孤高のミグラトリー 〜正体不明の謎スキル《リーディング》で高レベルスキルを手に入れた狩人の少年は、意思を持つ変形武器と共に世界を巡る〜

びゃくし

文字の大きさ
72 / 177

第七十二話 噂

しおりを挟む

 神の石版に記された御使いの噂は瞬く間に王都中を駆け巡り、その噂は学園の教室でも持ちきりになっていた。

「ねえ、ねえ、クライ君聞いた? 御使い様って神様や天使様の住む天界からこの地上に降りてくるんだって!」

 マルヴィラが授業の合間の休み時間に、我慢できないといった様子で話しかけてくる。

「学園にも通ったりするようになるのかな? 王都にも降臨するみたいだし、うちのお店にも来てくれるのかなぁ?」

「お、王都だけじゃなく王国全土、帝国、教国、森林王国まで大陸の至るところに降臨するらしいよ。マ、マルヴィラさんのお家にももしかしたら来るかもしれないね」

 最近魔力を認識できるようになって上機嫌なセロが会話に参加してくる。

 セロにも《リーディング》の話をした方がいいかとも思ったけど、ケイゼ先生からは『悪戯に不安にさせても仕方ない』と口止めされていた。
 黙っていることに僅かな罪悪感がある。
 しかし、体調を尋ねても特に違和感もなく過ごしているようで、喜びに水を差すのも気が引けてしまいそのまま現状維持になってしまっている。

 きっと傍から見たら微妙な表情の俺とは対照的に、マルヴィラとセロの会話は随分と盛り上がっていた。

「御使い様ってどんな姿なのかな。天使様は純白の翼が背中から生えていて空も飛べるって聞いたことあるけど、御使い様もそうなのかなぁ?」

「う~ん、天使様と似た姿だろうけど、御使い様は天使見習いらしいし……どうだろうね」 

 教会で習う世界史には、天界から天使が降臨した記録もある。
 未曾有の大災害を防いだり、人々の願いを聞き届けたといった逸話が残っていて、その姿も記録として残されている。

(背中に翼ねぇ。そんなものが生えてたら眠るとき邪魔だと思うけど)

「石版には最初に天界から降臨する御使い様は千人程度で、段階を経て段々と地上に降りる人数を増やしていくらしいよ」

「え!? 千人!?」

「大陸各地の教会にバラけて降臨するらしいから、王国の王都にだけ集中するわけじゃないだろうけどすごい数だよね」

 天界にはそんなに天使の見習いがいるのか。

「天使に昇格するために地上で修行するそうだけど、神の石版のある教会に降臨するようだから、当日は教会に人がいっぱい集まるかもね」

「うー、私も御使い様を一目見てみたいかも。でも、そんな風に好奇心で見に行ったら御使い様に失礼かなぁ」

「まだ降臨する日まで日にちがあるから悩んじゃうよね。でも、自然と教会に人は集まっちゃうかもしれない」

(私たちも一目くらいは御使いを見に行って見るか? まあ、降臨の日に教会の中までは入れないだろうけど)

 御使い、か。
 神の石版に記された以上は地上に降臨するのは間違いないんだろうけど、果たしてどんな人たちなのだろう。
 
「それにしても、セロは随分御使いについて詳しいんだな」

 俺の素朴な質問にセロはあたふたと狼狽える。
 その表情は少しだけバツが悪そうだった。

「あ、ああ、その……じ、実をいうと、全部人からの受け売りなんだ。うちのクラスにすごく情報通の人がいるんだけど、全部彼から聞いたことなんだ」

「そうだったのか……でも情報を教えてもらえるだけでも嬉しいよ。ありがとう」

「そ、そう? お兄さんの役に立てたなら良かった……」

(セロにも独自の交友関係があるんだな。まあ、私たちが編入してくる前にも仲良くなる時間はあっただろうし、当然といえば当然か)

 気づけば教室のところどころで、生徒同士固まって御使いの噂についての話をしているようだった。
 神の石版に新たな記述が記されるなんてかなりの重大事件だから無理もない、か。

「あー、はいはい、全員静かにしろ」

 ガヤガヤと五月蝿かった教室に面倒くさそうな顔つきのレリウス先生が入ってくる。

「お前ら、御使いのことで不安だろうが来週には課外授業がある。今日はまずその話をするぞ」

「せんせー、学園では御使いにどう対応するんですか?」

 一人の男子生徒がレリウス先生に質問する。
 確かに学園の対応は気になるところだ。
 レリウス先生は渋い顔を一瞬見せるも教室全体に響くように答える。

「学園での御使いへの対応はいまは検討中だ」

 きっぱりとした返答だったが、教室内はまた話し声でザワついた。
 
「……学園には部外者は立入禁止になっている。いくら天界から降臨した御使いだろうと許可なしにはここには入れない。寮暮らしで心細い者たちもいるだろうが、学園としては毅然とした態度で御使いには接するつもりだ。わかったら先生の話をよく聞いておけ。課外授業でわからないことがあっても知らんぞ」

 今度こそ教室内が静かになった。

 どうやら御使いであっても特別扱いはしない方針のようだ。
 その話題はもう終わりだといわんばかりの態度で次の話題に移る。

「お前らの中には、すでに魔物と戦ったことがある奴もいるだろう。レベル上げのために親御さんと一緒に戦ったり、すでに冒険者として登録して魔物討伐を経験している者がいるのは把握している。ただ今回の課外授業は魔物の討伐以外にも生態調査や探索、追跡の仕方まで多岐にわたる。単純に魔物を討伐して終わりじゃないから覚悟しておけ」

 戦う方法だけでなく、他のことも実地で教えてくれるならこれほど勉強になることはないだろうな。

「例年では生徒たちの護衛と指導のために騎士団から人材を派遣してもらうことになっていた。……しかし、最近は瘴気獣の出現が増えている関係で騎士団の協力を得るのは難しくなりそうだ」

 イーリアス騎士団長もいっていたけど瘴気獣の出現はやはり増えているのか……。
 突如空中から現れたアラクネウィッチには本当に驚いた。
 ……また、あんなことはないよな。

「だが、生徒の安全のためには学園としては手を抜く訳にもいかない。冒険者ギルドと連携してCランク以上の冒険者に参加してもらえるように募集をかけているところだ。勿論審理の瞳によるカルマの判定やいままでの依頼達成の実績を確認したうえで頼むことになる」

「レリウス先生! 場所はどこで行うのでしょうか?」

 委員長であるベネテッドが手を挙げて質問する。

「王都北東の『迷わずの森』だ。王都周辺でも最も弱い魔物の集まる生息域。そこを借り受けて課外授業の場所とする。魔力濃度が薄いせいかあの森には強力な魔物は住み着いていない。そのお陰で毎年課外授業の開催場所に選ばれる訳だが……ただ授業とはいえ油断するなよ。魔物はこちらの命を奪うために文字通り命掛けで襲ってくる。気を抜いた奴から死ぬことになる。肝に命じておけ」

 レリウス先生の脅し文句と言うべき言葉に騒がしかった教室中がしんと静まり返る。
 そこを見計らったのかレリウス先生が悪戯っ子のようにニヤリと笑うと、もの凄い情報を知らせてきた。

「あ、そうそう課外授業は一週間の泊まり込みだ。現地でテントを張って魔物の蔓延る森で野営することになる。学園でも野営道具は用意してあるが、自分たちで準備するのも授業の内だ。今の内から考えておくように」

「「えぇ~~~!!」」

「な、なんですってぇ!? ワタクシ、そんな訳のわからないところで野営なんて嫌ですわぁ~~!!」

 クラスメイトたちと特にプリエルザの絶叫を聞きながら思う。
 課外授業までにやるべきことは多いな。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

盾の間違った使い方

KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。 まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。 マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。 しかし、当たった次の瞬間。 気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。 周囲は白骨死体だらけ。 慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。 仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。 ここは―― 多分、ボス部屋。 しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。 与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる 【異世界ショッピング】。 一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。 魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、 水一滴すら買えない。 ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。 そんな中、盾だけが違った。 傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。 両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。 盾で殴り 盾で守り 腹が減れば・・・盾で焼く。 フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。 ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。 ――そんなある日。 聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。 盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。 ​【AIの使用について】 本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。 主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。 ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

処理中です...