事をしながらメイドの桐江が礼儀よくお辞儀をするとメイドの主である千晶ちあきは『ふっ』と微笑んだ。

女子おなご同士の語らいに刃で割り込むとは、教育がなってないな?」

 そう言いながらイザナミが不機嫌な表情で千晶を睨んだ、そして千晶がこの場にやって来たことでイザナミの傍には天翁てんおうと同志たちも姿を現した。

鬼頭きとうは敗れたか、あの大口を叩いていた科学者とやらも所詮は人間、凡人がこの聖戦に挑むべきではなかった───ということだな。」

 かいは千晶の姿を見るなり対戦相手であった鬼頭と鬼頭をこの戦いに推した開賀ひらが すすむを鼻で笑って蔑む。父親である進を侮辱され、千晶は魔力で短剣を精製すると魁に向けて投げ飛ばそうと構えた。

『魁よ、開賀博士の研究は大いに役立った。そう悪く言うてやるな。』

「い、いえ、滅相もないこと!私は凡人の分際でこの聖戦に参じた鬼頭の方を侮蔑したのでございます!」

 天翁に諌められ、魁は急いで訂正した。思いもよらぬ光景に千晶は短剣を持った手を降ろす。そして天翁は『パンッ!』とひとつ拍手をして千晶を讃えた。

『まずはひとつ褒めおこう、若き開賀の当主よ。しかしどうする、お前1人で我々を止められると思うか?』

 この天翁の問に千晶が余裕の笑みを浮かべるとそこへ人影が近づき千晶と並び立った。

「遅かったな、千尋ちひろ。」

「これでも全速力で向かってきたんだがな───」

 ふと桐江の隣に紗奈がいる事に気づいた千尋は千晶に問いかける。

「なんで椎名さんが此処に?」

「俺にもわからん、しかし俺たちよりも先にイザナミとなにか話していた。危なっかしくてすぐ桐江に保護してもらったけどな。」

 そこへバイクに跨った千悟ちさとも到着し、千晶や千尋と並び立った。そして同じように紗奈がこの場にいる事に疑問を抱く。

「なぁ、なんで───」

「「わからん。」」

 問い掛けようとするも二人からほぼ同時に同じ答えが返ってきたので千悟は少し間を置いてから『なるほど。』と納得した。


「ぞろぞろと鬱陶しいことだ・・・」

 呆れたようにため息をつきながらイザナミが右手を上にかざすと空には再び魔法陣が浮かび上がり一筋の影を落とす。

「紗奈、お前の抱く希望がどれだけ脆弱で無駄なものか───教えてやろう。」

 そして影がイザナミの前に舞い降りると渦を巻き、そこから初代有間と同じ鎧を身に纏った男が現れた。

『議長、彼奴はもしや・・・』

 その姿を見た天翁は息を呑んだ、イザナミは天翁の様子を見ながら小さく声を上げて笑っている。

「よい趣向だろう?双璧の1人を呼んだとあらば、も呼ばねばな。」

 男は周りを見渡しながら状況を理解し、瞬きをひとつすると腕を組んで千尋たちを睨みつけた。男の両眼は星映ほしうつしの眼を開き、その眼差しに千尋たちは圧倒される。
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