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第七話 お礼とこれから
しおりを挟む「わたしを匿って下さい!!」
それはラーツィアの唐突な要望から始まった。
自己紹介を兼ねた話し合いの最中のこと。
有用そうなオーガの素材をなんとか女騎士のマジックバックに詰め込み、回復のポーションでラーツィアと女騎士の怪我を治す。
さらに、馬車の残骸からまだ使えそうな道具を引っ張りだした。
馬車の損壊は酷いもので、最早修復不可能なほどだったが、幸い馬は無事だった。
オーガの襲撃で逸れてしまっていたのだが、戦いの終わったころにこちらを見つけて走り寄ってきてくれた。
馬の名はシュヴァル。
柔順で人懐っこい黒毛の馬で、女騎士の愛馬らしい。
初対面のオレにもやたらと頭を擦りつけてくる。
「シュヴァル、貴方が無事で良かった」
「帰ってきてくれてありがとう。シュヴァル」
女騎士が優しくシュヴァルの頬を撫で、ラーツィアがお礼を言っている。
二人共随分と気を許しているんだな。
そんな二人には悪いが、これからどうするのかも聞かないといけない。
いつまでも魔物の闊歩する森にいる訳にはいかないからな。
「それで、あんたたちはなんでこんな辺境まで来たんだ。見たところ貴族のご令嬢とその護衛の騎士だろうし、こんなところに用なんてないだろ?」
「確かに用などないが……」
「だいたいなんでオーガに追われることになったんだ? この辺じゃまず見かけない魔物だぞ」
この辺りは森でも浅いところだ。
フワダマやゴブリン、稀にコボルトやオークなんかは見かけるけど、それ以上に強い魔物はこの辺りには生息していないはずだ。
あの山脈を除いて……。
この森からかなりの距離を進んだ先には霊峰がある。
フリンスベルク山脈の一角。
霊峰アケトー。
そこには強大な魔物が生息し、高ランク冒険者も近づかない。
ただ、そこに住む魔物は縄張りさえ荒らさなければ、わざわざ山を降りてまで襲ってこない。
冒険者でもたった一握りの相当な実力者だけがあそこに挑戦するんだ。
まさか、あの山に入ったのか?
「追っ手だ。姫様と私を追ってきた相手を振り切るために、魔物の巣窟と名高い霊峰アケトーを掠めるルートを通った。運良く追っ手は消えたが、代わりにあのオーガに見つかってしまった。何日かは逃げ隠れていたんだが……この森でついに追いつかれてしまった」
何日って本当かよ。
そんな執念深いオーガがいるのにも驚きだが、よく逃げ続けられたな。
「幸いアイツは夜は襲って来なかったからな。というより襲うタイミングを見計らっていたように思う。十分に恐怖させ、甚振ってから殺すつもりだったんだろう」
「まあ、もう消し炭だけどな」
「あれはなんなのか私が聞きたいんだが……いまはもういい」
女騎士はなにかを諦めた視線でオレを見ている。
な、なんなんだその疑いの目は?
「ともかく、女王様は私たちに王都から脱出するように伝えた。それは――――」
「女王って……王女でもあるまいし……」
オレが呆れて聞くと女騎士は激昂して答えた。
「何を無礼な! ここにおわす御方は――――いや、なんでもない。お前が命の恩人だろうと話す訳にはいかないからな」
なんだ?
気になる止め方をしやがって。
「まあ、どこかの貴族のお嬢様なんだろ。こんなところに王国のお姫様がくるはずないもんな」
「そ、それは……」
「レオパルラ。アル様なら大丈夫です」
「ですが!」
女騎士に制止させられながらもラーツィアは恭しく俺に自己紹介を始める。
「わたしの名はラーツィア・モントリオール。このモントリオール王国の女王アントーニアの末娘。アル様。この度は危ない所を救っていただきありがとうございます」
「へ?」
丁寧にお辞儀する本物のお姫様の前で、思わず間抜けな声を出した。
それが聞こえたのかラーツィアが笑い出す。
「ふふ」
「い、いや今のはびっくりしただけでだな……」
恥ずかしい所を見られてしまった。
「誰かに挨拶するなんて久しぶりすぎて笑ってしまいました」
しかし、寂しそうに儚く笑うラーツィアに何も言えなくなってしまった。
「私はレオパルラ。姫様唯一の護衛騎士だ。姫様を助けてくれたことに関しては礼を言おう。さて、これからどうするかだが……」
「レオパルラ、わたしにいい考えがあります! アル様!」
無垢に笑うラーツィアの笑顔に何故かほんの少しの嫌な予感を覚える。
「わたしを匿って下さい!!」
それでも、無条件で信頼を寄せてくれる相手の申し出を、断る勇気は俺にはなかった。
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