10 / 52
第九話 ラーツィアの恩恵
しおりを挟むラーツィアのお願いごとはオレの予想を上回るものだった。
「ベットを変えさせて欲しい?」
オレの怪訝な態度にラーツィアが縮こまりながら恐る恐る提案してくる。
おっと不味い。
怖い顔してたかなオレ。
「……実は、わたしベットが変わると眠れないんです」
この家にはベットは二つある。
オレの部屋に一つと爺さんの部屋に一つだ。
亡くなった爺さんのベットをラーツィアたちに使わせるのは忍びないから、二人にはオレのベットで我慢してもらおうと思っていた。
その矢先の提案だった。
「う~ん、流石に悪いけどベットを王城にあるような豪華な物には出来ないぞ。二人にはちょっとボロいけどオレのベットを使ってもらおうと思ってたんだ」
「そ、そのベットの心配は大丈夫です。わたしの恩恵で用意できますから!」
「え?」
「わたしの恩恵は『ベット』なんです!」
詳しく聞くとラーツィアの恩恵はそのまま『ベット』を作り出せる恩恵らしい。
文字通りベットを魔力を用いて生成する力。
取り敢えず『見て確かめて下さい』とラーツィアは急遽物を退かした居間で恩恵を使う。
「えい! 『プリンセスベット』」
「うわっ!」
ドカンと音をたてて天蓋付きの見たこともないベットが居間の中央に出現した。
デカ!
この家の取り柄である広さがなかったら、一室すべてを埋め尽くす大きさだぞ。
「流石姫様の恩恵」
「その……アル様。できればこのベットを使わせていただきたいのですけど……」
「いやー、まあオレのベットよりは確実に良いものだけど、部屋に入るかな?」
「ならこちらのお部屋でも構いません。アル様! どうか我儘をお許しいただけないでしょうか?」
ここ居間なんだけど、そんなにこのベットで眠りたいんだな。
ラーツィアは胸元で両手を組むと祈るように頼み込んでくる。
「ここまでの旅では姫様は禄に眠ることも出来なかったのだ。私からも頼む。この通りだ。姫様に安眠を与えて貰いたい」
「ぐぅ」
コイツさっきまで五月蝿かったのに、ラーツィアのことになると真摯に頼んできやがって……。
深く頭を下げる二人に何も言えなくなる。
「はぁ~~、わかった。好きに使ってくれ。ただし、朝の食事の時には消してくれよ。恩恵だからすぐ消せるよな?」
「勿論です。アル様! ありがとうございます!」
ニコニコと嬉しそうに笑うラーツィアを見て、ふと思い出したことがある。
これも聞いておかないと。
「そう言えば魔力暴走の心配はないのか? 吸魔の指輪も返してないし」
白金の指輪はまだオレの小指に嵌っている。
そう言えば返してない。
「その指輪はアル様に差し上げた物です。命を助けていただいたお返しにはなりませんが、よろしければアル様がお使い下さい」
「だけどな……」
「姫様がお渡ししたなら私からは異存はありません。おい、命より大切にしろよ」
この女ぁ。
「それと、魔力暴走ですが……実は指輪を外しても問題ないんです。子供の頃は魔力の大きさに体調を崩して寝込んでしまいましたけど、今は魔力制御の力が自然と身についたのか暴走の兆候はありません」
魔力暴走。
それは、過剰な魔力が体内で暴れだすことで、周囲を傷つけてしまう魔力の発露のことを指す。
ラーツィアの場合は、莫大な魔力が周囲の物を動かし破壊してしまうことが何度か起きたそうだ。
魔力の少ないオレとは縁遠いことだが、魔力が多い、多すぎるとそれはそれで問題らしい。
魔力は殆どの人が生まれながらに持つ力といわれている。
魔法を発動する際にも使うその力は、大気中に紛れて存在しているらしい。
個人個人で許容量が違い、体内に貯めておける量は違う。
ただ、魔力は使えば使うほど魔力容量を拡大することができるとも言われていて、恩恵や魔法という形で使うことが推奨されている。
「じゃあなんで幽閉なんてされてたんだ」
「……都合が良かったんです」
「え?」
この時恥ずかしそうに目を逸していうラーツィアの顔をオレは生涯忘れることはないだろう。
「……眠りたかったんです」
王都の奴らはどうしようもない奴らだと思ったが、そうでもないのかなと思い直した瞬間だった。
0
あなたにおすすめの小説
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
盾の間違った使い方
KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。
まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。
マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。
しかし、当たった次の瞬間。
気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。
周囲は白骨死体だらけ。
慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。
仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。
ここは――
多分、ボス部屋。
しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。
与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる
【異世界ショッピング】。
一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。
魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、
水一滴すら買えない。
ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。
そんな中、盾だけが違った。
傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。
両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。
盾で殴り
盾で守り
腹が減れば・・・盾で焼く。
フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。
ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。
――そんなある日。
聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。
盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。
【AIの使用について】
本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。
主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。
ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる