孤高のミグラトリー 〜正体不明の謎スキル《リーディング》で高レベルスキルを手に入れた狩人の少年は、意思を持つ変形武器と共に世界を巡る〜

びゃくし

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第百四十三話 焼き焦がす紅蓮の騎士

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「火属性派生、灼熱魔法。高火力、高熱を宿した火を作り出す魔法。瞬間的に高熱に達する火は身体に触れることで火傷を負わせ行動不能にする。チェルシーの得意な魔法だ」

 白銀の大棍棒に纏い燃え盛る灼熱の火。
 チェルシーさんの一振りで風を切ると同時に炎の帯が空中に軌跡を描く。

「ワタクシの魔法を事も無げに破壊するとは中々やりますわね」

 闇の円柱をただの一撃で粉砕したチェルシーさんを警戒するプリエルザ。
 あの一撃で彼女の実力の高さを痛感しているようだった。

「これならどうですっ! 【ライトボール3】、【ダークボール3】」

 遠慮はいらないと悟ったのか、連続して放つ光と闇の魔法。

「【バーニングボール3】」

 しかし、いとも簡単に相殺される。

 数では劣っているのに身体に当たる最低限の魔法だけを灼熱球体で撃ち落とす。

 空中でぶつかりあい破裂する互いの魔法。

「っ、【ダークバレット3】!」

「フンッ!」

 振りが早い。

 互いの魔法の接触直後に不意を打ったつもりの闇の弾丸は、棍棒の巨大さを感じさせない振りの早さで一蹴される。
 ……中級射撃魔法、《バレット》の速度に問題なくついていけるのか。

「ハル坊ちゃまへの数々の非礼。先程は話し合いの場ゆえ見逃しましたが――――」

 ハル……坊ちゃま?

(ははっ、ここにも坊ちゃまがいるぞ! これは本格的に坊ちゃま呼びが流行っているとみて間違いないな)

(ミストレア……不吉なことをいうのはやめてくれ。見ろ。ハルレシオさんですら虚無の表情になってるぞ)

「クク、ハハッ、ハル坊ちゃまだってよ! お前、そんな風に呼ばれてるのかよ!」

 一秒も我慢できないといった様子で観客席で笑い転げるニール。
 ……そんなに笑わなくても。
 ニールだって帝国に帰ったらニール王子なんて呼ばれてるはずなのになんであんなに笑えるんだ……。

「……チェルシーは私の子供時代からの護衛役だからね。時々私のことをそう呼ぶんだ。……何度言っても直してくれない」

「くっくっく」

 俺たちとは少し離れた位置で一人戦いを観察していたヴィクターさんも笑い声を隠しきれていない。

 それにしても、この人はハルレシオさんとはどんな関係なんだ?
 護衛役にしてはハルレシオさんを特別守っているようにも見えないし、外部の人間である俺たちの前でも自らの主に気安い態度をとる。
 しかもチェルシーさんはそれを特に咎めたりはしていなかった。
 寧ろ多少呆れた雰囲気は醸しだしていたけどいつも通りといった様子だった。
 ……本当に何者なんだこの人は?

 ヴィクターさんへの疑問は晴れないまま、訓練場の中心で二人は会話を続ける。

「準備に忙しい主様のご予定を急に乱すかと思えば、唐突にエリクシルを譲って欲しいなどと不躾な願いを伝えてくるとは……
それも自分たちに都合の良いように要求してくる。……無礼極まりない」

(鎧女護衛、中々辛辣だな)

(俺たちはかなり滅茶苦茶なことをいってるからな。短期間で金貨二十五万枚分、下手すればそれ以上の価値のものに見合う条件を譲ってくれる相手に探させてる。……普通ならすぐさま追いだされてもおかしくなかったはず)

「ですがセリノヴァールさんには特に咎められておりませんけど……。こうしてご要望通り模擬戦も行っていますし」

(おいおい、プリエルザの奴、また相手を刺激するようなことを……)

 首を傾げ困った様子のプリエルザの一言に一瞬ムッとした表情を見せるチェルシーさん。
 ……アレって怒ってるよな。

 ふぅ、と内にある怒りを息と共に吐きだす。

「……控室では打倒ハルレシオ・セリノヴァールと人目も憚らず叫んでいたそうですね」

 ああ、しっかり報告されてるぅ。

(そりゃあ報告するだろう。あれはかなりの奇行だったぞ。部屋にいた使用人は全員目が点になってたからな)

 ミストレアと二人ハラハラしながら成り行きを見守っているとプリエルザがなんでもないような口調で答える。
 それどころか質問の意図がわからない、彼女の顔にはそう書いてあった。

「? 何かおかしかったでしょうか? この交渉の要はセリノヴァールさんですもの。強大な敵を打ち倒すつもりで挑まないと逆に失礼ですわよね」

「むぅ……確かに主様は他人には理解されにくいですが優秀な方です。……そうですか、それが理解できているならいいのです」

 チェルシーさんの強張った態度がみるみるうちに軟化していく。
 ……恐ろしいなプリエルザの話術は。

(あれで誤魔化せるものなのか? あの女チョロすぎだろ)

「ふぅ……では仕切り直しですね。今度はこちらから参ります」

 先程より幾分か落ち着いたチェルシーさんが放つのは火属性魔法の初級武器魔法。

「上手く避けないと内側から焼かれることになりますよ。【バーニングスピア】」

「ッ!?」

 それは灼熱の槍。

 魔力によって作りだされた全長一・五mはある鋭い先端を携えた紅蓮の魔法。

 プリエルザは寸でのところで半月刃の天成器ディアーナによって軌道をずらす。

「【バーニングスピア3】」

「っう、熱っついですわね!!」

 飛来する槍を辛うじて捌き、熱さに顔をしかめるプリエルザ。

「このっ、いい加減にして下さいまし! 【ダークウォール】!」

 射線と視線を遮る闇の壁。
 
 だが、チェルシーさんは即座に対応する。
 片手で大棍棒を支え、掲げる左手。
 空中に展開される三本の灼熱の槍。

「【バーニングスピア・ディレイ3】」

 魔法因子は《ディレイ》。
 魔法をその場に待機させ、設定したタイミングで射出する。

 展開の終えたチェルシーさんは大棍棒を両手で握り直すと疾走する。

「だあああ、りやぁっ!!」

 砕け散る闇の壁。

 次いで待機していた灼熱の槍が遮るもののなくなったプリエルザ目掛けて殺到する。
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