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第七十五話 洞窟の魔物
しおりを挟む「マーダーモア?」
「ああ、一言で言えばデカくて飛べない鳥だ。討伐難度はD。翼に近しいものはあるが羽ばたき空を飛ぶことは出来ない。二足歩行の走力に優れた魔物だ」
「おおきいってどれくらいですか?」
「全高三~四mだな」
「え~、おっきい鳥さんですね」
「オスよりメスの方が大きい傾向にあるな。マーダーモアは獰猛だ。人以外にも動くものには積極的に襲いかかる習性がある」
イザベラさんはマーダーモアはこの迷わずの森でも強い部類の魔物だという。
スパイクのように棘の生えた足の蹴撃は強力無比で、先端が下向きに尖った嘴はついばまれれば肉をも抉る。
群れこそ作らないが、巨体に見合わないスピードに翻弄され苦戦する冒険者は多いらしい。
「グェェッ!!」
「アグラット!」
マーダーモアの前蹴りをセロの構えた騎士盾が防ぐ。
「ぐぅ……あっ!」
しかし、衝撃に堪えきれず吹き飛される。
「グゥェッ! グゥェ!!」
膝をついたセロ目掛けて伸ばした嘴の先端を、修理したばかりのミスリルの盾で弾く。
防がれたことによほどご立腹だったのかその場で地団駄を踏むと、その棘付きの足で連続して蹴りかかってくる。
「……【ブルームアロー3】」
エクレアの的確な援護に攻撃に夢中だったマーダーモアが離れる。
「止まって! 【フリージングボール2】!」
森の木々すら凍りつかせるマルヴィラの冷魔法。
「ごめん! 避けられたっ!」
「身体強化、僕があいつを抑える!」
(セロにしては大胆な行動だ。イザベラに発破をかけられたのが効いているな)
セロが囮として前衛にでてくれたお陰で後衛の俺とマルヴィラには余裕ができた。
「今度こそ! 当たって! 【ヒートバレット3】」
「……ふっ」
赤いモヤの弾丸と闘気強化された錬成矢。
「グエェェェ!?」
巨体を熱を帯びた弾丸と矢に貫かれ、一際大きな鳴き声をあげマーダーモアは息絶えた。
「マーダーモアをお前たちに倒してもらったのには理由がある」
多少苦戦はしたものの四人での連携もなれてきた俺たちは、イザベラさんの案内で迷わずの森のある地点へと向かっていた。
案内された場所には、そのほとんどが平地であまり起伏のない迷わずの森には珍しく巨岩や岩石がゴロゴロと転がっている。
小山のように盛り上がったその場所には覗けば暗闇の広がる巨大な穴が開いていた。
「ここは迷わずの森でも難敵の住む地下への洞窟ッス。ここはある系統の魔物が嫌ってほどいるんスけど……冒険者として活動するなら避けては通れないッスね。勿論、騎士や宮廷魔法士でも戦うことにはなるッスけど」
「ある系統……ですか?」
「駄目な奴はとことん駄目だな。見るだけで嫌悪感を抱く奴がいるくらいだ。私は別になんとも思わないんだけどな」
「カルラ……それは貴方が大雑把だからです。……私は慣れるまでかなり時間が掛かりましたよ。……いまでも見るだけで少し不快感に襲われることがあります」
「サラウは商会のお嬢様だったッスからね。慣れるまで大変だったッスよ。魔法で遠距離から攻撃できるんだからそんなに気にならないと思うんスけどね。そんなこといったら間近で切り結んでるワタシたちはどうなんだって話ッスよ」
苦い表情のサラウさんのことをなぜなのかわからないといった表情で眺めるカルラさんとララットさん。
その様子に溜め息を吐きながらイザベラさんが洞窟と今後のことについて説明してくれる。
「今日はもうそろそろ拠点に帰る時間になる。そのため洞窟の入口付近で何体かの魔物と戦ってみることとする。この系統の魔物は慣れないとこの先キツイぞ」
「……その、そんなに恐ろしい魔物なんですか?」
「恐ろしいとは違うな……人によっては気持ち悪いと思うかもしれない。……見ればわかる」
イザベラさんの指示の元、渡されたランタンを用意する。
洞窟内は光も差さない漆黒の空間が広がっている。
この先に進むには光源が必要不可欠だ。
「光源になるものには松明や光を発する専用の魔導具も存在するが、今回は腰につけるこのランタンを使用する。これなら暗闇からの魔物の奇襲にも対応しやすく、咄嗟の危機回避にも邪魔にならない」
光は少し弱いけど、両手を使えるのは便利だ。
透明なガラスで包まれたランタンは空気穴が身体に密着していないので燃え移る心配もない。
「この腰ベルトに装着できるランタンはバオニスト商会で購入できます。光を発する魔導具も扱っているのでぜひ一度お越し下さい。皆さんなら特別にお安くお譲りしますよ」
(サラウの奴、ちゃっかり店の宣伝までしているな)
「サラウ、何を選ぶかはコイツら次第だ。選択肢を狭めてやるな」
「あっ……そうですね。つい」
イザベラさんの指摘にサラウさんが申し訳なさそうに謝る。
「学園からの依頼の最中にお店の宣伝は少しマズかったッスね。ただ冒険者だけじゃなく他に戦闘を生業にするつもりなら、道具は使い易く良いものを揃えた方が無難ッス。道具の良し悪しで時間の節約になったり、危険を減らしたりもできるッスから、色んな便利な道具が世の中にはあるってことだけ覚えて欲しいッス」
「さて、気を取り直して洞窟に入るとする。先頭は……そうだな。クライ、本来は後衛だが、お前は盾がある。パーティーの先頭を頼めるか?」
「はい」
「十分警戒しろ。夜の闇と洞窟の闇は違う」
腰ベルトのランタンの光を頼りに、右手にミスリルの盾を携え進む。
(音が随分反響するな。閉鎖された空間だからか?)
瓦礫のような岩の入り混じった不安定な足場を踏み、下へ下へと下る。
足音が洞窟の壁に反響し、ガサガサとした音が耳に入る。
「暗いね。なんだか飲み込まれそう」
「……こ、この先に魔物なんているのかな」
「……」
マルヴィラもセロも不安がちに歩みを進めている。
しばらく歩き続け、斜めに下っていたのがだんだんと平坦な道に変わっていく。
土中に大きな空間が広がっているようだ。
ランタンの光に照らされていた洞窟の岩肌が見えなくなってくる。
(クライ、生命反応がある! 近づいてくるぞ!)
「魔物がくる! 皆警戒してくれ!!」
光の届かない先でカサカサと蠢く音が近づいてくる。
地面を擦るような、ジャリジャリとした耳障りな音。
「キシィーーー!!」
「うわあぁっ!?」
「……」
その細長い姿を見た途端セロが驚いた声をあげた。
「キシァッ! キシァッ!」
光を嫌がったのか、目の前でその無数に不規則に蠢く身体中に生えた足を動かし、威嚇する。
体長はニm前後のムカデの魔物。
こちらを警戒しながらも牙の生えた口元を何度も動かし、黄色い液体を飛び散らせる。
ここは迷わずの森の洞窟内部。
一部の人からは蛇蝎の如く嫌われる魔物の支配する場所。
数多の虫の魔物たちの巣窟が俺たちを歓迎していた。
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