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第百五十五話 勝敗の理由
しおりを挟む「あーはいはい、負けました。負けましたよ。オレの負けだ。煮るなり焼くなり好きにしろ」
「ニール、そう拗ねるな。お前はよく戦った」
治療を終え意識を取り戻したニールが悪態をつく。
最後の衝突のときにエクストラスキルの攻撃で全身を強く打ちつけられていたニールだったが、待機していた回復魔法の使い手のお陰で特に問題もなく治療は完了していた。
腕に空いた穴も上級回復魔法の力をもってすれば問題なく塞がり、ハルレシオさんの用意してくれていた増血のポーションを使ったお陰か顔色もいい。
……機嫌だけはすこぶる悪いけど。
「あーあ、ハルレシオとオレ。年齢も大して変わらないはずなのにどうしてこうも差があるのかね。オレだって王都に辿り着くまで過酷な旅をして来たんだぜ。飢えた魔物を倒し、険しい道を踏破してきた。そりゃあ護衛に守られた旅だったけどさ。その間もずっと修練を積んできたのに、さ。……はぁ~」
再び戻ってきたハルレシオさんの執務室のソファーに、ぐでんと寝転ぶ姿からは模擬戦の際の鬼気迫る雰囲気は鳴りを潜めていた。
(ニールの奴、すっかり不貞腐れてるな。ここはお前の家かっての)
皆が苦笑しながら半ばヤケになっているニールを見守る中、冷静に言葉を発するイクスムさん。
「理由は複数ありますが貴方は強敵との対戦経験が少ない。それが原因でしょう」
「はぁ?」
(イクスムの奴、随分はっきりいうな)
「前提として一つ。貴方と彼では天成器の階梯が違う。第三階梯と第四階梯の差は非常に大きい。戦いを生業とする者の中でも第四階梯に到達できずに引退する者は多い。まさにそここそが強者足り得るかの分水嶺。勿論第四階梯に到達していれば階梯の劣った者に無条件に勝てるかと言われれば話は別ですが……彼は自らの天成器のエクストラスキルをしっかりと使いこなしていた」
やはり鍵は第四階梯なのか。
ハルレシオさんの操る水色の蛇。
攻撃と防御を両立した能力。
しかも、イクスムさんの光の小鳥のように自由に動き回ることこそしないものの、ニールの攻撃に反応して反撃を行っていた。
それこそハルレシオさんの感知していないような攻撃も。
恐ろしい能力だ。
攻撃した相手が逆に傷つけられる。
それをハルレシオさんは使いこなし、ときには光子魔法と共に使っていた。
その差なのか。
(あの蛇は傍目から見ても強力だった。いつか私もあんなスキルを取得することができるのか……)
珍しく不安そうに念話で呟くミストレア。
いつか俺たちも彼らのようにエクストラスキルを取得できる日は訪れるのだろうか……。
「そして根本の原因ですが……。貴方は護衛に守られていますがそれ故に危険からは遠ざけられて来たのでしょう。死線の超えた経験が圧倒的に少ない」
「クッソ……割と的確なことを」
自分でも心当たりがあるのか顔をしかめるニール。
「私でもなんとなく気配を感じ取るのが精一杯の相手です。貴方を守る護衛たちは命の危険のある強敵相手には貴方を近づけさせなかったのでしょう」
「そうだ……オレの相手はどれも勝てる相手ばかり。正直はっきりと勝てないと感じたのはギガントアントイーターぐらいだ」
影の護衛で面識のある中でもゼクシオさんは特にニールを主として守ろうとする意思が固かった。
ニールに迫る危険は事前に排除していてもおかしくない。
(フージッタも飄々としているように見せかけて割といまの生活を楽しんでいそうだったからな。ニールを害されないように気を使っていたのかもな)
というかイクスムさんもニールの影の護衛の人たちについて認識していたのか。
知っていて黙ってくれていたとは……。
「ギガントアントイーター? なんだソレ……デカいアリクイか?」
「力の差が明白な相手。それも慢心も油断もしない相手では窮地を乗り越えたかどうかの差は大きく出るものです」
「セリノヴァール公爵家を継ぐために主様は自らを危険の只中に置き続けました。公爵家の領土は魔力の多い土地が非常に多い。当然ながら生息する魔物も強大な相手ばかり。主様とて何度その大切な命を危険に晒してきたか。数々の強敵を苦難の末に倒した結果ギルバートは第四階梯に達した。あのエクストラスキルはそんな主様の心血の結晶なのです。容易く敗れるはずがない」
ハルレシオさんについて熱く語るチェルシーさんの言葉は胸をつくものがあった。
(きっとチェルシーも護衛としてその場にいてハルレシオの戦う姿を見てきたんだろうな)
「繰り返し何度も死線を乗り越えて来たってことか……オレと違って……」
目に見えて落ち込むニールに少ししんみりとした空気が流れる。
いつも騒がしいプリエルザも黙っているし、音のない無音の空間が広がる。
「あれ? 俺の質問は? ギガントアントイーターって何なんだ?」
それにしても……さっきからキョトンとした顔をしたヴィクターさんの疑問には誰も答えようとしないな。
(……アイツ空気読めないのか)
「それで? エリクシルはどうなる。オレたちの力を見るための模擬戦だろ。途中熱くなりはしたが……結果は出たか?」
落ち込んでいたニールを皆で励まし、少し機嫌も上向いてきた頃。
そのニールが気になっていたことを質問する。
(拗ねているときはまだ良かったんだが、落ち込んだ相手を励ますというのは中々難しいな)
大分気を落としていたニールを元気づけるのは骨が折れた。
勿論ニールには普段の調子を取り戻して欲しかったからまったくもって苦ではないけど、俺たちの言葉は中々聞き入れて貰えなかった。
客観的な意見の出せるヴィクターさんとチェルシーさんに頼ることでやっと気をとりなしてくれた。
しかしまだどこか影の残るニール。
それでも、ゼクシオさんやフージッタさんとも改めて話さないとと意気込んでいたので前を向けるようになってくれたと思いたい。
今度は俺やプリエルザとも模擬戦をしたいといっていたし、さっきまでの沈んでいた様子よりはずっといい。
恐る恐る問うニールに頭を縦に振り頷くハルレシオさん。
「勿論、その前にエリクシルを手に入れた目的だけ話しておこうか」
目的か……気になるところだ。
ニールのように誰かに使うためなのか、はたまた保管しておいて魔物や瘴気獣を相手にした危険なときに使うつもりなのか。
人工の秘薬エリクシルの効能は大幅な魔力の回復とある程度の毒の治癒。
ニールは使い道次第では諦めることも考えるといっていたけど、果たしてハルレシオさんがエリクシルをオークションで落札した理由はなんだったのだろうか。
彼の口が開く。
それは常に落ち着いた印象のあるハルレシオさんには珍しい軽い口調で呟く言葉。
「簡単さ。気に入らなかったからだ」
「え?」
(一体なんのことだ?)
言葉の意味をすぐには理解できなかった。
金貨二十五万枚の価値あるエリクシル。
その理由が個人の感情によるもの?
続く彼の言葉に俺たちは驚かされることになる。
ストックが尽きてしまったため更新が遅くなってしまいました。
大変申し訳ございません。
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