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第十三話 狂騒の冒険者ギルド
しおりを挟むその日ランクルの街の冒険者ギルドは、いつになく大混乱に陥っていた。
運悪くその現場に居合わせたオレたちは、嵐を過ぎ去るのをだだひたすら待つことしか出来無い。
「西の森の樹木の広範囲が切り倒されただと!? 信じられない!」
「報告では何者かが高火力の炎で周辺を燃やした痕跡があるとあります。……まさか竜種のブレス!? そんな、こんな辺境に竜種が現れたらどれだけ被害が……」
「貴族の乗るような豪華な馬車がバラバラに破壊されて放置されてたらしいぞ!」
ある意味熱狂に支配された冒険者ギルド。
そこでは、いつもはオレを見かければすぐさま罵ってくる冒険者たちも、未知の脅威が身近に現れたことに驚愕し不安がっているのかオレが現れても気づいてすらいない。
やばいな。
大混乱じゃないか。
……オレがやったってバレてないよな。
「アル様、怖いですね」
「はた迷惑な奴がいるな」
意味不明みたいな顔で見てるけど君たちも現場にいたよね。
「……ツィア、レオ師匠、やっぱり冒険者ギルドに来るのは早かったんじゃないか? もう少しほとぼりが冷めてからにしないか?」
俺が小声で二人の身元がバレないように偽名というか愛称のようなものを呼び、一旦ギルドから出ようと提案していると、目敏くもオレたちに気づいた受付のマリネッタが声をかけてくる。
「アルコさん! 昨日は西の森に依頼で出掛けていましたよね。何か見ませんでしたか?」
クソッ、大声で叫ぶから注目がこっちに集まっちまった。
「……昨日は確かに西の森でゴブリンと戦ったけど……その……取り逃してな。その日はすぐに家に帰ったんだよ」
オレの苦しい言い訳にマリネッタは心配そうな顔を見せる。
「怪我はなかったですか? 私西の森が大変なことになったと聞いてアルコさんのことが心配で……」
な、なんだ?
瞳の端に涙を浮かべるマリネッタに動揺する。
いつも心配だ、心配だとは言っていたけど、涙ぐむほどオレのことが気になってたのか?
「マリネッタちゃん、そんな奴気に掛ける必要なんかないぜ。なんたってコイツの恩恵は“ゴミ恩恵”。何の役にも立たないんだぜ? 気に掛けるだけ無駄だよ」
「そうだよ。コイツの恩恵は『消毒液』? だったか? まったくもって何に使うかすらわからねぇ。これだったら『ビール瓶』の恩恵の方が武器なだけ強力だ。『消毒液』? ゴミだよゴミ」
「おい、『ビール瓶』は俺の恩恵じゃねぇか! こんな奴の恩恵と比べるんじゃねぇよ。まったく……」
相変わらずコイツらは……。
よく飽きないもんだ。
オレはもはや慣れた文言ばかりを並べるランクルの街の冒険者たちを無視して冒険者ギルドを後にしようと歩き出そうとした。
しかし、そんなオレの行動とは裏腹に、オレが罵倒されるのが我慢ならない者がいた。
「なんで……なんでそんなことを言うんですか? アル様は貴方たちよりずっとずっと強いです!!」
おーい、ラーツィア。
頼むからこれ以上目立つことをしないでくれ。
……庇ってくれるのは嬉しいけど、それじゃあすぐに追っ手に見つかっちまうぞ。
「お嬢ちゃん……なんで冒険者ギルドにお嬢ちゃんみたいな娘がきたのかはわからねぇが、ここはあんたが来るところじゃねぇぞ」
「その“万年Dランク”に弱みでも握られてるのか? そいつは長年冒険者として燻ってるんだぞ。強い訳がねぇ」
「そんなことありません! アル様は……アル様は……」
ラーツィアがオレの弁護のためにこんな田舎の冒険者たちに責められるのは流石に堪える。
だが……。
「ツィア……いいんだ。オレの恩恵が弱いのは事実だ」
「でも……アル様はご自身の命を危うくしても私たちを助けてくれました。それなのに……」
「……レオ師匠からもツィアに言ってやってくれ。このままヒートアップしたら余計に人の目に止まる。目立ったら不味いだろ」
オレはラーツィアの困った顔にどうにも弱い。
彼女が純粋なのがわかっているからこそ、辛い気持ちなのが表情からもわかる。
……それでも、ここは我慢しないと。
しかし、師匠もまたオレの心配や懸念といった負の感情を飛び越えていく。
「お前たち、この男の強さを知らないのか? 今迄一体何を見てきた。この男が弱いと言うなら、自分たちの目が節穴だと証明しているようなものだぞ」
し、師匠もなのか!?
あっさりとした口調で言ってるけど、内容は挑発そのものだった。
冒険者は粗暴な奴らが多い。
そんな喧嘩を売るようなことを言ったら……。
「ほぉ~、そんなに言うなら久しぶりに俺がお前の腕前を見てやろうか?」
粗野な冒険者たちの間から現れたのは長身の男。
年齢は四十代近く、グレーに染まりつつある髪は短く切り揃えられている。
冒険者ギルドで行われる講習の指導員も務めるギルド職員の一人。
オレの恩恵がわかった途端、戦闘に関する講習を受けさせようとしなかった奴。
『ウッドショートスピア』の恩恵を有するその男が、蔑みの視線でオレを睨んでいた。
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