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第十九話 孤児院
しおりを挟むオレの育った孤児院はランクルの街の外れにある。
といってもオレの家のように周囲に民家の一つもない孤立した場所じゃない。
危険こそ少ない立地だけど、街の中心部からは外れていて多少不便な土地。
地価も安く治安もお世辞にもいいわけではないけれど、それでも孤児たちを預かるに十分な広さがある。
「随分大きい建物だな。古い教会を改修してあるのか?」
「周りの建物と比べても遠くからでも目立つくらい高いですね」
「そうなんだ。だから建物の大きさだけは広い。この孤児院には院長先生といまは八人の子供たちがいるけど、それでも持て余すくらい部屋も多いし、子供たちが遊び回れる広場もある」
周りを高い塀に囲まれたこの孤児院は、かなりの改修というか手が加えられていて、手製の遊具の設置された広場や家庭菜園なんかもあり、生活感に溢れている。
「うぉおお、たりゃああ」
簡素な門を潜れば、広場で木の棒を振り回して訓練ごっこにいそしむ十歳位の少年がいた。
「お、ライカス。今日も元気だな」
「む、アルコか!」
「院長先生はいるか? 聞きたいことがあって来たんだが」
「うるさいっ! オレは鍛錬に忙しいんだ! アルコなんかには教えてあげない! べーっだ!」
ライカスはオレの問いかけにムッとした表情を見せるとそそくさと立ち去ってしまう。
「……随分とまあ、舐められてるな」
「どうしてアル様を避けるんでしょうか……」
「あー、ライカスは最近オレの恩恵のことを誰かから聞いたらしくてな。以前は懐いてくれてたんだが……冒険者に憧れているアイツにとってオレが“ゴミ恩恵”だったのはショックだったんだろう。別に隠してた訳ではないんだがある意味裏切られたと思ったんだろうな」
「そんな……アル様は本当はお強いのに……」
ラーツィアは自分のことのように悲しんでくれるけど、前までのオレは本当に弱かった。
その噂を聞いたライカスがオレを避けるようになっても仕方ないことだ。
……また以前のような関係に戻れるかはわからない。
でも、ラーツィアから譲り受けた吸魔の指輪があれば……。
「おや、アルじゃないか。また来てくれたのかい」
「ああ、院長先生」
走り去っていってしまったライカスの背中を眺め、物思いに耽っていた時、不意に声をかけられる。
振り返ればその相手は探していたこの孤児院の院長先生だった。
すっかりと髪に白いものが混じった院長先生は、ギルドマスターと同じ五十代くらいの年齢の女性。
手には洗濯物と思わしき衣類を籠に入れて持っていた。
「この間は子供たちのためにわざわざ薬草を取って来てくれてありがとうね。お陰でやんちゃな子たちが怪我をしても安心できるよ」
「いや、ギルドの依頼のついでだから別にいいんだ」
「ふふ、そんなこといっていつもはぐらかすんだからね、この子は……。この間だって森で取れる食料を持ってくれた。依頼がなくても孤児院の子供たちのために助けてくれる。アルが顔を見せてくれるだけで皆大喜びさ。……顔も見せないレットたちとは違う」
レット、か。
「……ライカスには嫌われちまってるけどな」
「そんなことないさ。あの子も本当はわかってる。アルが大切な家族の一員だってね。あの年頃だから素直になれないだけだよ」
そうだろうか……そうだといいんだけどな。
「ところでそちらのお二人は紹介してくれないのかい。アルがお客様を連れてくるなんて珍しいから気になっていたんだけど」
「ああ、この二人は……」
騙すのは心苦しいけど、院長先生には冒険者ギルドでしたのと同じ説明をしておいた。
ここから情報が漏れることはないとは思うけど、誰が聞いているかわからないからな。
「ツィアさんとレオ君かい。私はイメルダ。この孤児院の院長をさせてもらってる。アルは気難しい子だけどよろしく頼むよ。本当は優しい良い子なんだ」
「はい! アル様のお優しいところはいっぱい知ってます! わたしの方こそよろしくお願いします!」
「い、一応師匠だからな。多少の面倒ぐらいは見てやる」
院長先生はオレが孤児院で世話になっていた時からの付き合いだからなんだか改まって言われると恥ずかしいな。
と、取り敢えずここに来た目的を話さないと。
オレはラーツィアたちの探し人であるジルバという人物について院長先生に尋ねる。
院長先生がここに孤児院を開いてからかなりの年数が立っているはずだ。
このランクルの街の人にも知り合いが多いし、何より顔が効く。
オレの知る中で最も物知りな人だ。
「ジルバ? う~ん、悪いけど聞いたことないねえ」
「マジか……院長先生なら何か知ってると思ったんだけど……」
「あとはそうだね。この街は王国から見たら辺境だからね。訳ありの人もたまにだけど居着くこともある。……もしかしたら偽名を名乗っていてもおかしくない。探し出すのは相当難しいだろうねえ」
偽名か……。
だが、この街の外から来た人……それがヒントになるかも知れないな。
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