9 / 52
第八話 我が家へようこそ
しおりを挟むラーツィアとレオパルラとかいう女騎士を連れてきたのは、案の定というか、予想通りというか、もうすぐ手放さなければならなくなるかもしれない我が家だった。
まあ、オレが案内できる安全な場所はここしかない。
「わぁ~~、凄いお家ですね、アル様。これは全部アル様が作ったんですか?」
「姫様。これは廃屋という物です。おい、バステリオ、姫様にこんな所しか用意できないのか!!」
ラーツィアは無邪気に喜んでくれるのに、この女騎士は本当に態度が悪い。
「取り敢えず二人共中に入ってくれ。……これでも室内は綺麗なんだぞ」
二人の愛馬であるシュヴァルを爺さんの作った馬小屋風の建物に連れていき、繋いでおく。
幸いこの馬小屋兼物置小屋は、我が家の林に隣接して周囲からは目立たない。
まあ、ここは街外れで誰もこないから心配する必要はないかもしれないけど、目撃されるリスクは低い方がいいから丁度良かった。
「す、凄い広いです! 色んな物がたくさんあって、わたしすごく気になります!」
「うむ。ごちゃごちゃとした家だな。そこらじゅう棚や物で溢れている。……まあ、姫様と私が暮らす分には申し分ない広さだけはある。褒めてやろう」
おい、ナチュラルにオレを省くんじゃねぇよ。
姫様は純粋で可愛いのに、本当にコイツは……。
「オレはどうするんだよ。除外するな」
「なっ!? お前、まさか姫様と一緒に寝泊まりするつもりか!? な、なんて不埒な奴だ! 姫様、すぐにここから立ち去りましょう!!」
行く宛も馬車もないのに威勢がいいな。
「レオパルラ、我儘を言ってはいけませんよ。アル様のご好意でわたしたちはここに居させていただいているんです」
「ですが……」
「そうだっ! コイツはシュヴァルと一緒に寝かせましょう。そうすればシュヴァルも寂しくないし、私たちも安全です!」
「ダメです」
「そんな~~」
コイツこんなに駄目な奴だったか?
それともラーツィアが関わると変になるのか?
世間知らずそうなラーツィアの方がしっかりしてるぞ。
「取り敢えず事情を聞かせてくれ。あの場所じゃあ落ち着いて話せなかったからな」
「いいだろう。そうだな。どこから話すか……」
「時間はある。全部話してくれ」
オレの問いに女騎士はゆっくりと話しだした。
「……まず初めに私たちは王都から逃げてきたのは話したな」
「ああ」
「女王様の命で脱出してきた訳だが、女王様はこうも私たちに伝えた。それは――――」
女騎士が語った内容では、どうやらラーツィアは帝国に狙われているらしい。
帝国の重鎮で最古の貴族であるニッケルベルン公爵の若君に、婚約相手として望まれているそうだ。
そして、その結婚を申し込んできた公爵の第一子がこれまた悪い噂の絶えない奴らしい。
「姫様は塔に半ば幽閉という形で軟禁されていたのに、どこで情報を仕入れたのか……」
「軟禁? こんなに可愛いのに?」
「ア、アル様。は、恥ずかしいことをおっしゃらないで下さい」
ラーツィアはその膨大な魔力の暴走を恐れて、王城から離れた古塔で誰とも接触させて貰えず暮らしてきたそうだ。
この吸魔の指輪の魔力は底すら見えない。
こんな魔力の持ち主が暴走したら危険に思う気持ちはわからなくはないが……。
それはそれとして王城の奴らはどうしようもない奴らだな。
誰とも会わせないように仕向けて隔離するとは!
そのため頼れる相手はこの女騎士一人だけ。
二人して馬車に乗りここまで逃げてきたという。
「女王様は私たちを死んだことにして逃がすおつもりだった。王城では姫様の葬儀が執り行われ、私たちはその隙に逃げ出してきた。最初は平和だった旅だが……恐らくは帝国の公爵家の追っ手だろう。昼夜を問わず襲われることになった」
女騎士は追っ手を一時的に退けはしたが、旅の途中も何度か襲撃があったため、危険を承知で魔物のテリトリーに入って撒こうと考えたらしい。
いや、めちゃくちゃなこと考えるな。
一歩間違えれば自分たちが死ぬぞそれ。
「そう言えばこんな辺境まで旅してきたのは何でなんだ? 身を隠すならもっと良い所があるだろ?」
「女王様からはランクルの街に頼れる人物がいると聞いていた。その人物に会いに来たのだがな」
「ふ~ん、名前は?」
「ジルバ、という男性らしい。以前は王城の庭師だったそうだ」
「ジルバ? わからんな」
ジルバ、か。
王都からここに来てここに住んでるなら有名人ってことだよな。
そんな噂聞いたことがないけど……。
「まあいい、話は聞かせてもらった。今日はもう遅い。取り敢えず泊まっていけよ」
オレの提案になぜかラーツィアが神妙な顔で話しかけてくる。
「あ、あのアル様。お願いがあるんですけど……」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
転生先はご近所さん?
フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが…
そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。
でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる