17 / 52
第十六話 男装師匠は見た
しおりを挟む私は何を見させられている?
ざわざわと冒険者ギルドが騒がしくなる。
それは模擬戦が始まる前の、罵倒の飛び交う野卑な雰囲気ではない。
未知のものに遭遇し、恐れの感情に支配された者たちの怯える気配。
それが恐ろしい速度で伝播した結果だった。
「ま、負けたのか? セヴランが? あいつギルド職員になる前はCランク冒険者だった筈だぞ! それが……あんなに簡単に負けた?」
「恩恵で作り出した武器がなぜ壊れるんだ!? インチキだ! “ゴミ恩恵”がインチキしやがったに違いねぇ!!」
「何をしたんだ? あれは魔法か? いやそんなはずがねぇ。あの“万年Dランク”は魔力なんて禄になかったはずだ! だが、あんな現象は魔法でないと説明がつかない! あれは一体何なんだ!!」
結果を信じられない者、不正を信じ目の前の現実に盲目となった者、疑いの眼差しで推し量り真実から遠ざかる者。
ギルドを訪れた時よりもより大きな混乱とうねりが観戦者たちを包んでいた。
「やはりアル様はお強いですね! これで皆さんにもアル様のすごさがわかっていただけます!」
隣で無邪気に喜ぶ姫様。
今日も可憐です。
……私も姫様のように素直に喜べればどれだけいいか。
先程見せられた不可思議な光景の数々に、私もこの場にいる者たちのように目の前で繰り広げられた現実を否定したくなる。
だが、残念ながらそんな現実逃避はできない。
あれは紛れもなく実際に起こったことなのだから。
思い出す。
この戦いのはじまりを。
私の想像を遥かに超える戦いを。
はじまりは下品な男が現れたところからだ。
まあ、その前からこの冒険者ギルドの奴らは気に食わない奴ばかりだったが、特にそう、セヴランと名乗る中年男。
執拗にバステリオに絡んでくると思ったら、意味もなく模擬戦を提案してくる。
お前のような小物がバステリオに敵う筈もない。
そもそもコイツはオーガを瞬殺したんだぞ。
最早私ですら敵うか怪しい相手に、お前如きでは戦いにすらならないだろう。
さらに、この下品な男は私に忠告といって禄に中身のない情報を教えてくる。
別に聞いてもいないことをペラペラと得意げに……。
「いや、コイツは現時点でお前より強い」
気付けばこの男に不都合な真実を教えてやっていた。
……口が滑ってバステリオのことを弟子と言った気もするが……忘れよう。
「オレの師匠だぞ」
……怒りを滲ませて師匠を守ろうとする姿は、まあ嫌ではなかったけど……。
姫様に激励されたバステリオが訓練場の中心に向かう。
相対する下品な男の手元には恩恵で作り出された『ウッドショートスピア』。
武器を生成する恩恵は強力だ。
見たところ木製の槍を作り出す恩恵のようだが、あんなものでも普通の金属製の武器防具なら容易く破壊できる。
バステリオの装備する武器では打ち合っただけで破壊されてしまうだろう。
マリネッタとかいうやたらとバステリオをチラチラと見てばかりいる受付嬢が、開始の合図の銀貨を投げる。
地面に銀貨の落ちる寸前、下品な男が恩恵技を発動した。
それは自らの恩恵で生成したものを射出する恩恵技の基本の技だが、バステリオ相手には有効だった。
だが、既の所でバステリオは前転し回避する。
……ふぅ、心配させるな、まったく。
再び彼らは向かい合う。
私はてっきりバステリオはオーガを押し流した洪水を放つものと考えていた。
あの下品な男を押し流し訓練場の壁に激突させて模擬戦は一瞬の内に終わる。
だが、そんな浅はかな予想など私の弟子は実現してくれない。
「『消毒液光線』」
……恩恵の生成物は普通の手段ではまず破壊できない。
それは最早常識だ。
生成物同士でぶつかり合う、またはそれなりの硬度、強度を誇る魔物の外皮や甲殻と打ち合うことでも欠けることはある。
だが、あれは何だ?
バステリオの操る液体も一応恩恵の筈だ。
そう、液体だぞ!
どうやって固体、それも恩恵の生成物を砕く?
あの細い水流のようなものになぜそんな威力がある?
わからない。
わからないことだらけだ。
『消毒液』の恩恵が特段優れているのか?
姫様の吸魔の指輪があの現象を引き起こしたのか?
……多分どちらも微妙に違うだろう。
バステリオだ。
私の弟子があの結果を生み出している。
それがわかったところで私にはこの模擬戦を最後まで見守るしかない。
ただもうあの下品な男が勝つ可能性は一ミリもないと、この時点で確信していた。
「『消毒液半固体粘体壁』」
液体だっただろ!
なんでぐちゃぐちゃとした形に変わるんだ!
それでなぜ恩恵技を止められる!
地面から無数に伸びる木製の槍。
恐らくはあの下品な男が修練の果てに身に着けた必殺の一撃。
確かにヒヤリとはした。
危険だと身を乗り出して観戦していた。
何なんだよ。
私の心配を返して欲しい。
あの恩恵はどこまで幅のある使い方ができるんだ。
私はこの時点で思考することを放棄していた。
「『消毒液螺旋突き』」
……私の軽く教えた突きを最後に繰り出したのは褒めてやってもいい。
恐らく威力を抑えたのだろう。
吹き飛ばし訓練場の壁にぶつける程度に留めた判断は正解だと言っておこう。
下品な男の腹に風穴が開いてないからな。
ただ、バステリオ、お前は恩恵を使いこなすまでが早すぎる!!
恩恵技を連発するんじゃない!
私ですら新たな技の開発には数ヶ月、数年かかることもある。
ファルシオンを射出する『ファルシオン・ファング』だって数ヶ月の時を必要としたんだぞ!
あいつは私の怒りにも似た感情を知ってか知らずかこちらに顔を向ける。
向き直った私の弟子の表情は……あの不敵な笑みだった。
思わず目を逸らす。
はぁ……どうやら私の弟子は師匠を困らせる悪い弟子らしい。
私はこの先に待ち受けるであろう困難に頭を抱える。
だが不思議と最悪な気分ではなかった。
予想もつかない光景の連続は思いの外楽しかった。
0
あなたにおすすめの小説
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
盾の間違った使い方
KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。
まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。
マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。
しかし、当たった次の瞬間。
気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。
周囲は白骨死体だらけ。
慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。
仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。
ここは――
多分、ボス部屋。
しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。
与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる
【異世界ショッピング】。
一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。
魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、
水一滴すら買えない。
ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。
そんな中、盾だけが違った。
傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。
両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。
盾で殴り
盾で守り
腹が減れば・・・盾で焼く。
フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。
ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。
――そんなある日。
聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。
盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。
【AIの使用について】
本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。
主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。
ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる