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二人の関係
愛と執着
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「っ、すみません…!」
「えっ、どうしたんです?!」
吐き気を押さえるために口をふさいでとにかく進む。
人の少ないところ、光の少ないところ、音の少ないところに行きたい。
闇雲に早足に歩いているとちょうど誰もいない公園をみつけた。
そのベンチに手を掛ける。
心臓がバクバクと早鐘をうち、破裂しそうだ。
「どうしたんです?大丈夫ですか?」
栗原が背中をさする。
そのとき「先生」という声がした。
「千鶴さん…」
何故こんなところに千鶴が。
千鶴は見たこともない複雑な顔をしている。
「あなたは?」
栗原の問いに千鶴が怯んだ。口を何度も開きかけ、なにかを考えている。
千鶴は、その子は私の…
「私は…この人の知り合いです」
その言葉に、一気に私の心は冷水に漬かった気持ちになる。
冷静さを取り戻して行く。
そして、どうしようもないほど恥ずかしい気持ちになった。
「驚かしてすみません、少し具合が悪くなっただけです。飲み過ぎたかな…」
そんな言い訳をする。
情けない。
「…大丈夫ですか?家まで送ります」
千鶴が私の側まで来て腕を掴んだ。
「私に任せてください」
「…それじゃあ、よろしくお願いします。
お大事にしてくださいね」
千鶴は穏やかな声だったが、怒っているのか妙に迫力がある。
栗原もそれを察したらしく大人しく帰って行った。
公園には私と千鶴と、見知らぬ青年が残る。
…誰だあれは?
「コウキも帰って。
あとは、大丈夫だから」
千鶴の知り合いらしい。
「…じゃあ、また明日な」
背が高く、がっしりとした好青年はそう言った。
なんて身勝手で自己中心的なことだろうか、私は愚かにも嫉妬心を覚えた。
「先生」
千鶴が力強く引っ張る。
「帰りますよ」
お互い無言のまま歩いた。
家についてからも沈黙が続いたが、最初に口を開いたのは私だ。
「千鶴さん、すみません」
「…なぜ謝るのですか?」
「私は今日、彼女とデートをしていたんです」
「なぜ、謝るのですか?」
千鶴は繰り返しそう尋ねた。
「私はあなたの好意を知りながらも、踏み込むことをせずに…弄びました。
その上、他の女性と…」
「ほんとうです」
千鶴はスッと近づいて抱きついて私の胸に顔を埋めた。
「ひどいひと…」
「傷つけてごめんなさい」
私に抱き締め返す権利はない。それでも、そうせずにはいられなかった。
「先生、私…もう無理です…」
彼女は苦しそうに低い声を絞り出した。
ついにだ。
彼女を手放すときが来たのだ、と覚悟を決める。
わかっていた。自業自得だ、自分がその努力を放棄したのだから。
しかし、
「私、先生が欲しい…先生に愛されたい」
ついに愛想をつかされて、私は彼女の消し去りたい過去の一部になるのだと思っていた。
それなのに、意外な言葉が彼女の口から発せられた。
私は思わず膝を着く。
彼女の手を取り、見上げる形になった。
「なぜ…なぜ千鶴さんはそこまで私を好いてくれるのですか…?」
「それ、なんか理由が必要ですか…?」
唖然とした私の言葉に、涙目の千鶴は弱々しく笑う。
「先生のことが好きで堪らないんです。
私にだって理由はわかりません」
それはもはや執着と変わりない。
ただ、その依存とも言える形の愛は私の求めていたもので、私の心を癒し救うものだ。
私はふらりと立ち上がり、千鶴を強く抱き締める。
「好きです、千鶴さん。愛してます」
私は、彼女にはじめて本心を打ち明けた。
ずっと言わなかった。
彼女を愛することが怖かったのだ。
裏切られ、傷付きたくなかった臆病者だったのだ。それなのに私は彼女を傷付けた。最低のくずだ。
しかし彼女はそんなくずを愛してくれると言う。
それならば、私はそれに応えたい。
