超絶ゴミ恩恵『消毒液』で無双する

びゃくし

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第十七話 ギルドマスター登場

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「ぐぅう……」

 目の前で無様に気絶するセヴラン。
 オーガのように身体の欠損や丸焦げにもなっておらず、意識を失っているだけで、内側はともかく外傷らしい外傷はない。
 
 どうだ上手く誤魔化せたんじゃないか?
 大規模攻撃も火も使っていないし、これなら俺が西の森を破壊した張本人とは万に一つも気づかれないだろう。

 そう思って観戦していたラーツィアたちに視線を移せば、訝しげな表情の師匠が見える。
 隣のラーツィアは俺を見て手を振って喜んでくれているのに、師匠は無表情で虚空を見ている。

 え?

 なんか間違ったかな。
 最後の突きは我ながら師匠に教わった突きの基本を抑えて繰り出せて満足していたんだけど……。
 なんで師匠は死んだ目をしてるんだ?
 
「ダーハッハッハ!!」

 突如として闘技場に響く野太い大声。
 模擬戦終わりにまだ騒がしかった訓練場の人々の視線が、一気に声の主へと集まる。

「ギルドマスター……いらしてたならどうして来てくれなかったんですか!!」

 マリネッタがその大柄な人物に詰め寄り怒る。

「いや~すまんすまん」

 どう見ても言葉だけ謝っているその人物は、レナルド・サーランド。
 ランクルの街の冒険者ギルド、ギルドマスター。
 元Aランク冒険者にして武器系統『金砕棒』の恩恵の持ち主。
 年齢は五十代くらいだろうか、いまだに現役の冒険者だと言われても納得してしまいそうな鍛え上げられた肉体は、見る者を圧倒するプレッシャーを放っている。

 そんなスキンヘッドのおっさんが、オレの方に向き直ると足元で気絶したセヴランを見て感心したように頷く。

「模擬戦を見させて貰ったが……お前随分と強いな。こんな冒険者がこのギルドにいるとは知らなかったぞ」

 いやいや、何度もギルドですれ違ったりしてるだろ。
 オレがギルドに行く度に結構な確率で罵倒されたりしてるのを見てるだろうが。

「ところでお前の恩恵は何なんだ? あの水魔法のような攻撃はお前の恩恵で放った技だろ? あんなもんでセヴランの『ウッドショートスピア』が欠けるとは、正直驚いたぞ」

「……『消毒液』だ」

「消……毒ぅ? まあ、なんでもいい。結局恩恵なんて使いこなせた奴が一番強いんだ。お前はセヴランより強かった。つまりお前の恩恵はセヴランの恩恵より強かった。それだけのことだな」

 何がおかしいのかダハハと笑うギルドマスター。
 ひとしきり笑った後に再度気絶したセヴランを見る。

「それにしても、コイツも良い奴なんだが、まだまだ鍛え方が甘いな。毎回おれの合宿も断られてるし、ここいらでガツンと鍛え直してやらねぇと」

 はぁ……そう、このギルドマスター、何を思っているのか皆目検討もつかないが、セヴランのことを良い奴と認識しているらしい。
 鍛えすぎて認識がバグってるのか?
 あからさまに強い恩恵と弱い恩恵で差別して、ギルドの権力を好き勝手に使ってるセヴランが良い奴……どこを見ればその評価になるのやらまったくわからん。

 ギルドマスターの言った合宿は、彼が個人的に行っている山籠りのことらしい。
 どうやらここら一帯の魔物は鍛えるには弱いらしく、強い魔物を求めて遠征したうえでその場所で集中して鍛錬する地獄の合宿だと噂で聞いた。

 以前新人のギルド職員が面白半分に着いていったところ、全身ボロボロの髪はボサボサ、目の下には酷い隈を作って、ほうぼうの体でこの街に帰って来たらしい。
 たった三日の出来事だが、どうやら禄に眠りもせずに鍛え続ける文字通り集中合宿だったようで、そのギルド職員は病院に一週間入院する羽目になり、ギルドマスターを見かけるだけで吐きそうになるようになったらしい。
 スキンヘッドを見るだけでもそうなるというんだから相当なトラウマになったんだろう。
 身体も心も破壊する悪魔の合宿だとギルドでは有名な噂だ。

 というか、いくら田舎で仕事のないギルドだからって、ギルドマスターが何日もギルドを空けるんじゃねぇよ。

 オレが呆れた眼差しで見ているとギルドマスター、いやレナルドは、気絶したままのセヴランをその合宿で鍛えた筋肉で持ち上げ肩に担ぐ。
 あのまま医務室にでも運んでやるんだろうな。

「コイツを鍛え直すには普段の三日の合宿じゃあ足りないな。おおそうだ、仕事はマリネッタに任せて一ヶ月くらい鍛え続ければセヴランも今度は気絶しないで済むだろう。ウンウン、それがいい」

 ……マリネッタでも一ヶ月は無理だろ。
 それより、一介の受付嬢にギルドマスターの仕事を頼もうとするな。
 合宿が心底楽しみだといわんばかりの表情でセヴランを担いだまま去っていくレナルド。
 マジで意味わからんな。

「あの大男は何者だ? 何やら話していたようだが……」

 ラーツィアを連れた師匠が嵐のように通り過ぎていったこのギルドのギルドマスターを見て問い掛けてくる。

「あー、まあ問題はない。アレはギルドマスターなんだが……ちょっとおかしい奴だからな」

「ん? そうなのか?」

「アルコさん! お怪我はありませんか?」

 レナルドに文句を言っていたマリネッタが近づいてくる。
 その顔は本気でオレのことを心配しているようだった。

「ん、ああ大丈夫だ。怪我なんてない。さっきの模擬戦を見てたならわかるだろうけど一発もアイツからの攻撃は食らってないからな。怪我のしようもない」

「アルコさん……その、すみませんでした……」

 あっけらかんと答えるとマリネッタが突然謝ってくる。
 どうしたんだ?

「現場にいたのに模擬戦を止められなかったことも申し訳ないんですけど……その……私……アルコさんがあんなに強いなんて知らなくて……」

 な、泣くなよ。

「いつもいつも、アルコさんには討伐の依頼は無理なんて失礼なことを言って……周りの人の的外れな意見を鵜呑みにして、勘違いして、アルコさんの言い分も禄に聞かないで……本当に申し訳ありませんでした」

 口元を手で抑えながら涙と止めどなく流して謝るマリネッタに、なんて声をかけたらいいかわからなくなる。
 
「その……気にするな。オレが弱かったのは事実だからな。強くなれたのはこの二人と出会えたお陰だ。……だから泣くなよ」

「ウゥ……でも……」

 なかなか泣き止まないマリネッタに困惑する。
 と、取り敢えず話を変えないと。
 そう思ったオレはさっきのレナルドの戯言をマリネッタに話す。

「そ、そういえばギルドマスターがセヴランを一ヶ月合宿に連れていくとか言ってたけど、さすがに一ヶ月もギルドを空けるなんて無理なことを言うよな」

 オレとしてはマリネッタは笑いながら同意してくれると思っていた。
 これで話を逸らせると……しかし。

「……セヴランさんには少しオシオキが必要でしたから、もし合宿に連れていくと言うなら快く送り出しますよ。一ヶ月といわず一年くらい行ってもらってもいいんですが、そうなるとギルドマスターの席も譲って貰う必要が出てしまいますからね。あんな面倒な……すみません、大変な仕事はレナルドさんしかできませんから。期間は二週間で思いっきり鍛えて貰いましょう」

 それって帰って来たらもう人格変わってるだろ。
 スキンヘッドを見るだけで発狂するようになるだろ。

 それよりニタリと不気味に笑いながら俯いて話すマリネッタの方が怖えよ!
 この娘ってこんな性格だったか?

「……取り敢えず先輩たちに根回ししないと。地道に弱みを握ってきた甲斐がありました。いまの私ならやれるはず。セヴランさんには一度地獄の端から端まで見てもらわないと……」

 目の前で物騒なことを呟かないで欲しい。
 こ、怖すぎる。
 こんな娘がいままで受付やってたの?
 
 彼女を怒らせてはいけないと本能的に感じた。

 模擬戦という予定外の出来事は無事終わったけど、身近だったはずの受付嬢の新たな一面を見てしまった。

 前途多難な冒険者ギルド……まだ二人の冒険者登録終わってないんだけど、どうしよう出直そうかな。
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