悪い魔法使い、その愛妻

井中かわず

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変化、恋

2

物置中をひっくり返すと、次から次へと素晴らしい美術品や工芸品が出てきた。
仕舞いこんでいるのはあまりにも勿体ない。
キルケの魔法に手伝われながらも、模様替えは中々大変な作業だった。

絨毯をひき、カーテンをかけると、部屋はグッと色鮮やかになり、明るくなった。あまりゴタゴタと豪華にしてもなんとなくヨルアの雰囲気に合わない気がするので控えめにしよう。
最後に机にクロスをかけて花瓶を置き、森で花を摘んできてそれをさした。

夕方になった頃、ガチャリと扉が開かれる。

「…!これは?!」

帰宅したヨルアが目を丸くしている。
私はと言うと時間を置いたことで、昨晩のことによる羞恥心はかなり薄まっていた。

「おかえりなさいませ。
ごめんなさい勝手に…こんなこと…」

「いや、いいんです。あなたの好きにしてもらって。ただ驚いただけですよ」

そう笑って私を抱き締めた。

「ああ、いいですね。あなたが出迎えてくれると、ここが家なんだと思える」

彼からは汗と、血と、煙の匂いがした。
一体、何処に行っていたんだろう。
キルケのさっきの「異例」と関係があるのだろうか。

「そうだ。これを…」

ヨルアはそんな風にいぶかしむ私の左手をとると、スッと薬指に指輪をはめた。金細工の綺麗な指輪だ。

「僕にもつけてください」

私に大きなサイズの指輪を手渡した。言われた通り、彼の左手の薬指にはめる。
夫婦の証だ。
彼は心底嬉しそうにしている。

少し歪みがあるのかもしれないが、ヨルアの愛は確実だ。
私は恋さえもしたことがないけれど、妻として愛し返してあげたいと思った。

指輪のはまった彼の手を自分の頬につける。
大きくてごつごつとした武骨な手だ。いくつもの魔法薬を開発し、邪悪な魔法を扱う手。

あたたかい。

そうして物思いに耽っていると、はっと我に帰った。
ヨルアの顔は真っ赤に染まり、熱っぽい息を吐いていた。慌てて手を離す。

「夕食にしましょうか!もうこんな時間ですし…キルケさんお願いしても…っ!」

そう言ってダイニングにつこうとしたところを、後ろから強く抱き締められる。
彼の手は私の頬を触り続けた。

「新婚の妻があんな可愛いことしたらこうなりますよね」

荒い呼吸が耳にかかる。お尻に腰をぐっと押し付けられた。
こんな人前で!と思いキルケに視線を送ると爽やかな笑顔で様子を見守っている。

そんな笑っていないで止めて欲しい。

「だ、だめです!」

「なぜです?」

なぜですって…

「だってこんな、キルケさんの前で…!食事もまだだし…」

「食事のあとですか…?」

甘えるような声で言う。

「食事の後、寝る前です…!」

「…わかりました。
キルケ、早く頼む」

ヨルアは名残惜しそうに首筋にキスをしてから離れて席に着いた。
ほっと胸を撫で下ろすが、まだドキドキとしていた。

それにしても、凄い性欲だ。
興味本位で呼んだ本によると男性は年齢を重ねると落ち着いてくるものらしいが…ヨルアは例外なのだろうか。

昨晩より緊張はだいぶほぐれたが、不安はつきない。

私はこんな変態を愛せるのか、
私の身体はもつのか…。

その晩のキルケの美味しい夕食を、私はなるべくゆっくり食べた。
感想 1

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