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第十一話 変装と取り立て
しおりを挟む「何だってオレがこんなことを……」
オレはランクルの街の買い物帰り、誰に聞かれるでもなく自らの境遇に嘆いていた。
「そもそも、オレが行く必要あったか? ものすごい目で見られたぞ」
思い出す。
アレは朝食を食べ終わった後のこと。
食器を片付け、シュヴァルにご飯の干し草と水を与え、さあこれからどうするかなと相談しようとした矢先。
「私と姫様の服を買ってこい」
「はあ?」
「マジックバックに替えの服は入っているが、庶民が着るような服は流石にない。ここまで追っ手に追われていたし、王都でも買う余裕がなかったからな」
「ラーツィアとレオ師匠の分を?」
「し、師匠!? そうだ……私は師匠になったんだった……ま、まだ慣れないな」
師匠がめちゃくちゃ動揺してる。
なぜだ?
「ゴホンッ、そうだ。寝ぼけた顔をするな。とっとと買ってこい。それと少し前から気になっていたが、なぜ姫様のお名前を呼び捨てにする!」
「レオパルラ、わたしが許可を出しました。わたしたちの恩人のアル様に他人行儀な呼び方で呼んで欲しくありませんから」
「ぐぅ……わ、わかりました。姫様がそうおっしゃるなら仕方ありません。……バステリオ、取り敢えずお前は姫様と私の服を最優先に買ってこい」
はぁ、師匠になっても横暴な所は変わりないな。
「な、なんだこの服は!? 私は目立たないような服にしろといったがなぜこんな服を……」
「何ってレオ師匠の要望通りだぞ」
「姫様はともかくなぜ私に……男物の服を……」
なぜって師匠は胸が慎ましいからな。
そんな余計なことを考えてからだろう、師匠の眼力が人を殺せそうなぐらいになっていた。
「おい、いまなにを考えた……」
「い、いやこの方が追っ手からしたら判別つきにくくなるだろ。師匠は美人だから男装してればバレないだろうと思って」
「び、美人……私が……!?」
チョロいな。
「ともかくこれで街に繰り出せるようになった。ジルバとかいう奴の情報を集めるんだろ」
見事に男物の洋服を着こなした師匠と町娘の格好をしても可愛さを隠しきれないラーツィア。
これで追っ手にもバレずに街に繰り出せると思った瞬間、我が家の外がにわかに騒がしくなる。
「ヒヒィンッ!?」
「……なんだ?」
「あれは……シュヴァルが嫌がっている鳴き声です!」
急いで外に出ればそこには会いたくもない人物がシュヴァルを強引に撫でようとして苦戦している姿があった。
周りには何人か取り巻きの連中を侍らせている。
「ロガン……お前……」
オレが心底嫌そうな顔をしているのにそいつは嬉しそうにこちらに近づいてくる。
「やあ、アルコ君。この見事な馬はどこで手に入れてきたんだい」
厭味ったらしい口調のこいつはロガン。
元は爺さんが借用した土地の契約者……の孫。
まったく、見る必要のない家の裏手の物置小屋まで目敏く観察してやがる。
「お前に関係あるのか?」
「関係あるとも、この土地はいまやボクのものだからね。それにアルコ君は土地の代金を払えるかもわからないと聞く。そのお金を工面するために非合法な手段にまで手を染めたとなればボクも心苦しいからね。一応言い分を聞いてあげないと」
この野郎、オレが犯罪紛いのことをしてシュヴァルを手に入れたとでも言いたいのか。
「……この馬はオレのものじゃない」
「んん、ならそこの凛々しい男性と可憐な少女が関係しているのかな。ぜひボクにも紹介して欲しいんだけど……どうだろう」
こいつオレたちが一緒に家から出てきたのを見ていたな。
オレ一人で様子を見るべきだった。
……失敗したな。
「お、男と間違えられるなんて……」
師匠がショックのあまり気絶しそうだ。
肝心な時に役に立たない。
「この二人はオレの客だ。その馬もこの二人のもの。お前が好きに出来るものじゃない」
「そう邪険にしなくてもいいじゃないか。ボクに二人を紹介して欲しいだけさ。やあ、この街では見掛けたことのないお二方、ボクはロガン、街では――――。何の真似だい」
微かに怯えるラーツィアを背後に隠し、ロガンの粘っこい視線から隠す。
「この二人はオレの客だと言った筈だ」
「……ふ~ん、そういう態度に出るとはね。“ゴミ恩恵”のくせに随分偉そうじゃないか」
「……」
「……まあいい、君がこの土地から出ていくまで残り二ヶ月と二十五日だ。忘れるなよ。君が金を用意できなければ即刻此処から出ていって貰う。たとえ君がどれだけ嫌がってもね」
わざわざ近づいてきて顔の近くで言うことか?
愉悦の混じった表情で笑うロガンは内面の醜さが顔つきにまで表れているようだった。
その歪んだ顔をさらにいびつに歪めて奇妙な笑い顔を作る。
「ではお二方、挨拶もろくに出来ずに申し訳ない。何分ボクもこう見えて忙しいものでして。……ではこれで失礼しますね」
忙しいならなんで朝からここに来たんだ?
よくわからん行動をするロガンはそそくさと無口な取り巻き共と去っていった。
あいつら一言も喋らないとかロガンのことが嫌いなんじゃないか?
「それで、バステリオ……説明はしてくれるんだよな」
男扱いのショックから抜け出した師匠がオレの背後で仁王立ちしているのがなんとなくわかる。
やっぱり説明しないとダメか……。
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