超絶ゴミ恩恵『消毒液』で無双する

びゃくし

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第十四話 怒りの理由

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 オレを蔑みの視線で見るこの男はセヴラン。

 孤児院を飛び出し冒険者になるべく奔走した四年前。
 その当時もいまと変わらず指導員だったコイツは、出会った当初それなりに優しかった。

 冒険者になったばかりの十四歳のガキに剣の持ち方から日々の鍛錬の仕方まで教えてくれた。
 ……まあ、冒険者ギルドお手製の教本から学んだことの方が大半だったが。

 それでもあの当時といまの態度はまったく違う。
 そう、オレの恩恵が判明した時を境にコイツは態度を一変させた一人だ。

「“万年Dランク”のお前がそこの優男の言うように本当に強くなったのか俺が確かめてやるよ」

「……や、優男……」

 あ、師匠がまたショックで膝をついてる。

「……ギルドも今はこんな状態だ。そんなことをしている暇はないだろ」

「西の森に未確認の脅威がいるかもしれないからって、殊更に恐れる必要もないだろ。それに俺はお前が心配なんだ。昨日はゴブリンごときを取り逃したんだって? 愛弟子が本当に強くなったのか確かめてやらないとなぁ」

 ニタニタと気持ち悪い奴だ。
 マリネッタの心配とお前の心配じゃあ雲泥の差があるぞ。
 少なくともお前はオレを公衆の面前で叩きのめして恥を掻かせたいだけだろうが。

 そもそもお前の愛弟子になったつもりもない。
 このギルドで講習を受けた冒険者全員にそんなこと言ってるのは知ってるんだぞ。
 オレの恩恵がわかってからは講習に参加させなかったくせに、偉そうな態度だ。

「アル様は本当に強いんです! 貴方みたいな気味の悪い人、アル様ならすぐに倒せます。そうですよね! アル様!」

「き、気味の悪い……俺……そんなに気味悪いか?」

 セヴランの奴、自分が気持ち悪い笑顔を浮かべている自覚なかったのか……。
 隣に居合わせた冒険者に小声で確認してるけど、結構お前嫌われてるから素直に教えてくれる奴なんていないだろ。 

「ところで……そちらの美しい金の髪のお嬢さんと凛々しい男性はアルコさんとどんな関係なんですか? 随分と親しい間柄のようですけど……」

 さっきまで涙ぐんでいたはずのマリネッタが今度は怒りをあらわにしてオレに詰め寄ってくる。
 受付のテーブルから出てきてまで聞くことか?
 取り敢えず誤魔化さないと。
 オレは事前ラーツィアたちと相談していた言い訳をマリネッタに説明する。

「ツィアとレオ師匠はその……ハジバの街から来たんだ。オレの家は元は爺さんの家だってのは知ってるだろ。最近爺さんの訃報を知ったみたいで家を訪ねて来たんだよ」

 ハジバとはランクルの街より大きい隣街だ。
 ここが森と山に囲まれたド田舎ならハジバは都会に憧れる田舎みたいなもんで、しっかりと整備された街道と商店が無数に軒を連ねる大通りがあり、旅の商人たちの宿場町になっている。

「ツィアさんと……レオ師匠? ですか?」

「そうだ。師匠の剣技はそりゃあもの凄くてな。『ファルシオン』の恩恵も持ってるし、無理いって剣を教えて貰ってるんだ」

「『ファルシオン』!? 純粋な剣の恩恵の持ち主なんてすごいですね!」

 マリネッタに褒められて満更でもなさそうな師匠。
 なんとか誤魔化せたか?
 師匠の恩恵は冒険者として活動するなら遠からずバレることになるだろうし、先に言っておいたのが功を奏したようだ。
 そっちに気を取られてラーツィアと師匠の出自については聞かれない。

 ホッとしたのも束の間、そこに気持ち悪い男が性懲りもなく突っかかってくる。

「剣技だぁ? 確かにお前の剣はお世辞にも上手いとは言えなかったからな。だが、それはお前の努力が足りないからだろ。人に教わるならまずは自力をつけろ。話はそれからだ」

 また、これだ。
 ギルド職員のくせに気に入った特定の相手にしか熱心に教えない。
 そのくせ弱い恩恵持ちには自分たちで実力をつけるまで一切面倒を見ない。
 そんな奴だから裏では嫌われてるんだ。

 本来ならギルドマスターが取り締まれば良いものをここのギルドマスターはアレだからな……。

 オレたちが黙っているのをいいことに、あろうことかセヴランはさらに調子に乗り始めた。
 大仰な手振りでギルド中に伝わるように話す。

「あんたもそこのお嬢ちゃんと同じく見る目がないな。こんな奴は冒険者として大成するはずがない。“ゴミ恩恵”だぞ。剣が上手くなったってどうせ大して変わらないさ。教えるだけ時間の無駄だ」

「……時間の無駄かどうかは私が決める。貴様が意見することではない」

 セヴランの吐き捨てるかのようなセリフに師匠は毅然として答えた。

「おいおい、兄ちゃん。俺はあんたのためを思って忠告してるんだ。その格好……見たところ冒険者ですらねぇんだろ」

 師匠はいまオレがランクルの街の服屋で買ってきた安物の服を着ている。

「経緯はわからねぇがそんなあんたが冒険者ギルドに来た。寄りにも寄ってそんな奴に連れられて」

 セヴランはオレを指差す。

「あんたは知らないだろうから教えてやってるんだ。この男の恩恵は『消毒液』。正体も意味も不明な“ゴミ恩恵”。この先強くなれる要素はどこにもない。いつまで経っても弱いままだ。こんな奴と馴れ合うメリットがどこにある? あんたもこんな奴とは縁を切った方がいい」

「セヴランさん! 言い過ぎです!」

「マリネッタ……お前だってアルコの奴が冒険者を続けるのは無理だってわかるだろ? お前だって年中心配だ、心配だ言ってるじゃねぇか」

「違います! 私はアルコさんがいつか無理をして大怪我をしないか心配で……」

「同じことだ。この男が弱いから心配なんだろ。いつまで経っても弱いまま成長しないから」

 悲しげに顔を伏せるマリネッタと反対に得意げに周囲に語るセヴラン。
 神妙な空気がギルドに流れる中、師匠の言葉が突き刺さる。

「いや、コイツは現時点でお前より強い」

「…………は?」

「少なくともコイツはお前よりは強い。お前では私の弟子に勝てない」

「ば、馬鹿な!? さっき節穴だなんだとか言ってたけど、お前の目の方がよっぽど節穴じゃねぇか! こいつに騙されてるかと思って親切に教えてやれば、俺がこんな奴より弱いだと!? 馬鹿も休み休み言え! ……さてはお前『ファルシオン』の恩恵も嘘を言ったな。本当は大して強くもないんだろうが! おかしいと思ったぜ。“ゴミ恩恵”が連れてきた男だ。どうせこいつもゴミ野郎だろ!」

 いつもの戯言なら笑って聞き流しただろう。
 恩恵が判明してからは慣れたことだし、冒険者ギルドで幅を利かせてるコイツにいちいち反応してもいい気になるだけだ。
 放っておいて相手しないのが一番だと思っていた。

 だが、いまのは違うだろ。

「あ゛?」 

「な、なんだよ。俺は間違ったことは言っちゃいねぇ」

「オレの師匠だぞ」

 オレの師匠だ。

 オレを認めてくれた人だ。

 嘘つきでもゴミでもない。

 お前如きが馬鹿にしていい人じゃないんだ。

「いいぜ。ギルドの訓練場でオレの腕前を観て貰おうじゃねぇか。……だが、覚悟しておけ。オレは以前のオレとは一味違うぜ」

 この相容れない男をぶちのめす。

 オレの頭にはそれしかなかった。
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