13 / 52
第十二話 土地の値段
しおりを挟む予期せぬ訪問者の一件からオレはこの家の事情を二人に話した。
爺さんの所有物だったこの家を守るためにはこの土地の今の持ち主であるロガンから買い取る必要がある。
オレとしてはこの家に匿うからにはいずれ話さなければいけないことだったが、それでもこんなタイミングになるとは予想していなかった。
「うぅ……アル様はお爺様との思い出を手放したくないんですね」
「……この土地を買い取るために、か」
純粋なラーツィアはまるで自分のことのように親身になってくれる。
しかし、師匠は冷徹な眼差しを浮かべオレを見詰めていた。
「それで? いくらなんだ。ここは辺境だ。この家の価値はともかくそれほどの金額とは思えないが?」
「金貨三千枚」
「………………はぁ?」
値段を告げられたときの師匠は顎が外れるんじゃないかと思うくらい大口を開けていた。
まあ、無理もない。
王国の護衛騎士の給料がどれくらい貰えるかは検討もつかないが、この土地の金額が相場より随分と吹っ掛けられてることはわかるだろう。
「バカなっ、そんな金額……王都でもそれなりに広い土地を買える額だぞ!」
「あー、そうだろうな」
ランクルの街で一月の給料は大体金貨十枚から十二枚だろう。
年間で金貨百二十枚から百三十二枚。
そこには当然生活費として消える金も含まれている。
手元に残るのは金貨数枚もないだろう。
一方冒険者はランクによって差が激しいから比較が難しいが、ゴブリン一体の討伐で銀貨一枚の報奨金が貰える。
それでも、銀貨十枚で金貨一枚分だから、ゴブリンなら三万体も倒す必要がある。
……改めて考えると途方もない数字だな。
そもそもゴブリンだってそんな数がランクルの街周辺に生息している訳がない。
だがそれを三ヶ月で稼ぐ必要があるんだから笑えもしない。
「この家を訪れる道中、他の民家は一切存在していなかった。家周辺は林に囲まれフワダマまで住み着く始末。しかも、ここは街からかなり離れた位置にあるだろう? そんな不便で発展の余地のない土地が金貨三千枚の価値だと、バカげてる!」
「オレも相当吹っ掛けられてるのはわかってる。だが、土地の所有者は間違いなくロガンの奴だ。……応じるしかない」
「その……わたしお金のことは詳しくないんですけど……」
ラーツィアは師匠の持つマジックバックに視線を移す。
このマジックバックという魔導具はオーガの素材を収納したように、実際の大きさと内部の空間に違いがあり、さらには中に入れたものの重さを軽減する効果がある。
非常に高価で一般市民には到底手の出せない代物だが、高ランクの冒険者は必ず所持する代物だ。
王国のお姫様のラーツィアならマジックバックを所持していてもおかしくない。
きっと師匠がラーツィアの代わりに持っているんだろう。
「アル様さえ良ければそのマジックバックには王都から脱出する時に入れた換金できそうなものが入っています。そこから必要な分を使っていただければ――――」
「姫様! 何をおっしゃるのですか!? この中には姫様が女王様からいただいた大切な装飾品の数々が……」
「レオパルラ、アル様は命の恩人です。このうえ匿っていただこうというのなら、せめてお家賃を払わなければいけないのではありませんか? わたしはアル様の助けになれるなら売っていただいて構いません」
「ひ、姫様……」
ラーツィアの瞳は嘘を言っているようには見えなかった。
本心からオレの力になりたいと願ってくれている。
……こんな、こんな人がいるのか?
オレは衝撃を受けていた。
オレはゴミ恩恵だ。
恩恵がわかった途端離れていってしまった人がいた。
恩恵がわかった途端態度を一変させてしまった人がいた。
勿論変わらず優しくしてくれる人もいる。
それでもラーツィアのように心から他人を案じてくれる人には出会ったことがない。
「……悪いけど、それは受け取れない」
ラーツィアが差し出そうとする綺羅びやかな装飾品を仕舞うように促す。
「ですが! それではアル様が困ってしまいます……」
悲しそうな顔をしないでくれ。
オレは小指に嵌めた白金の指輪を掲げる。
「オレには……ラーツィアの譲ってくれたこの吸魔の指輪がある。ラーツィアが許してくれるならこれを使わせて欲しい」
この指輪はオーガすら倒せる指輪だ。
オーガの討伐報奨は金貨三枚。
さらに、それとは別に冒険者ギルドではオーガの素材も買い取って貰える。
この指輪を駆使すれば諦めていた金貨三千枚を稼ぐことも不可能じゃない。
ただそれはゴミ恩恵のオレが冒険者として目立つことになるということ。
追っ手に追われているラーツィアたちも同じ家で生活するなら必然的に目立つことになる。
ジルバという探し人が見つかりラーツィアたちの安全が確保できれば問題は少ないが、ここに長年住んでいるオレもわからない相手だ。
情報を探すにも時間がかかるかもしれない。
オレは拙いながらも自分の考えを二人に伝えた。
そのうえでラーツィアの出した答えは……。
「わたしも冒険者になります!!」
本当にこのお姫様は驚かせてくれる。
オレの不安や懸念を飛び越えて楽しそうに提案してくれるラーツィアの姿は自由そのものだった。
0
あなたにおすすめの小説
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
盾の間違った使い方
KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。
まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。
マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。
しかし、当たった次の瞬間。
気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。
周囲は白骨死体だらけ。
慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。
仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。
ここは――
多分、ボス部屋。
しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。
与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる
【異世界ショッピング】。
一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。
魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、
水一滴すら買えない。
ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。
そんな中、盾だけが違った。
傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。
両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。
盾で殴り
盾で守り
腹が減れば・・・盾で焼く。
フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。
ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。
――そんなある日。
聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。
盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。
【AIの使用について】
本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。
主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。
ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる