孤高のミグラトリー 〜正体不明の謎スキル《リーディング》で高レベルスキルを手に入れた狩人の少年は、意思を持つ変形武器と共に世界を巡る〜

びゃくし

文字の大きさ
141 / 177

第百四十一話 一蹴するお嬢様

しおりを挟む

「プリエルザ・ヴィンヤード。両親から溺愛され育ったヴィンヤード家の一人娘。学園入学前からその才能を遺憾なく発揮し、光と闇の二属性の魔法に上位魔法因子を操る。ヴィンヤード家が古くからある由緒正しい貴族の家系だとは知っている。しかし、君は公爵家の血筋と声高にいうがそれは血統だけのこと。――――ヴィンヤード家自体は侯爵家に過ぎない」

 ハルレシオさんの指摘は正しい。
 常日頃から貴族の矜持を語るプリエルザはその実、伯爵家の令嬢だった。

 貴族の爵位は男爵、子爵、伯爵、侯爵、公爵の順に高くなっていく。
 その点でいえばヴィンヤード家は公爵に次ぐ二番目。

 彼女本人やセロの口から度々聞いた公爵家の血筋という言葉。
 そう、血筋なだけだ。

 俺もいままで彼女の実家の爵位を疑問に思うことはなかった。
 しかし、今回連絡を取ろうとしたときに初めてヴィンヤード家が伯爵家だと知った。

 だが、それでプリエルザへの印象や対応が変わることはない。
 彼女は共に迷わずの森で戦った仲間であり、学園で互いに助け合うクラスメイト。

 しかし、彼女本人が爵位についてどう思っているのかまでは把握できていなかった。

(プリエルザは貴族であることと公爵家の血筋であることを誇りに思っているようだからな……取り乱さなければいいんだが)

 ミストレアの心配をよそにプリエルザが口を開く。

 彼女はハルレシオさんの質問に首をかしげながらも至極平静に答える。

「えっと……それが何なんですの?」

「う、ん?」

 まったくもって質問の意図がわからない。
 彼女の横顔に浮かぶ疑問符。

 ハルレシオさんを見詰め返す真紅の瞳は純粋に透き通っていた。

「確かにヴィンヤード家は侯爵の位を国王様より賜っていますわ。地位でいえば公爵と侯爵は明確に違います。ですが、そんなことは些細なこと。ワタクシの心に定めた矜持は揺るぎませんことよ」

 ハルレシオさんの問いを堂々と一蹴するプリエルザ。
 
 自らへの自信が彼女をそうさせるのか、動揺など一切感じさせない。

「ワタクシのいう公爵家の血筋とは王家に認められた貴族として国民に、国家に恥じない行動を取ることを表していますの。爵位とは王国への近さの証明。貴族とは国民の盾となることを誓った存在。公爵家の血筋であるからにはそれを真っ先に体現すべき者でなくてはならない。ワタクシは両親からずっとそう教わってきましたわ。そして、それはワタクシの誇りでもある」

 怯まない。

 真意を問うたハルレシオさんを威圧すらするプリエルザの気迫。

「爵位が何なんですの? ワタクシにとって重要なのは過去、最も王家と国民から信頼されたであろう公爵家と同じ血をもって貴族の誇りを失わず生き抜くこと。侯爵だろうと伯爵だろうと、男爵だろうとそれは変わりませんことよ! 爵位など関係ありませんわ! ワタクシはワタクシの想いを胸に抱えて進むのみ!! 前・進あるのみですわっ!!」

 ……俺もプリエルザの貴族としての矜持を甘く見ていたのかもしれない。
 彼女はミストレアや俺の心配など必要なかった。

 自らの意思で、確固たる信念でそこに立っていた。

「そう、か……」

 漏れでるハルレシオさんの言葉は彼のどんな心情を表しているのか。

 そんな彼を見ながらニールが笑いかける。

「ハッ、プリエルザは筋金入りだぜ。それこそ一筋縄じゃいかない」

「……そのようだね。侮ったつもりはなかったんだが、彼女は私の予想以上に……貴族として在ろうと誓っていた。自らの心に」

「プリエルザは言動から行動まで変な奴だが、心に決めたことには真っ直ぐだ。俺も出会ってから間もないからさっきの見事な演説には少し驚いたけどな」

「へ、変な奴ですってぇ!? ニールさん! ワタクシをなんだと思っているのですか!」

「ハハ、悪い悪い」

 『もう知りませんわ!』とそっぽを向くプリエルザにニールが平謝りしている。

 ……でも、口調とは裏腹にニールはプリエルザの爵位など関係ないとの言葉に心打たれていたと思う。
 誤魔化すために変な奴なんて悪態をついていたけど……そんな気がする。

「で? どうなんだ? エリクシルを譲ってもいい条件はあるか?」

 ニールの改めての問い。

 ハルレシオさんの視線が泳ぐ。
 いましかないと思った。
 願いを伝えるにはいましかない。

「お願いします。エリクシルを譲っていただけませんか? 俺もニールに協力します。できるだけ貴方の要望に答える。……ニールの家族を俺も救いたい。力になりたいんです」

 想いを瞳に乗せる。

 ただひたすらにこの想いが届けと。

「クライ君……学園でも話題の“孤高の英雄”。学園の一年生を救った、いや王国を救ったと言っても過言ではない現代の英雄。他ならぬ君の頼みだ。ニール君の望み、叶えてあげたいのは私も同じだが……しかし……」

「ハル、お前の負けだ。諦めろ」

 横合いから飛んできたのは冒険者のような風貌のヴィクターさんの声。
 変わらず押し殺したような低い声は短いながらも端的にハルレシオさんを諭す。
 ハルレシオさんとヴィクターさんの間の絆を垣間見た気がした。

「ヴィクター……」

「お前……おっとこれ以上は俺は喋らない方がいいな」

 しかし、彼はすぐ続く言葉を止めてしまう。
 まるでこの先はいわなくてもわかっているだろうと表すように。

「? なんだかわからないけど、条件があるなら言ってくれ」

「ハルレシオさん、お願いします」

「ワタクシからもお願いしますわ! エリクシルをどうかお二人に譲っていただきたいですわ!!」

 果たして俺たち三人の懇願はハルレシオさんの心を動かせたのか。
 一拍、二拍とときが過ぎても返ってこない答え。

 精一杯の思いは伝えた。

 願う。

 ひたすらに。

「……君たちの力を見せてくれないか?」

 三者の願いが通じたのかはわからない。

 ただ、ハルレシオさんが絞りだした答えは望みへ繋がる光を湛えていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...