孤高のミグラトリー 〜正体不明の謎スキル《リーディング》で高レベルスキルを手に入れた狩人の少年は、意思を持つ変形武器と共に世界を巡る〜

びゃくし

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第百四十八話 本当のお前

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 審理の神への宣誓を済ませ、イクスムさんの合図ではじまりを告げた模擬戦。

 しかし……ヴィクターさんも俺の噂を知っていたとは。
 それでいて戦いたいとハルレシオさんに願いでていたなんて予想もしていなかった。

 彼の話ではこの模擬戦もハルレシオさんの予定していた通りなんてこともいっていたし、果たしてどこまで思惑通りに進んでいるんだ。

 なによりヴィクターさんはハルレシオさんの事情をかなりバラしてるように見えるけど苦笑されるだけで済んでいる。
 さも当然というか仕方ないなという態度だし、そこに怒りの感情は覗えない。
 ……関係性がいまいちわからないんだよな。

「クライ様ぁ~~~~! ワタクシ、ここで、しっかりと見守っていますわ~~! 頑張って下さいまし~~~~!!」

 おっと、余計なことを考えてる暇はなかったな。
 隣のニールが苦笑いするほどのプリエルザの声援を聞いて、大身槍の天成器を携え接近してくるヴィクターさんに意識を集中する。
 
 まずは相手の実力を把握するべきか。 
 手始めに牽制の矢で足元を狙う。
 しかし、寸でのところで避けられた。

 なんだ……矢の一本に随分と驚いていて表情にも余裕がない。

 さらに致命傷にはなりにくい場所、腕や足を狙うがこれまたギリギリで回避される。
 だが、あまりにもなんというか……。

(アイツ……もしかして弱くないか?)

 念話で疑問を呈すミストレア。
 そう、なのか?
 確かに地面に突き刺さった矢や身体を掠めていった矢にも大袈裟に驚いて後退っているけど……まさか、な。

「あ、危ねぇな。身体強化!」

 どうやら言葉にだしての身体強化はできるようだ。
 格段に早くなった移動速度。
 先程より幾分か素早く大身槍を回転させ迫ってくる。

 改めて見ると穂先は長く切断に適しているように見える。
 当然ながらリーチも長いし、あれで薙ぎ払われればかなりの怪我を負うことになるだろう。

「……ふっ」

 牽制にさらに矢を射る。
 しかし、怪我前提の模擬戦とはいえ流石に胴体目掛けて矢を射るのは気が引ける。

 その躊躇がいけなかったのだろう。
 勢いを増し一気に近づいてくるヴィクターさん。

 なら……矢よりも威力の低い攻撃をすべきか。

「【マナアロー3】」

「っと!」

 横方向に前転して回避するヴィクターさん。
 やはり矢を射る動作の必要のない純魔魔法は威力が低いことを考慮しても牽制や咄嗟の攻撃には有効だな。

「【マナアロー5】、【マナアロー5】」

「ちょ、ちょっと待てって、このっ!」

(重量級の天成器の割に意外にも器用に躱すじゃないか)

「【マナアロー5】」

 続けて放った月白の矢を必死の形相で躱すヴィクターさん。
 ときに大身槍を盾に防ぐが元々防ぐような構造の武器でもないし、魔法の矢は数だけは多い。
 何発かは鱗鎧を掠めた。

「痛っ、おいおい何発撃つんだよ! そんなのチートだろぉが!」

「チート?」

「反則級ってことだよっ!」

 聞き慣れない言葉だったけどそんな意味なのか。

「【マナアロー5】」

「とっ――――、おい! いまのは一旦攻撃を中止するところだろうが!」

「そうですか?」

 魔法が有効そうだったから連打しただけなんだけど。

(容赦する必要はないだろ。純魔魔法は威力は高くない。何発か当たっても軽く殴られたくらいの衝撃しかない。現にアイツピンピンしてるからな)

「たく……弓以外にも魔法を使ってたってのは天界でも噂されてたけど、こんなに放てるもんなのかよ。聞いてないぜ」

「天界って……それは」

「ん? 言ってなかったか。オレは御使いなんだよ。でもってお前の噂は御使い同士の情報網から知ったんだ」

 御使い!?
 謎の多い人だと思ったけどアイカと同じ御使いだったのか。

「この間のスライム収穫祭で魔法を使ったって噂はそれなりに有名だぜ。ただでさえ有名な迷わずの森での活躍に加えて、なんか突然現れた変なフードを被ったヤツ相手に魔法を使ったんだろ?」

「……そこまで知ってるんですか?」

「俺は面倒だったから行かなかったがレベル上げと素材集め目的で結構な数の御使いは参加したらしいからな。どっからか覗き見たんだろ。もっともフード野郎の正体までは書かれてなかったから知らねぇけどな」

 あのときは“氷血塊”の魔法を防ぐのに夢中でそこまで注意がいっていなかったけど、エクレアが襲撃された場面をどこからか目撃されていたのか。
 
「“孤高の英雄”が襲撃してきたフード野郎を追いかけて森に入っていったってところまでしか俺は知らねぇ。故意か、偶然かはわからねぇがカルマの上昇を無視して魔法をぶっ放してくるような相手だ。地上の連中はカルマの上昇には敏感だし、初めて知った時はもしかしたら御使いの一人かもしれねぇとは思ったがな」

