孤高のミグラトリー 〜正体不明の謎スキル《リーディング》で高レベルスキルを手に入れた狩人の少年は、意思を持つ変形武器と共に世界を巡る〜

びゃくし

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第百五十四話 水蛇の辿る結末

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 戦いは佳境を向かえていた。

 《フォトンスフィア》の屈折力場の影響下で光子魔法と水蛇の水流を連射するハルレシオ。
 どれも身体強化を最大限に施しても避けるのが精一杯の攻撃の群れ。
 それを一心不乱に掻い潜り闘技を交えて攻めるオレ。

 両剣は闘気を使用していないとはいえ動き自体が独特で、連動した繋がる斬撃は隙を生じさせない。
 しかし、こちらも棒術には少しは自信がある。
 魔法を攻め手に使えずともはじめから通じない割り切ればなんてことはない。

 さっきまでの弱気なオレとは違う。
 上下左右に打ち分け翻弄する棒の動き。
 こちらが主導権を握るつもりで攻め続ける。
 
 だが、劣勢には変わりなかった。

 傷は増え、体力、魔力、闘気は減っていく一方。
 それでも気力だけは充実していた。

 ヤツを倒すという一つの目標に向かって無心ともとれる心境のまま戦い続ける。

 変化が訪れたのはあの第四階梯の能力で作り出した水蛇が奇妙な動きを見せた時。
 エクストラスキルを唱えるハルレシオの言葉にその姿を現した時だった。

「……【珠那宝水蛇:水噛みの陣】」

(ニール)

(おう)

 水色の鱗持つ小型の水蛇が左腕に巻き付いているのは従来通り。
 ただいままでと違うのは……。

(動か、ないな)

 周囲を警戒し顔を振る動作こそするものの口から水流を吐き出さない。
 攻撃して、こない?

「なら……こっちから行ってやるよ!」

 だが、攻めに転じるにはいいタイミングだったのも事実。
 丁度空中で光る《フォトンスフィア》も内包された魔力が切れたのか消滅したタイミング。
 屈折力場も消え失せた――――いましかない。

 目指すは死角。

「【クォーツスプレッド】」

 まずは視線を絶つ。

 訓練場の地面に放つ拡散魔法。
 踏み固められていた地面を柔らかく崩した後は、ついでに右足を伸ばしたまま左足を軸にその場で回転。
 身体を覆い隠すように土煙をたてる。

「…………む」

 警戒は百も承知。

「【クォーツアロー6】」

 勿論牽制は忘れない。
 囮の魔法を放つと同時、オレ自身は姿勢を低く、気配を極力消して土煙を抜ける。

 放った《アロー》とは直角の方向から攻める!

 無音無言の疾走。

(好機だぞ、ニール。ヤツはまだお前の居場所に気づいていない)
 
 ハルレシオの左手側。
 土煙での撹乱に成功したオレは至近距離まで接近していた。

「【クォーツバレット・デュアル】」

 振りかぶったべイオンと同時に放つ倍化した水晶の弾丸。

 水蛇の巻き付いた腕の方向から向かう《デュアル》を加えた一発の魔法。
 ハルレシオの視線はまだこちらに追いついていない。
 
 完全に不意を打ったタイミング。
 これなら対処できないと確信できた……その時だ。

 違和感を感じたのは。

「ぐああっ!!」

 左腕が熱く燃えるように痛みを訴えていた。
 触って確かめればヌルリとした血の感触。
 二の腕から溢れる赤い血液。

 穴が開いていた。
 細くとも腕を貫通するような穴が。

「ニール!」

 べイオンの心配する声にも反応できない。
 クソッ、いま何が起きた。

 混乱し痛みから地面に転がるオレを尻目に余裕の笑みを浮かべるハルレシオ。

 完全に不意を打ったはずだ。
 気配を絶ち、近づく寸前まで身体強化も使わなかった。
 あそこから反撃するすべはなかったはずだ。

 しかし現実には地面に転がったのはオレの方だった。
 血を流し手痛い負傷を負ったのは攻撃を仕掛けた側。

 まるで種明かしでもするようにハルレシオが話し掛けてくる。
 その視線はオレではなく自らの腕に巻き付いた蛇に向いている。

 そう、アイツだ。

 あの水蛇がオレの倍化した水晶魔法を防ぎ、水の針を飛ばしてきた。
 まるで主に噛みつく外敵を排除するかの如く。
 苛烈に。

「この子は優秀だろう? 《水噛みの陣》、私に向かってくるあらゆる攻撃をこの子が察知し吐き出した水の膜で受け止めてくれる防御の技。そして同時に攻撃の技でもある。受け止めた衝撃を水の針へと変え襲撃者への返礼とする。……たとえ私がその攻撃を知覚していなくともこの子は自動で反撃する」

「ぐぅぅ……それが……その蛇の……能力……」

「ああ、オートカウンターとでも呼ぼうか」

(……まさに攻防一体のエクストラスキル。しかも本人の認識とは関係なく、独立した何かで動く強固で攻略の難しい技。これは……自動魔法とはレベルが違う)

 地を裂いた水流はただの派生技だってのかよ。
 ぐ……やってらんねぇぜ。

「私が自動魔法を習得しているせいなのか、それとはまったく関係ないかは不明だが、ギルバートの取得したエクストラスキル、《珠那宝水蛇》はそれと似通った能力だった。初めは弱々しい蛇を作り出すだけかとも思ったが……いまではこの子にも随分と愛着が沸いたよ。自分でも不思議なものだがね」

 柔らかい表情で巻き付く水蛇を見詰めるハルレシオ。
 コイツ……こっちは痛みでそれどころじゃねぇよ!