私は依存されなければ愛し返すことも出来ないような惨めな男だが、
それでも本当に今までずっと、千鶴を愛していたのだから。
「えっ、どうしたんです?!」
吐き気を押さえるために口をふさいでとにかく進む。
人の少ないところ、光の少ないところ、音の少ないところに行きたい。
闇雲に早足に歩いているとちょうど誰もいない公園をみつけた。
そのベンチに手を掛ける。
心臓がバクバクと早鐘をうち、破裂しそうだ。
「どうしたんです?大丈夫ですか?」
栗原が背中をさする。
そのとき「先生」という声がした。
「千鶴さん…」
何故こんなところに千鶴が。
千鶴は見たこともない複雑な顔をしている。
「あなたは?」
栗原の問いに千鶴が怯んだ。口を何度も開きかけ、なにかを考えている。
千鶴は、その子は私の…
「私は…この人の知り合いです」
その言葉に、一気に私の心は冷水に漬かった気持ちになる。
冷静さを取り戻して行く。
そして、どうしようもないほど恥ずかしい気持ちになった。
「驚かしてすみません、少し具合が悪くなっただけです。飲み過ぎたかな…」
そんな言い訳をする。
情けない。
「…大丈夫ですか?家まで送ります」
千鶴が私の側まで来て腕を掴んだ。
「私に任せてください」
「…それじゃあ、よろしくお願いします。
お大事にしてくださいね」
千鶴は穏やかな声だったが、怒っているのか妙に迫力がある。
栗原もそれを察したらしく大人しく帰って行った。
公園には私と千鶴と、見知らぬ青年が残る。
…誰だあれは?
「コウキも帰って。
あとは、大丈夫だから」
千鶴の知り合いらしい。
「…じゃあ、また明日な」
背が高く、がっしりとした好青年はそう言った。
なんて身勝手で自己中心的なことだろうか、私は愚かにも嫉妬心を覚えた。
「先生」
千鶴が力強く引っ張る。
「帰りますよ」
お互い無言のまま歩いた。
家についてからも沈黙が続いたが、最初に口を開いたのは私だ。
「千鶴さん、すみません」
「…なぜ謝るのですか?」
「私は今日、彼女とデートをしていたんです」
「なぜ、謝るのですか?」
千鶴は繰り返しそう尋ねた。
「私はあなたの好意を知りながらも、踏み込むことをせずに…弄びました。
その上、他の女性と…」
「ほんとうです」
千鶴はスッと近づいて抱きついて私の胸に顔を埋めた。
「ひどいひと…」
「傷つけてごめんなさい」
私に抱き締め返す権利はない。それでも、そうせずにはいられなかった。
「先生、私…もう無理です…」
彼女は苦しそうに低い声を絞り出した。
ついにだ。
彼女を手放すときが来たのだ、と覚悟を決める。
わかっていた。自業自得だ、自分がその努力を放棄したのだから。
しかし、
「私、先生が欲しい…先生に愛されたい」
ついに愛想をつかされて、私は彼女の消し去りたい過去の一部になるのだと思っていた。
それなのに、意外な言葉が彼女の口から発せられた。
私は思わず膝を着く。
彼女の手を取り、見上げる形になった。
「なぜ…なぜ千鶴さんはそこまで私を好いてくれるのですか…?」
「それ、なんか理由が必要ですか…?」
唖然とした私の言葉に、涙目の千鶴は弱々しく笑う。
「先生のことが好きで堪らないんです。
私にだって理由はわかりません」
それはもはや執着と変わりない。
ただ、その依存とも言える形の愛は私の求めていたもので、私の心を癒し救うものだ。
私はふらりと立ち上がり、千鶴を強く抱き締める。
「好きです、千鶴さん。愛してます」
私は、彼女にはじめて本心を打ち明けた。
ずっと言わなかった。
彼女を愛することが怖かったのだ。
裏切られ、傷付きたくなかった臆病者だったのだ。それなのに私は彼女を傷付けた。最低のくずだ。
しかし彼女はそんなくずを愛してくれると言う。
それならば、私はそれに応えたい。
私は依存されなければ愛し返すことも出来ないような惨めな男だが、
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