 『災難だったな』と労ってくれるヴィクターさん。

 それにしてもあの襲撃者が御使いか。
 そこまでは考えていなかったな。

 でもあの狂気にも似た感情の発露はどうにも御使いの人たちとは結びつかない。
 アイツは明らかに俺に敵意をもっていた。
 俺を害することに戸惑いはなかった。
 御使いについてはそれほど詳しい訳ではないけど、アイカのように地上を楽しんでいる様子は欠片も見受けられなかった。

 そういえばヴィクターさんが御使いなら尚更疑問がある。

「その……一つ疑問があるんですけど。ハルレシオさんとはどこで知り合ったんですか? 確か学園の生徒には無用な接触はできないはずじゃあ」

 以前レリウス先生は御使いが降臨したとしても学園内には許可なしには立ち入れないと宣言していた。
 勿論学園外で接触することは可能だろうけど、ハルレシオさんにはチェルシーさんという護衛がついているはず。
 学園への移動も馬車だろうし知り合う機会は少そうだけど……。

「知り合うっていうかアイツからこっちに出向いてきたんだよ。まだ御使いたちが降臨して間もない頃だったし、接触して少しでも情報を得ようと思ったんだろ。実際『利用するから利用しろ』みたいなことも言われたしな」

 それは……随分直球だな。

「そもそもアイツお前らに対応したような気安い態度は普段取らないからな。もっと冷酷な感じなんだぜ。厭味ったらしいし。この間もなんか商人のおっさんが面会にきたけど、散々粗を指摘されてしょぼくれて帰っていったからな。そんなんだから友達の一人もいないんだろうが」

(コイツ、滅茶苦茶辛辣にいうな)

「ヴィクター」

「悪い悪い。また余計なことを言っちまったな。という訳でハルから提案されて俺はここで世話になってる訳だ。お陰でレベル上げも割と順調だしいち早く第二階梯まで到達できた。チェルシーが闘気の扱いも教えてくれるしな。居心地は悪くない」

 『チェルシーは嫌嫌だけど』と豪快に笑いながら付け足すヴィクターさん。

 ハルレシオさんとはお互い利用し合う関係だったようだけどいまは違うようだ。
 二人の間に漂う空気感はお互いを信頼しあっているように感じる。

 話は終わりとばかりに再び天成器を構えるヴィクターさん。

「さあて、そろそろ再開するか! まだ、俺は負けてないぜ。さあ、かかってこい!」

 彼の気合のほどが伝わってくる。
 それに答えるべく俺もミストレアに矢を番え狙いを定めた。

 ……手加減するなんて考えは失礼だったな。
 俺も全力で答えないと。

 



「あ~あ、俺の負けだ。やっぱ噂になる通り強えな」

 体力が尽きたのか訓練場に大の字になって寝そべるヴィクターさん。
 額には汗が大量に滲み、息は乱れたまま、身体には無数の矢傷がある。

 あのあと身体強化をかけ直したヴィクターさんは矢と魔法をギリギリで躱し何度か肉薄してきた。
 上手く盾でいなせたから良かったものの、大身槍の重量を活かした切断力は高く、地面には一直線の切り裂かれた跡が何箇所も刻まれている。

「でも楽しかったな。久々に全力を出し切った気がするぜ。ていうかお前引き出しが多過ぎだろ。なんだよ弓に盾に魔法ってどんな組み合わせだ? 躱すのが精一杯だっての」

「ヴィクターさんも身体強化が様になってましたよ。何度かヒヤリとする場面がありました」

「お世辞はよせよ。俺は翻弄されただけだ。怪我を負ってるのも俺だけだしな」

 それでも同じ御使いのアイカより先に進んでいるんだろう。
 ヴィクターさんは闘気の扱いに慣れつつあるように見えた。
 なにより純魔魔法の矢も途中からは速度に慣れたのか大半を槍で防いでいて戦いの中で急速に成長しているのを目の当たりにしていた。

「その……どうして俺と戦いたかったんですか?」

 思わずついてでた質問。
 ヴィクターさんは息を切らせたまま真剣な表情で答えてくれる。

「他のヤツは知らねぇが俺は自分の目でお前を確かめたかっただけだ。……迷わずの森のことも御使いの降臨前だろ? 噂だけが肥大化してて本当のお前ってヤツが見えてこなかった。難しいことじゃねぇ。俺は“孤高の英雄”の正体ってヤツが見たかっただけだよ」

 彼には見えたのだろうか。
 噂の英雄でなく俺自身が。

「後の決着は大将に任せるとするか。ハルは強いぜ。あのプリエルザとかいう縦ロールのお嬢様と似たような魔法を使うしな」

 観客席に座るハルレシオさんをなにかを託すように眺めるヴィクターさん。
 不意に移る視線。
 彼はニヤリと笑うと一つの提案をする。

「そうだ。クライ、また戦おうぜ。今度はもっと強くなってから再戦だ。次は必ず俺が勝つ。……待ってろよ」

 少なくともヴィクターさんは俺の強さを認めてくれていた。

 噂の中の英雄の強さではなく俺自身の強さを。
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