Starlog ー星の記憶ー

八城七夜

文字の大きさ
80 / 93

Encounter

しおりを挟む
 千歳ちとせに会うために駆け出した紗奈が脚を止めたのは紫ヶ丘むらさきがおかであった。夏の陽射しの中を走っていたからか汗だくになり息も切らしていた。自販機で買ったジュースもあっという間に飲み干し、ひと息つくと早歩きで千歳の姿を探しはじめた。

(たしか、この辺りのはずなんだけど───)

 自分の勘を頼りに歩いていると家電量販店の店頭に展示されている大型テレビの映像を眺めている少女がいた、その姿を見た紗奈は思わず少女の名前を口にした。

若葉わかばちゃん・・・」

 その声に反応した少女───若葉は紗奈の方を向き、黒く冷たい眼差しで見詰める。紗奈がその場から離れようとすると次の瞬間には黒い影を撒き散らしながら目の前に若葉が現れた。

「お前が椎名しいな 紗奈さなか。」

「アナタが・・・伊邪奈美命イザナミノミコト。」

 お互いに名前を呼び合い、暫しの沈黙が流れると緊張した表情で紗奈が口を開いた。

「どうして私の名前を知っているんですか?」

「この器の意識から記憶を辿った。」

 紗奈の問にイザナミは額を指でトントンと叩きながら低く機械のような冷たい声で答える。

わたしは───お前に逢いたいと思っていた。」

「わ、私に・・・?」

 思いもよらぬ言葉に戸惑う紗奈にイザナミは柔和な笑みを浮かべながら手を差し伸べた。

「椎名 紗奈、妾と同志にならないか?」

「なっ・・・!」

 あまりの突拍子もない言葉に紗奈は声を上げて後ずさった、その反応をイザナミは不思議そうに見つめている。

「なにをそんなに驚く?どのみちこの星の命は妾が皆殺しにするんだ。どうせなら楽しい方がいい、お前となら愉悦に満ちたものになる。」

「若葉ちゃんの身体でそんなこと言わないで、それに・・・アナタはちぃちゃんが止めるんだから。」

 紗奈の"ちぃちゃん"という呼び名にイザナミは若葉の記憶を辿る、すると紗奈が千歳ちとせをそう呼んでいる情景を思い起こした。

「"ちぃちゃん"・・・あぁ、千歳ちとせの事か。そんなにあの男が気に入っているのなら・・・そうだな、標本や剥製にでもしてお前の傍に置いてやろうか?」

 暗に"千歳を殺す"ともとれるこの言葉に紗奈はイザナミと対峙してはじめて殺気のこもった眼差しを向けた。

「そうだ、その眼だ・・・やはりお前は妾と同じだ。」

 それに対してイザナミは恍惚とした表情を浮かべながら紗奈に歩み寄るとそこへ1本の短剣がブーメランのように回転しながら風切り音と共に飛来する。音に気づいたイザナミが身を翻して躱すとその隙にメイド服に身を包んだ女性が紗奈の手を引いてすぐさまその場から離れた。

「椎名様、保護しました。坊ちゃん!」

 メイドの女性が声をあげると1人の少年がイザナミに歩み寄る、そして少年はメイドの方を向くと安堵の表情を浮かべた。

「ありがとう、桐江きりえ。御前を連れてきてよかった。」

「当然でございます。」

 強気に返事をしながらメイドの桐江が礼儀よくお辞儀をするとメイドの主である千晶ちあきは『ふっ』と微笑んだ。

女子おなご同士の語らいに刃で割り込むとは、教育がなってないな?」

 そう言いながらイザナミが不機嫌な表情で千晶を睨んだ、そして千晶がこの場にやって来たことでイザナミの傍には天翁てんおうと同志たちも姿を現した。

鬼頭きとうは敗れたか、あの大口を叩いていた科学者とやらも所詮は人間、凡人がこの聖戦に挑むべきではなかった───ということだな。」

 かいは千晶の姿を見るなり対戦相手であった鬼頭と鬼頭をこの戦いに推した開賀ひらが すすむを鼻で笑って蔑む。父親である進を侮辱され、千晶は魔力で短剣を精製すると魁に向けて投げ飛ばそうと構えた。

『魁よ、開賀博士の研究は大いに役立った。そう悪く言うてやるな。』

「い、いえ、滅相もないこと!私は凡人の分際でこの聖戦に参じた鬼頭の方を侮蔑したのでございます!」

 天翁に諌められ、魁は急いで訂正した。思いもよらぬ光景に千晶は短剣を持った手を降ろす。そして天翁は『パンッ!』とひとつ拍手をして千晶を讃えた。

『まずはひとつ褒めおこう、若き開賀の当主よ。しかしどうする、お前1人で我々を止められると思うか?』

 この天翁の問に千晶が余裕の笑みを浮かべるとそこへ人影が近づき千晶と並び立った。

「遅かったな、千尋ちひろ。」

「これでも全速力で向かってきたんだがな───」

 ふと桐江の隣に紗奈がいる事に気づいた千尋は千晶に問いかける。

「なんで椎名さんが此処に?」

「俺にもわからん、しかし俺たちよりも先にイザナミとなにか話していた。危なっかしくてすぐ桐江に保護してもらったけどな。」

 そこへバイクに跨った千悟ちさとも到着し、千晶や千尋と並び立った。そして同じように紗奈がこの場にいる事に疑問を抱く。

「なぁ、なんで───」

「「わからん。」」

 問い掛けようとするも二人からほぼ同時に同じ答えが返ってきたので千悟は少し間を置いてから『なるほど。』と納得した。


「ぞろぞろと鬱陶しいことだ・・・」

 呆れたようにため息をつきながらイザナミが右手を上にかざすと空には再び魔法陣が浮かび上がり一筋の影を落とす。

「紗奈、お前の抱く希望がどれだけ脆弱で無駄なものか───教えてやろう。」

 そして影がイザナミの前に舞い降りると渦を巻き、そこから初代有間と同じ鎧を身に纏った男が現れた。

『議長、彼奴はもしや・・・』

 その姿を見た天翁は息を呑んだ、イザナミは天翁の様子を見ながら小さく声を上げて笑っている。

「よい趣向だろう?双璧の1人を呼んだとあらば、も呼ばねばな。」

 男は周りを見渡しながら状況を理解し、瞬きをひとつすると腕を組んで千尋たちを睨みつけた。男の両眼は星映ほしうつしの眼を開き、その眼差しに千尋たちは圧倒される。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)
ファンタジー
シヴァリー(Chivalry)、それは主に騎士道を指し、時に武士道としても使われる言葉である。騎士道と武士道、両者はどこか似ている。強い精神をその根底に感じる。だが、士道は魔法使いが支配する世界でも通用するのだろうか? これは魔法というものが絶対的な価値を持つ理不尽な世界で、士道を歩んだ者達の物語であり、その中でもアランという男の生き様に主眼を置いた大器晩成なる物語である。(他サイトとの重複投稿です。また、画像は全て配布サイトの規約に従って使用しています)

【完】はしたないですけど言わせてください……ざまぁみろ!

咲貴
恋愛
招かれてもいないお茶会に現れた妹。 あぁ、貴女が着ているドレスは……。

処理中です...