「さあ、模擬戦はこれで終わりだ。君の治療もしなくては。安心してくれ、いま上級回復魔法の使い手を呼ぼう。多少血液は失ってしまっただろうが増血のポーションもある。遠慮なく使って欲しい」

 なに言ってやがる。

「まだ……終わってねぇ」

「……なに?」

 なんだその顔は。
 立ち上がったオレを奇妙な生物を見るような目で見やがって。

 まだイクスムさんは終わりの合図を出していない。
 まだ戦いは終わってねぇぞ!

「続けるのかい? これ以上の戦いは無意味だ。……そもそもこの模擬戦は力を見るためのもの。勝敗は関係ないと言っただろう。君たちの、君の力は十分に見させて貰った。……もう終わりにしよう」

 オレを気づかって言ってるんだろうが……関係ない。
 歩み寄るハルレシオをオレは拒絶し叫ぶ。
 痛みを無視し己の決意を籠めて。

「オレは……まだ立てる。まだここに立ってる。たとえ傷を負っても! 力の差が明白でも! オレはお前の前で立っているぞ! オレと戦え、ハルレシオ! 決着をつけるぞ!」

「ニール君、君は……何処までも……」

「それにオレはお前のその何でも見透かしたような顔面に一発キツイのをお見舞いしないと気が済まないんだ。……もう少し付き合ってくれよ」

 オレの不躾な言葉に目を丸くして驚くハルレシオは……一瞬笑ったような気がした。
 何処か諦めたかのような表情で両剣の天成器を握り直す。

「……仕方ないな。これが最後だ。手加減はできないよ」

「上等だ」

 文字通り最後の激突。

 血は溢れ大地は赤く染まる。
 そのせいか意識は朦朧として立つこともやっとだった。

 だが、それでも、オレは戦うことを選ぶ。
 勝敗が関係ないとしても決して最後まで目標を諦めない。

「【フォトンブラスト】」

 拡散する光子の榴弾。
 これをいまの状態で闘技で撃ち落とすのは難しい。

 躱すっ!

「うぅ……」

 無理な体捌きに身体が悲鳴を上げる。
 もう少し、もう少し持ってくれ。

「【クォーツボール・バレット3】!」

「【珠那宝水蛇:晃牙水流】」

 水晶魔法と水流の応酬。
 互いの渾身の攻撃の撃ち合いに狙いが甘い。

 疾走る。

(もう体力も魔力も限界だ! 次で決めろ、ニール!)

 べイオンの念話に返事を返す体力もない。
 だが忠告はありがたい。

 これで決める。

 最高の相棒に告げるは天成器の変形の宣言。
 魔力消費の高さから短期決戦を定められた両手に携える光の細剣。

「【変形分離:魔力刃双細剣】!」

 だが、走りながら接近するオレたちにハルレシオも強力な一撃を放ってくる。
 勝負を決めるため、オレの意識を絶つための断絶の一撃。

「【フォトングレートソード・スピン】、【珠那宝水蛇:晃牙水流】」

 光子魔法とエクストラスキルの同時攻撃。
 光子の大剣が空中を舞い、大気を切り裂き迫り、水蛇から吐き出された水流が大地と天を分かつ。

「【珠那宝水蛇:水噛みの陣】」

 防御も完璧だ。
 警戒する水蛇。
 人によっては可愛らしい仕草だろうがいまのオレには凶悪な面構えにしか見えない。

 と、そんな場合じゃない。
 遅いかかる二種の攻撃を……オレは。

「【クォーツシールド】」

「なにっ!?」

 オレは見たぞ。
 この魔法の盾を足場にする移動法を。
 質量のある水晶魔法を空中に展開してもいずれ重力に負けて落ちてきてしまう障壁魔法もほんの一瞬なら関係ない!

 水晶の盾を足場にオレは飛ぶ。
 光子魔法と水流を飛び越えヤツの元へと。
 そして。

「反撃にも限界があるだろ! それを超えた攻撃にはその蛇は対処できない!」

「くっ」

 苦々しい表情のハルレシオ。
 意外もお前表情に感情が出るよな。

 光細剣を構える。
 放つはオレの最大威力の闘技!
 これで防御の技の越える!

「【闘技:六牙跋扈】!!」

 水蛇の吐き出す水の膜を打ち破る六連の斬撃。

 ハルレシオの澄ました顔が驚愕に染まる。

 これで――――。

「【珠那宝水蛇:玉雲大崩】!」

 視界が特大の水球で埋まる。

 水蛇の繰り出した攻撃の技。
 おいこの野郎、まだ攻撃用の技があったのかよ……。

 全身に駆け巡る痛みのような朧げな感覚。
 
 ヤバいな。
 もう身体が……動かない。
 意識も……。

 エリクシルを手に入れるための戦い。
 ハルレシオ・セリノヴァールに力を認めさせるための戦いは……オレの敗北だった。
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