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第百三十七話 人工の秘薬
しおりを挟む「バカ、な」
台座の上に鎮座しているのは小瓶に詰まった銀に光を反射する青い薬品。
回復のポーションの黄色がかった緑でも、魔力回復のポーションの澄んだ青でもない。
それこそ人工の輝きを纏った銀青色。
「本物なの、か……森林王国で製造されてるってのは知ってたけど、国家間ならともかく一商会に流出したなんて話、聞いたこともないぞ。しかもオークションにかけるなんてあり得ない」
力が抜けたようにドスンと席に座り直すニール。
会場である円形闘技場を包んでいた活気は鳴りを潜め、ざわざわと騒ぎだす観客たち。
彼らもまたニールと同じように目の前の光景に信じられない思いでいるようだった。
「あれ~、もっと皆さん喜んで貰えると思ったのにな~。ちょっとインパクトが強すぎでしたか?」
アハハと笑いながらも予想外の反応に焦りの色の見えるメイメイさん。
彼女は台座に置かれたエリクシルの小瓶を指差すと観客にその凄さを伝えるべく声を一層張りあげる。
「ではご説明しましょう! こちらにご用意しました人工の秘薬エリクシル! エリクサーが身体の欠損からあらゆる病まで癒やすとされる万能の秘薬なのは有名ですね。このエリクシルはリィーンガード森林王国の技術の粋を集めてエリクサーを再現したといわれる世紀の大発明。もっとも冒険譚でも有名なエリクサーと同等の効果とはいきませんが……エリクシルには使用者の魔力を上限まで回復する効果があります」
「上限?」
メイメイさんの発言を補足するようにニールの天成器べイオンが話を引き継いで説明してくれる。
「体力、魔力を回復する各種ポーションがあるだろう? それぞれ回復量は中級から上級まで様々な訳だが、エリクシルはその内の魔力を大幅に回復する効果がある。それも使用したものの魔力を最大値まで。要はステータスのEPの値を最大まで回復するんだ」
「それは……」
魔力回復のポーションですらそれなりに希少なものだ。
国家から認定を受けた腕の確かな薬師でないと製作できないといわれる品物。
最大までって人によってはかなりの回復量じゃないのか。
「魔力回復のポーションは高い割には元々回復量がそれほどない。一本で大体初級魔法十発程度か? 量さえあれば中々に回復できるが肝心のその量が確保できない。中級、上級の魔力回復ポーションも同じだ。上級になるにつれ希少さが加速度的に増すくせに回復量はそれほど劇的には増えない」
「だが、そんな回復量の少ない魔力回復ポーションとは別格の回復量を誇るもの……それがエリクシルだ。魔法を扱う者、また魔力を戦闘に用いる者にとっては最大まで回復するというのは貴重かつ生命線を分けるものでもある」
矢継早にエリクシルについて語るニールとべイオン。
彼らの視線と注目は舞台上の一点に集約していた。
「エリクシルの効果はそれだけに留まりませーん! 流石にあらゆる病とはいきませんが解毒の作用もあり、心身を整える効果なんかもあったりしまーす!」
跳ね回りながら観客に向けてアピールするメイメイさん。
ニールが深く考え込みながら呟く。
「エリクシルの解毒の効果は有名だ。毒回復のポーションというのもあるんだが、エリクシルはそれより広範囲でさらに多種類の毒だろうと回復できるらしい」
「毒は忌み嫌われるもので使用されることこそないが、それを恐れる心はある。誰だろうと平等に死へ向かわせるものだからな。それもあってエリクシルを入手しようとする者は後を立たなかった訳だが……森林王国とは半ば国交が途絶えているため情報しか入ってこなかった。……それがいま現物が目の前にあるのだから信じられないことも起こるものだな」
「心身を整えるっていうのはもしかして……」
ニールのお母さんにももしかしたら有効じゃないのか。
俺の質問を最後までいい終える前にニールは怪訝な顔で返す。
「心身を整える……は眉唾だな」
「実際の効果はわからないが、恐らくは魔力が回復したことによる心身の高揚をさしているのだろう」
べイオンは魔力が回復すると少なからず心身がリフレッシュするような感覚を覚えるからではないかと私見を述べる。
「では金貨三千枚からスタートで~す! お買い得ですよ~~!!」
(簡単にエグいことをいいだすなあの女。一つのポーションに金貨三千枚だと!?)
回復のポーションですら金貨一枚ほどなのに、到底考えられない値段だ。
……しかし、森林王国が他国との交流を行っていないことを考慮すると当然なのか。
だが、それは甘い考えだった。
ニールは吐き捨てるようにいう。
「ハッ、喰えない女だ。金貨三千枚? 軽く見積もってもその十倍は価値があるものだろう。いや、確実にもっと高い」
金貨三万枚!?
「……桁が違うな」
「ああ、一商会が手に入れられるものでもないし、こんな小規模なオークションで出す品でもない。本来は万が一の時のために国が所有しておくべきものだ。……確かにこんな機会は訪れない。出来ればオレも競り落としたいが……クソッ、この競りは荒れるぞ」
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