Starlog ー星の記憶ー

八城七夜

文字の大きさ
85 / 93

Brilliant

しおりを挟む
 光が一切届かぬ闇の中、伊邪奈美命イザナミノミコトは目覚めの時を待っていた。伊邪奈美命に憑依された若葉わかばの手によって命の危機に瀕した紗奈さなの意識は深淵へと堕ち、そこにいた伊邪奈美命と言葉を交わしたのである。

 疑念を抱きながらも『救ってやろう』というこの言葉を信じた紗奈は意識を手放し、身体───器の主導権がイザナミに握られてしまう。身体を手にしたイザナミは喜びに震えながら現世へと覚醒し、千歳ちとせと対峙した。

 身体に纏っていた黒い影は鎮まり、若葉は気を失って倒れていた。イザナミが手をかざすと身体から黒い影が溢れ出し、球状となって周囲に浮かぶ。そしてイザナミが指を鳴らすと多彩な軌道を描きながら千歳へと襲いかかった。

 そこへ煌びやかに輝く石が飛来し、イザナミが放った球状の影を弾き飛ばした。そして千晶ちあきが千歳のもとへ歩み寄る。

「千歳、お前は休んでろ・・・っていうのは無理だよな」

 変貌した紗奈を前にして千歳がじっとしていられるはずもない。そのことは千晶も理解していた。千晶は黄金の魔力を纏い、周囲には無数の宝石が浮かび上がる。両眼が金色に輝き、足元にも黄金の魔法陣が浮かび上がった。

璧立千刃へきりつせんじん───!」

 千晶の詠唱により、周囲に浮かぶ宝石は豪華な装飾が施された武器に姿を変えた。見慣れぬ光景に千歳たちはもちろんのこと、天翁てんおうの同志であるかいたちも戸惑いながら周りを見渡す。その中で天翁と伊邪奈美命だけが悠々と眺めていた。

 まだ千歳たちに正体を明かしていなかった頃、万歳ばんさいを通じて開賀ひらが家の御隠居である鐘理しょうりと交友を築いていた。鐘理は開賀家に伝わる秘術、地皇権唱ちおうごんしょうを使える傑物であった。話には聞けども実際に目にするのは初めてのことであり、その煌びやかさに天翁は息を呑んだ。

「なるほど、これは壮観なり・・・」

─────
───


 関西で活動する講談師、彼はこの日も釈台の前に座り、張り扇と拍子木で机をひとつ叩くと観客に向けて一礼をした。

「さて、本日みなさまにお話し致しますはかつてこの地を統治していた偉大なる王のお話でございます。」

 そして講談師はいつもの調子で伝話を人々に語っていく。

 ───遥か昔、我々人間の敵が頃にその王はいました。

 若くして王座に就きましたが類稀なる才覚と人徳を持ち合わせた、まさに"なるべくして王になった"と王は国民たちに慕われておりました。

 豊かで様々な品が出揃う商いが盛んであったこの国には敵国の兵士や金品目当ての盗賊、さらには人間の肉を食らう魔物や妖魔といった者たちが度々攻め入りました。

 人々の中には恐怖に怯え、商いをやめようとする者や勇敢にも戦おうとする者もいました。

 ある日、魑魅魍魎の群れが国に向かってきているという報せを聞き、人々は鎧を着て武器を持ちました。自分たちの生活を、この国を守るために勇気ある者が立ち上がったのです。

 しかしそこへ突如として王が姿を現したではありませんか。人々は戸惑いながらも跪き、お辞儀をしました。そして王は歩を進めながら民たちへこう告げます。

『鎧を脱ぎ、武器を捨て、商いを続けよ。』と───

 王はあろう事か門を抜け、国の外に出ました。目の前には魑魅魍魎の群れが国に向かって行進してくるのが見えます。王の護衛である兵士は恐怖に震えました。しかし前に立つ王は悠然と魔物の群れを見詰めながら手を前にかざします。

 すると王の身体から金色の光が溢れ出すと周りに渦を巻き、足元には黄金の文字の羅列が浮かび上がりました。そして周囲には宝石を思わせるような煌びやかな石が漂いはじめ、王が言葉を紡ぎますればその無数の宝石は剣や槍、斧といった武器に形を変えたではありませんか。唖然とする兵士をよそに、王は武器を手にすると人外の群れに向かって駆け出します。

 王は次々と魑魅魍魎どもを斬り伏せ、さらには周囲を浮かぶ無数の武器も雨のように降り注ぎます。これにはたまらず魑魅魍魎の群れは蜘蛛の子を散らすかのように逃げていきました。

 王が起こした奇跡をただ見ることしか出来なかった兵士はこう語りました。"大地が王の剣となった"と───

 国と民を脅かした魑魅魍魎を退け、帰還した王を人々は讃えます。それから民たちは王を"地神ちしん"と崇め、王の紡いだ言霊を"地神権唱ちしんごんしょう"と称してさらに讃えました。

 大地を従えしその詠唱、名を"璧立千刃"。豪華絢爛、その輝きはあらゆる宝石にも勝るものなり。

─────
───


「よもや、鐘理の他にあの言霊を唱えられる者がいようとはな・・・」

 若くして地皇権唱のひとつ、璧立千刃を唱えられる千晶の才覚に天翁が舌を巻いた。千晶は秋水しゅうすいを杖がわりにしてなんとか立ち上がった千歳に声をかける。

「千歳、椎名しいなさんを元に戻せるのはお前だけだ。俺がなんとかして隙をつくる。」

「・・・すまん、頼む。」

 千歳は呼吸を整え、体力の回復に努めながら歪な笑みを浮かべる紗奈を見詰めた。

(待っててくれ、紗奈ちゃん。すぐ迎えに行くから・・・!)
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...